言葉がでません
夏休みが終わった。激レアメロンパンを手に入れてホクホクするわたしの横をナギが歩く。
「なんつーか、かわんねェなオマエ」
「ナギもね。お、ピアス一個増えてんじゃん」
サラリと揺れたダークブラウンの隙間からピアスが控えめに光った。
「山内ィ」
「げ....せんせーどうしたんスか」
ズンズンと肩で風を切るようにして近寄ってきたのは生活指導の先生だった。ナギは一瞬面倒な顔をして、ちらり、逃走経路を確認した。
「休み中は楽しかったようだな?学校始まったからには大人しくしてろよ」
「その節はどうも」
え、なにやらかしたんおまえ...。
静かにドン引いていると、制服を大きく着崩した男子が数人横切った。先生の意識が逸れたのを見て、ナギがさっと頭を下げて話を切り上げる。ポンと背中を叩かれつられて歩き出した。
「いいの?」
「あー。いんじゃね?メシメシ」
確かにメシのほうが大事だな。
「なんかやったの?」
「あー?」
「夏休み中」
「いやー?」
ポン、ポン。ボールを蹴り合う。さっき授業でやったな。あれだ、平安時代の蹴鞠。お貴族たちの遊びみたいな感じ。
「ふーん。じゃ、周りの目が変なのはまた別のこと?」
「変、ねェ」
そうなのだ。休みが明けてなにが変わったって、ナギを見る目だ。どこか遠巻きに、ときに嫌そうに、ときに輝かせて。変だ。休み前は、ここまで露骨じゃなかったはずだ。
「オマエ、ボケーっとしてるかと思えばそうでもねェよな」
「唐突な暴言にびっくりだわ。え、なになに」
「おれ、学校の外で会ってるやつらいるじゃん」
「スルーかよ...うん」
知ってる。幼馴染だっけ?みんなで集まって、体動かしたり駄弁ったりしているらしい。
部活には入りたくないけど運動したい。できれば気心知れたメンバーで。ナギと同じような人がいるのだろう。つまり...体動かすのが大好きなちょっとヤンチャな男子たち...?
「普通に遊んでたら、急にへんなやつらが乱入してきたんだわ。んで、気づいたら小競り合いになって、気づいたら突っかかってきたやつらが逃げてったってだけ」
「具体的に」
「何発か殴ったし蹴った。ただおれらは正当防衛を主張する」
人殴るといてーのな、なんてブラブラと手を揺らしてナギは笑った。
少し離れた治安の悪い街で、一つの暴走族...チーム?が頂点にたちまとめ上げた...らしい。それに触発されたのか、この街でもチームの活動が活発...になっているらしい。中でも一番勢力が強いのが、コウリュウ...というチームで、街の治安を良くしようとパトロール...しているんだと。そして、そのコウリュウ...のセンサーにナギたちが引っかかったらしい。注意したら反抗され、血が上って手を出したら反撃されて、以降睨まれている...らしい。この学校にもコウリュウ...のメンバーがいたり、そのチームに憧れてるひとがいたりして、それでこの空気らしい。
...と、いうのをカワグチさんが言っていた。
自主的に聞いたわけではない。掃除をしていたときにカワグチさんが来て、ペラペラと話していったのだ。
最初だれかと思った。なんかうるさいなーと思ったら、聞いてるの?と怒られた。あ、わたしに話してたんだね...。
すごい話だった。ツッコミどころが多すぎて言葉がでない。脳内でさえ、コウリュウ、だとかパトロール、だとかの単語がでると、一瞬言葉が止まるくらいだ。
つまりなんだ?どういうこと?高校生が集まって治安を守るとかいって喧嘩してんの?
え???????なんで?????