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正夢が見れるなら高次元世界でも無双できる?  作者: ブルーギル
第3章 王座争奪戦
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37話 覚醒

『時谷選手相手によく頑張っていた七道選手ですが、ここでリタイアです!! 最後はフィアス選手のように倒れてしまいました。保健室に運ばれましたが、大丈夫でしょうか……?』


『青チーム、七道選手、脱落です』


「小雲先輩……! まずい、もう時間がない、早く残りの一人を見つけないと……あっ、いた!!」


「ひいっ!!」


 黄色いバンダナの選手が俺から逃げてゆく。


「逃がすかっ……!!」


 タッタッタッ!!


「あとちょっと……!!」


 タッタッタッ!!


「ようやく追い詰めたぞ……!」


「い……いや……!!」


「これで……俺達の優勝だ!!」


 俺は黄色い選手のバッジにめがけて杖を突く。


 シュンッ!!! パシンッ!!!


 しかし、杖でガードされてしまった。

 その選手の杖ではなく、突如現れた時谷未来の杖に。


「な……!? いくらなんでも到着が早すぎるだろ……!!」


 その隙に、黄色い選手はその場から逃げる。

 時谷が俺の前に立ち阻む。


『時谷選手、なんとまるで瞬間移動したかのように素早く移動!! 九重選手は間一髪のところで優勝を阻まれてしまいました!!』


『九重選手はもう、時谷選手を倒すしかなくなったのう』


「あれ……俺はもしかして……とんでもないチャンスを逃したのでは……」


 ――そもそも大将戦で2位でも優勝できた理由はなんだっけ。

 それは、先鋒戦と中堅戦のptがたくさんあったからだ。


 ――先鋒戦と中堅戦でptがたくさんあった理由はなんだっけ。

 それは、先鋒戦で菊音さんがたくさんの敵を相手に奮闘し、ジョニー先輩がきっちり最後の相手を仕留めて1位を獲ったからだ。中堅戦で五条先輩がすぐに勝負に出たことで、三橋さんが異変に気付き、見事に1位を掴んだからだ。


 ――俺が朝日さんに倒されていない理由はなんだっけ。

 それは、準決勝で心乃さんが朝日さんのマナを削り、決勝でフィアスが俺を護って朝日さんを倒してくれたからだ。


 ――俺がさっきまで時谷と対戦しなくて良かった理由はなんだっけ。

 それは、時谷が足止めされていたからだ。

 

 ――時谷が足止めされていた理由はなんだっけ。

 それは、雪夜が準決勝で時谷の能力を暴き、決勝でフィアスがそれを体感して俺と小雲先輩に伝え、怪我を負っている小雲先輩が必死に食い止めていたからだ。


 俺は……みんなが限界を超えて生み出した、かけがえのないチャンスを棒に振ってしまった。


 みんながこれまでしてきた特訓、なんとか勝ち上がってきた試合、そして雪夜の言っていたたくさんの夢…………みんながあとちょっとのところまで積み上げてくれたのに……俺は1人で全部を崩してしまったんだ……。


「……ごめん……ごめんなさい…………みんな……」


 まだ負けてもいないのに、涙が止まらない。

 決勝前、みんなはどんな結果になっても責任は感じなくていいって言ってくれたけど、実際、戦犯になるとこんなにも辛いんだ。心が張り裂けそうになるくらい辛いんだ。みんなが積み上げてくれたものを壊してしまった弱い自分が憎くて情けなくて、心底嫌いになるんだ……。


(糸くんは自分ができることを一生懸命すればいいのよ。それだけで、十分に価値があるわ)


 あれ……これ、誰の言葉だっけ……。

 自分ができること……か。ごめんなさい、やっぱり俺には何もないんです。いつもいつも誰かに助けられてばかりなんです。

 みんなは、俺なんかのいるところよりも遥かに高い次元で戦っている。俺もそこに辿り着きたくて頑張って努力はしてみてるけど、その間にみんなはもっともっと先へ進んでしまうんだ。


 どうして俺には才能がないんだろう。誰かを幸せにできる力を持っていないんだろう。

 こんな現実、夢ならいいのに。いや、むしろ俺の描いた自由な夢が、現実になってしまえばいいのに。


 ……きっと、夢の中の俺はとっても強くて、みんなの期待を裏切らないんだろうな。誰かを護ることができて、かっこいいんだろうな。

 

 これは夢……? それとも現実……?


 理性がぐちゃぐちゃになった俺は意識を失い、目を閉じて、潜在意識の門をくぐった。


 

 …………



(目を閉じている。勝負を諦めたのかな……)


 時谷は立ち尽くしている俺のバッジを狙って杖を突く。


 シュッ……パシンッ!!!


「……!」


 時谷の未来を見た攻撃を、俺は杖で振り払った。


 シュッ……パシッ!! パシパシッ!!


『な、なんと九重選手、時谷未来の連続攻撃を目を瞑りながら防いでいます!! 未来を見ると言われている時谷選手を相手に、ここまで真っ当に渡り合えた人がいたでしょうか!!』


『あの緑色の杖の力……いや、それだけじゃ説明できん……。わしには、時谷選手が手を抜いているとしか思えん……』


 この光景は、観戦していた者全てを驚かせた。

 控室のチームメイト、脱落者が転送される部屋で観戦していた朝日さんですら、驚きが隠せないでいた。


 しかし、たった二人、こうなることを想定していた者がいる。


「……これが、私達が引き出そうとしていた本来の糸くんの力なのですね」


「ああ、これで彼は高次元世界の闇にも立ち向かえる。弥生くんも、色々とお疲れ様だったね」


「疲れました、本当に。でも、これで私の頼れる人がまた一人増えました」


「これで私がいつ死んでも、君は一人では無くなるね。少し肩の荷が下りたよ」


「縁起でもないことを言わないでください。辛い世界に引きずり込むのは少し気が引けますが、彼ならきっと私達の救世主になってくれますから……」




「時よ止まれ……!」


 カチカチ……カチ…………カチ……


 時谷は未来予知を超えた俺の動きに対して、遂に時を止めた。

 しかし、時谷はうまく動けないでいた。


(……体が…………)


 時を止め、さらにそこから動くには相当のマナが必要である。

 フィアスも、小雲先輩も、一瞬動くだけでほとんどマナが空になったほどだ。これは時谷にも例外ではない。

 時谷は小雲先輩との戦いで何度も何度も時を止め、さらに俺の前に瞬間移動するために相当のマナを消費していたため、既に限界に近づいていた。


(…………)


 時谷は息ができない止まった時の中でユラユラと動く。力の入らない手で杖を精一杯握り、俺のバッジを狙う体制を取る。


「時は……動き出す……」


 カチ…………カチ……カチカチ


 だが、俺には全て見えていた。

 いや、見えていたというより()()()()()

 俺の潜在意識はまるでこの世界の歴史と繋がっているみたいで、過去と未来、そして現在の情報を、物入れから出し入れするように得ることができる。

 

 ただ、あくまで潜在意識なので、顕在意識に全てが転送されるわけではない。たまに夢としてなんとなく覚えている程度だ。しかし、潜在意識下では、必要に応じて降ってくる。時谷が現在という時を止めてどう動くかも、世界の歴史にインプットされていた。


 つまり、読み合いなら【時間の次元】による時谷を超えていた。したがって、俺は時谷が時を止める前から、次の行動へと移ることができていた。


 パシンッ!!!!


「……っ!!」


 シュッ……パリンッ!!!


 俺は、時谷の杖を払い飛ばし、バッジを割った。




『と……時谷未来、脱落だああああ!!!! 過去5年間、1度もバッジを破壊されたことがなかった時谷が、最後の最後でパーフェクトを阻止されました!! なんと勝者は、1年Cクラスの九重糸! まさに大金星です!!!』


 ワァァァァァァァァァァッ!!!!


『また、たった今黄チームの味選手がタイムアップで脱落となったため、九重選手の大将戦1位が確定しました!! チーム27、見事に先鋒戦・中堅戦・大将戦で1位を獲り、堂々の優勝です!!!』


 ワァァァァァァァァァァッ!!!!

 パチパチパチパチパチパチ!!


「俺達、ゆ……優勝……したのか……?」


 控室のモニターで、一ノ瀬先輩があっけに取られている。


「優勝……しましたよね……」


 すーーーーっ


 ジョニー先輩が息を大きく吸う。


「イエエーーーーーーーーィッ!!!!」


「うおおおおおおおお!!!!!」


「やったああああああああああ!!!!!」



 …………



 トントン


「……えっ!?」


「もう終わったよ」


 時谷未来がフィールドで立って寝ていた俺の肩を叩いて起こしてくれた。


「あ……すみません……。……あの、結果は……」


 時谷は胸の壊れたバッジを見せる。


「俺のバッジは壊れていない……ってことは……」


「うん。でも負かした相手に聞くのはどうかと思う」


「す、すみません!!」


 俺は戦っていた間の記憶が全くなかった。

 それに対して、時谷は少し柔らかい表情で尋ねてきた。


「貴方、変わってるね。名前は……」


「九重です……」


「……九重。おめでとう」


「あ、ありがとうございます」


「じゃあ、またあとでね」


「え?」


 時谷はそれだけ言い残してゲートへと帰って行った。


 そして俺もゲートへと帰り、みんなと泣いて喜びを分かち合った。小雲先輩は保健室で足の容態が悪いと判断され、病院に運ばれたからここにはいなかったけど、早く知らせたいな。


 そしてメイングラウンドで閉会式が行われた。

 表彰で、一ノ瀬先輩が優勝カップを受け取り、チーム全員にメダルが送られた。


 大会のMVPには、優勝チーム以外から一般の投票によって1人、そして学校の独自な選考によって1人の合計2人が選抜される。

 それにはそれぞれ、フィアスと雪夜が選ばれた。フィアスは決勝で見せたあらゆる次元を超越した猛攻が観客の心を揺らした。雪夜は、1年生ながら6年生の時谷と白熱した戦いを見せたという理由で選出された。


 雪夜はその場で表彰されたが、マナ切れで保健室で手当てされていたフィアスは、後日の賞状が渡されることとなった。

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