48_六連星朱織の宣戦布告
学校の放課後、セリカくんが職員室に呼ばれた。
保護者が親ではなく『後見人』だから、書類が必要らしい。
私も同じ条件だから、後日呼ばれるのかもしれない。
私は食堂のテーブルについて、セリカくんを待っていた。
手持ち無沙汰だったので、とりあえず食堂の自販機で紙パックのジュースを買った。
『ロシア風イチゴジャム入り紅茶』
なんか、すごいのを買ってしまった・・・
ストローを刺して一口飲んだとき、もう一度同じことを思った。
あの自販機は、中々攻めた商品ラインナップ。
また買いに来きましょう。
セリカくんをぼんやり待っていると、目の前から長いツインテールの少女が歩いてきて目の前の席に座った。
六連星朱織さんといったか。
クラスの女王様的な存在。
たくさんあるテーブルの中で、しかも私の目の前に座ったということは、私に用事があるということだろう。
「堀園さん、それ美味しそうだね。朱織に一口ちょうだい」
「どうぞ」
どうぞ、と言ったときには、六連星さんは、もうストローに口をつけていた。
中々の女王様。
六連星さんが一口飲んだ後、ジュースが目の前に戻ってきた。
「あ、朱織、これ好きかも。堀園さん、全部ちょうだい」
ここで、この笑顔。
やっぱりすごい。
「どうぞ」
「わーい、堀園さんありがと」
(ちゅーーーーー、ぞぞぞぞぞ)
一気飲み・・・
「堀園さん、笑顔が可愛い」
「ありがとございます」
ここで六連星さんの顔が近づき、表情が一気に冷たくなった。
「でも、お人形みたいでつまんない」
一言だけ言ったら、まだ椅子に戻った。
「この顔は、生まれつきですから」
「・・・」
「・・・」
重たい沈黙。
「鳥屋部くん、最近急にかっこよくなったね」
「皆さんが気づかなかっただけかもしれませんね」
「晄士には負けるよね?」
『晄士』とは、豊田晄士さんだったか。
六連星さんの彼氏さんだったかな。
「さて、どうでしょう?」
「朱織ね、一番が好きなの。何でも一番を集めてるの」
「いいご趣味ですね」
「鳥屋部くんいいね。朱織にちょうだい!」
「セリカくんは、イチゴ紅茶ではありませんので」
「本人がいいよって言ったらいいの?朱織取っちゃうよ?」
一番弱いところを、的確に見つけ出し、突いてくる。
天性のいじめっ子。
根っこからのいじめっ子だろう。
その容姿の可愛さから、周囲に甘やかされて育ったのが予想できる。
まさに女王様。
「鳥屋部くんもーらいっ」
「ダメ―っ!セリカくんは私のーっ!」
「堀園さん、そんな顔もするんだね。ふふ、お人形さんじゃないんだ」
ニヤリと笑った顔。
「・・・」
「朱織は、そっちの方が好きかな。お友達になれそうね。堀園さくらちゃん」
「ご期待に添えますかどうか」
六連星さんは、長いツインテールを翻して行ってしまった。
■その後、豊田晄士の家では・・・
「(えぐえぐ・・・)ふえーん、晄士ー!なぐさめてー」
「どうしたんだい?朱織」
豊田晄士が六連星朱織の頭をなでる。
朱織は、猫が頭をなでられた時のように、目を細める。
「堀園さん、めちゃめちゃ怖かった・・・」
「どうせ、また朱織からちょっかいかけたんだろう?」
「違うの!堀園さんとお友達になりたかったのー!」
「珍しいな。朱織が。それでどうだった?」
「うん、堀園さんとってもいい子だった。可愛かった。」
「そっか、じゃあ、仲良くしないとな」
「うん♪」
六連星朱織の笑顔は花が咲いたようだった。
■その頃、鳥屋部家では・・・
いつものリビングのソファの上で、さくらが体育座りをしていた。
「セリカくん・・・」
「どうした?」
「怖かったー!」
半べそで、さくらが抱きついた。
しばらく収まらなかったので、セリカは、さくらの背中を撫でたり、頭を撫でたりして、何とか落ち着かせたのだった。
「何があったの?」
「(ふるふるふる)いいの。それより、セリカくんは、私の許婚兼恋人ですよね!ですよね!?」
「ああ、そうだよ?改めて言われると照れるけど・・・」
「いいんです。それならいいんです。今度、ロシア風イチゴジャム入り紅茶を買ってください」
「なんだそりゃ?まあいいけど・・・どこに売ってるの、そんなの」
実はこのお話超好きです。
六連星ちゃん好きかも。
次回更新は・・・本日10時です。