雨は降り続く
「百瀬さんってば」
ポン、と肩を叩かれてはっとした。あれ、呼ばれてたか。気づかなかった。
「ごめんね。なに?」
隣の隣の列の子が指で扉のほうを指した。
「川口って人が呼んでたよー」
「カワグチさん....うん、わかった。ありがと」
ふーん。誰だろ?
男か女かもわからない。なんかしたかな?と思いつつ扉を開けると、女の子がドーンっと立っていた。おおう。
「百瀬さん?」
「あ、はい。百瀬です」
窓の外はザーザーの雨が降っていてひどく暗かった。梅雨ってほんとうに雨がひどいね。ジメジメするし、洗濯物も乾きにくいし。
外で遊べないから、最近のわたしとナギの遊びは室内でできるものに偏っている。
「ごめんね急に。聞きたいことがあって」
「はぁ」
窓からカワグチさんに視線を戻す。少し扉の前から移動していたので、たしかに邪魔だよなとわたしもズレた。カワグチさんは肩におちた髪をぱっと後ろに払う。
「百瀬さんって渚くんと付き合ってるの?」
「なぎさく...ナギと?いや、付き合ってないけど」
付き合う。わたしとナギが。唐突にでてきた話題に面食らいながらも否定すれば、用心深くわたしを観察していたカワグチさんがパッと顔を輝かせた。
「そうなんだ?よかったあ。あ、友だちがね?二人って付き合ってるのかなあってすごい心配してて...あっ言わないでね!?秘密だよ?でもそっか、ふーん。渚くん、かっこいいでしょ?みんな気になってたんだよ。百瀬さんと仲良いみたいだから不安で...でも、百瀬さん、好きじゃないんだ?じゃあ応援してくれるよね。よかったぁ」
....???
バーーっとそれこそ雨のように降りかかった言葉にポカンとしていると、カワグチさんは華奢な腕につけたシルバーの可愛らしい時計をぱっとみて、
「ありがとね!またね、百瀬さん」
満面の笑みを投げかけてさっさと戻っていった。
なんだったんだろう...?