56_セリカと美少女の家庭訪問
「おい!おめえら、自分ちのかあちゃんが美人だと思うやつ手を上げろ!」
帰りのホームルームの時に、佐伯が言った。
みんな警戒して誰も手を上げない。
「美人妻の家は優先的に家庭訪問する!それ以外のやつは『家庭の事情』でなんとかしろ!」
「「「やっぱ、この先生、最悪だ・・・」」」
クラスのみんなの心がシンクロした瞬間だった。
そうか。
新学期を迎えて、各家庭を教師が家庭訪問する時期なのか。
うちは、父さんがアメリカへ長期出張(単身赴任?)中なので不在だ。
さくらに至っては、身寄りがない。
「よかった。じゃあ、俺たちは『家庭の事情』で・・・」
「・・・ですね」
さくらとほっと胸をなでおろした時だった。
「あ、鳥谷部と堀園は強制な!」
「げっ!なんで!」
「鳥谷部!いま、『げっ!』って言ったな『げっ!』って」
・・・後で職員室に呼び出された。
■職員室
「まあ、なんだ、お前たちは親じゃなくて、『後見人』だから、一応見に行っとけってな・・・」
目の前で、佐伯が職員室の自分の机についている。
俺とさくらは、その横に立っている。
一応職員室で話すところ、個人情報保護を意識したのかもしれない。
ただ、俺とさくらはまとめて説明されてるし・・・やっぱり佐伯は雑だ。
「『行く』じゃなく『行っとけ』って?」
「まあ、学年主任からな・・・教師とはいえ、サラリーマンだから、上司には逆らえないんだ」
それを生徒に赤裸々に言っちゃう佐伯って・・・
「お前らん家は、来週月曜に行くから、後見人を呼んどいてくれ。都合悪けりゃ、土曜でもいいぞ」
「まあ、ちょっと見に行くだけだから5分、10分で帰るから」
「うちは、週末休みにくい仕事をしているので、月曜で大丈夫です」
栞さん、高級外車の営業だからな。
基本、土日は働いていることが多いみたいだった。
「そうか、時間は都合ついたら教えてくれ」
「はい」
「堀園は?」
「うちも月曜日で大丈夫です」
「そっか。助かるぜ」
当然だ。
俺とさくらは同じ家に住んでいるのだから。
しかも、後見人も同じ栞さんだ。
何となく、佐伯はその事実に気づいてないっぽい。
まあ、いいか。
別に悪いことはしてないし。
栞さんにお願いしないとな・・・
また有給取るか、早退かさせてしまうのか。
■■■家庭訪問当日
なんたって、この佐伯哀弥が、外回りしなくちゃいけないんだ。
しかも、一人暮らしの野郎の、穴倉みたいなとこに・・・
『めんどくせぇ』と思いつつ、リストに書かれた住所の家は、一軒家だった。
あいつ一人暮らしだろう!?
ボロアパートを想像してたのに・・・
「げぇ!なんだよこの車!」
家の駐車場に停まってる車は、何千万円もする超高級外車。
ちきしょう。
鳥谷部のやつ、金持ちのボンボンだったか。
住所の場所に間違いないよな・・・と思いつつ、チャイムを押す。
(ピンポーン)『はーい!』
若い女の声が出やがった。
(ガチャ)ドアが開いたときに俺は焦った。
そこにいたのは、鳥谷部ではなく、堀園だったからだ。
「え?え?俺、間違えた!?」
「先生、いらっしゃいませ。中にどうぞ」
「いやっ、いや、この時間は鳥谷部ん家に・・・」
そう言いながらも、JKに案内されたら俺はどこにだって着いて行く。
俺は意志の弱い男だから。
「あ、ご主人様、佐伯先生来られましたよ」
(すぱーん!)「あふん♪」
「『ご主人様』って呼ぶなって言っただろ!」
「でも、ここは家ですし・・・」
「家でもおかしいだろ!」
「でも、私、もう結婚できる年齢ですし(ぽっ)」
(すぱーん!)「あふん♪」
「そこで赤くなる理由が分からない!」
おいおいおい!ここはやっぱり鳥谷部ん家で合ってるじゃねーか!
なんで堀園が可愛いエプロン付けているんだよ!?
そう言えば、堀園は誰かの許嫁とか言ってたな。
もしかして、鳥谷部なのか、その相手って。
それにしたって、自分の彼女に『ご主人様』なんて呼ばせてるのかよ!?
とんだ変態野郎だな、鳥谷部。
内申書に、あることないこと書いてやろう。
「あ、栞さん、こっちです」
「ねえ、ホント?ほんとに許してくれる?この間のこと!ちょーーーーっとだけ、気が緩んだだけなの!」
そう言いながら、廊下で若い女が鳥谷部の腰に縋るように許しを乞うていた。
「だから、手紙見た時点で許してましたって!」
「ほんと!?幻滅してない!?ぷしゅーってがっかりする音が聞こえたけど!?」
「そんな音は存在しません!それより、先生が・・・」
「・・・」
目線が会う3人。
俺と若い女と鳥谷部だ。
なんだ、鳥谷部のやつクラスメイトを家に連れ込んだと思ったら、別の女もいるのか!?
こいつ相当ヤバいな。
「いらっしゃいませ、先生。リビングへどうぞ」
すげえ、この女、すっくと立ったら、さっきのことをなかったことにしやがった!
「はい、失礼します」
俺はなにも見なかった。
それがトラブル回避の鉄則だ。
とりあえず、案内されるままにテーブルについた。
(コトリ)「コーヒーです」
「あ、いや、お気遣いなく・・・」
なぜ、鳥谷部の家で、堀園がコーヒーを持ってくる!?
美少女JKの淹れたコーヒーは飲みたいが、今のご時世、コーヒー1杯でも賄賂とか言われて、大変なんだよ。
学年主任からも、お茶やおかしに手を出すなって言われてるんだよ!
しかも、目の前には俺とたいして年齢が変わらなそうな美人が・・・なんかすげえ高そうなスーツ着こんでるんだけど・・・
「初めまして、セリカの後見人、小井沼栞と申します」
さっきの廊下でのぐずぐずぶりと打って変わって、『できる女』だ。
「初めまして、セリカくんの担任の佐伯哀弥です」
「・・・」
「・・・」
鳥谷部!間に入って何か説明するとか、何とかしろよ!
なぜ、キッチンで堀園と話してるんだよ!?
だから、何で堀園はここにいるんだよ!?
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