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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

《短編》龍滅姫

作者: aka

 私が私であるために、私がするべきことは一つだけ。

 その一つのことに迷いを持たず、やり続けることでしか存在理由は満たせない。

 例えそれが同族殺しの禁忌に触れようとも。

 例えそれが親殺しの禁忌に触れようとも。

 私がここに存在する理由はそのためだけにある。

 心を冷まし、心を無くし。

 ただただ機械のように使命を遂行する。

 来た道は振り返ることはなく、前にいる敵をこの力をもって排除する。

 それが龍滅姫の使命。

 それが龍滅姫としての私。

 私はルーシア帝国の【龍滅姫】。

 私は【龍滅姫】ルナ。

 この世の破滅をもたらす我が同胞に牙をむき、いざ戦場へと参らん。





☆☆☆☆☆







 銀雪が積もる極寒の地ルーシア。

 全ての生命が生きるために暖を取る中、一人の青年が歩いていた。

 青年の名はシモン=ブレイブバード。

 極限の環境の中を難なく移動するために、防寒のための重装備でその身を包み込んでいて容貌は見えないが、帽子とマフラーの隙間から見せる眼光は鋭く、まさに戦士の目をしていた。

 その訳は彼は生粋の狩人であり、この辺りから途轍もなく強力な生命の波動が感じられ、いつでも戦闘に入れるように警戒を強めていたからだ。

 その波動はシモンが今までに感じたこともないくらい強いものであった。


 まずいことになったとシモンは思った。

 シモンは基本的に格上の相手とは勝負をしないことにしている。

 しかし、今回は偶々西から東へとこの【龍の牙】と呼ばれる山脈を越えてしまい、単身ルーシアの大地へと迷い込んでしまっていた。


 ルーシアには龍がいる。

 昔聞いたことのある噂話を本当だとは思ってはこなかったが、シモンは強ち嘘ではないかもしれないと感じてしまった。


 今もなお周囲に散らばるこの圧倒的なプレッシャーはまさに龍でも居るのではないかと考えてしまう。

 ならばさっさと帰ればいいものを、シモンは生憎この圧の主に完全に捕まってしまった。

 つまり、シモンは帰るにも帰れなくなってしまったのである。

 だから一瞬たりとも気は抜けない。

 気を抜いてしまえばそこでシモンは無慈悲に狩られてしまうだろう。

 だからこそ、いつでも相棒を呼び出せるようにシモンは手に鍵を握り慎重に進むのであった。















 音が死んだ。



 シモンはそれを察知すると直ぐ様辺りを見渡した。

 これは嵐の前の静けさだ。ついに敵が此方に害をなそうとしている。


 すると突然地の底から這い出してくるような咆哮が辺りに響き渡り――巨大な敵が現れた。

 その形、鱗に覆われ、一対の翼も無く、大きな蜥蜴のようにも見える。

 だがしかし、その圧倒的な威は全ての生物を超える超上の存在を彷彿とさせるものだ。


 即ちその名は――【龍】


 龍はシモンを見つけるとまるで自分の親の仇でも見るような鋭い目で睨み、再び咆哮。

 そしてシモンに向かって動きだした。


 それを見たシモンは、すぐさま手に握る鍵を()()()()()()()()

 遠くの相棒との間に隔つ扉の開錠音がシモンに聞こえた。


 「目指す頂は高く、全てを射抜くその偉業を成すために我が想いに答えよ!!」


 シモンは天に向かって手を伸ばすと、大声で相棒を呼んだ。


 「来い!! 不死鳥の銃(エターナルキャリバー)!!」


 どこからともなく甲高い鳴き声のようなものが聞こえてくると、天よりシモンの元へと一直線に降りてくる炎が一つ、翼を幻視させるような形で現れた。

 シモンは直ぐ様近くまで降りてきた(相棒)を掴むと、銃弾を装填し、迫り来る巨龍に狙いを定める。


 一発、間髪いれずにもう一発。

 後から放たれた銃弾には魔力を込めて同時に龍の左右の目を穿つようにした。

 巨大な敵、未知なる敵を倒すための常道の一つとして目潰しが効果的だ。

 中には目を潰しても他の器官で周りを知覚する生物もいるが、シモンは龍は目がいいことを伝承伝いに知っていた。

 とすれば、龍が周囲の知覚の大部分に目を利用していることは容易に予想できる。

 ここで目を片方でも潰せればかなり勝機があがるはず、シモンはそう信じていた――が、しかし、シモンは驚愕し目を見張った。


 「銃弾が目に弾かれた!?」


 巨龍に銃弾は効かなかった。

 まるで空気中のゴミが目に入ってしまったかのように瞬きを数回するだけだ。

 そして、巨龍は突進のスピードを緩めることはなくシモンの方へと迫ってきていた。

 シモンは堪らず、その進路から避けるように横へ転がり込む。

 間一髪、シモンは巨龍の突進を回避することができた。

 しかし、巨龍は目が良いせいでシモンが逸れた場所を知覚していたらしい。

 巨龍は急に停止すると同時にシモンに目掛けてその身に附いている巨大な尻尾を振るった。


 「まずいっ!! 【不死(フェニッ)――ッぐあっ!?」


 その巨大な凶器はシモンが回避するために発動しようとした『KEY』を途中で無慈悲に中断させ、シモンに直撃。

 シモンに衝撃が襲った。

 しかし、巨龍はそれに残酷な追撃を加える。

 口を大きく開けたかと思うと、大気中の空気を最大にまで圧縮し、そこに魔素を練り込み、発射。

 即ち龍の(わざ)の一つ『龍撃(ブレス)』である。

 シモンは絶対絶命の窮地に陥った。

 しかし、シモンは先の攻撃で失いかけた意識を戻すと『KEY』を発動させた。


 「【不死鳥化(フェニックスモード)】!!」


 紅の焔がシモンの周りを包み込み、シモンは一匹の鳥となる。

 そして新たに背中に生えたその翼で羽ばたくと、龍撃をかわし、大空へと躍り出た。

 龍撃は遠くの山まで届き、爆ぜた。

 それは山をカール状に抉り取った。


 「なるほど……【龍の牙】はこうやってできていたのか」


 空でその様子を見たシモンは【龍の牙】と呼ばれる所以を理解した。

 あれは龍の牙のようなものではなく、龍によってできた牙のようなものなのだ。


 「あれに中れば、いくら不死鳥化しているとはいえ……危ないな」


 不死鳥化とはシモンが発動した『KEY』であるが、これはその名の通り、発動している間は再生力が極限にまで高まり、まさしく不死に等しい。

 だが等しいだけであって、再生力を超える力に相対すれば、追い付かないで死んでしまう。

 龍撃はまさしくその再生力を凌駕する攻撃だったのだ。


 シモンに冷や汗が流れる。

 これでは生身の時と同じである。

 脅威度を察知したので『KEY』を闘いの序盤で使ってしまったが、それすらも敵わない。

 さらに不味いことに、この『KEY』は制限時間が三分程。

 それを越えてしまうとシモンは全ての力を失い動くこともままならない。

 そして既に一分を過ぎようとしていた。

 元々は隙を見て発動して戦線離脱を図るつもりだったが、それももうできない。

 ここで龍と闘い、万が一にでも勝てる見込みは一割あるかどうか。

 しかし、闘わなければその一割すらもつかめない。

 糸のように細く、今にでも千切れそうな勝機を得るためには、ここで逃げてしまっては意味がない。

 ならばここでシモンができることはただ一つ。


 腹を括るしか――ないっ!!


 目を見開き、シモンは空中で大気を翼で押し出して、弾丸のように龍へと向かう。

 そしてそのまま龍に銃口を向けてロックオン。

 しっかり狙いを定めたシモンは引き金を連続で引いた。

 その弾数は三発。

 そしてそれらは先に放った銃弾とは破壊力が断然違う。

 不死鳥化した今、シモンが放つ攻撃は全て、シモンの本来の姿である【幻神(ファンタジア)】としての能力を十二分に発揮していた。


 (頼むっ……効けっ!!)


 シモンはそれを願いながら空中で高速で変態的に進路を変え、龍の後方へと向かう。

 それは凡そ生物が成せる技ではないが、ただ【移動した】という事象を引き起こせる【幻神(ファンタジア)】だからこそできる実に不可思議な(ファンタジー)技である。

 そして息つく間もなく三発の銃弾が龍に着弾した。

 その瞬間に響き渡る破裂音と龍の悲鳴。

 どうやら銃弾は龍に上手く効いたらしい。

 だがシモンは安心しない。 

 先の攻撃で龍がその身を固い鱗や膜で覆っていることは明らかであり、今の攻撃が効いたとしても効果は薄いかもしれない。

 だからシモンは攻撃の手を止めない。

 できるだけ龍の視界に入らないように素早く動き、様々な方向から射つ、射つ、射つ!!  

 時おりくる龍の尻尾の攻撃や劣化版龍撃である空砲(エアブレス)をかわしながらシモンは踊るように空を舞った。

 そして着弾の度に起こる龍の悲鳴に――シモンは勝機を見いだした。

 これなら勝てる、残り時間は体感で三十秒。

 龍の側に斬り込み、奥義を放っても丁度いい頃合いだ。

 そしてそれを達成すれば必ず勝利を掴むことができるっ―――

  




 「ッ!? しまっ―――ウワァァッ!!」


 そう少し油断をしたのが間違いだった。

 龍は隙を見逃さなかった。

 確かに攻撃は効いていただろう。

 だが龍も己の生存のために一撃を食らわせる機会を虎視眈々と狙っていた。

 龍が死に物狂いで振るったその右腕は高速で接近中のシモンを見事に捕らえた。

 雪上に投げ出されるシモン。

 雪のお陰で幾分か衝撃は和らげたがつけられた傷は酷く、シモンは直ぐ様逃げ出すことができない。

 そして再生の勢いも弱まってきたのもそれに拍車をかけた。


 「くそっ……こんな所でッ……」


 何とか立ち去ろうと懸命に努力するがシモンの体は動かない。

 龍も満身創痍だが、その巨体はシモンを殺すことなど容易いのだ。

 まさしく絶体絶命。


 そして遂にその時はきた。

 龍が力を振り絞り口を大きく開け、大気中の魔素をこれでもかというくらいに取り込み、龍撃の準備をする。

 対するシモンは不死鳥化が解け、既に意識を朦朧とさせていた。


―――光がいっぱいだ。


 そう思ったのはこの銀の世界で乱反射した龍撃の光が辺りを白く染めたからだろう。

 ある意味で神々しく、やはり自分の力では超上の存在には敵わないのだとどこか感じてしまう。

 迫りくる龍撃の脅威の中、シモンは終に自分の終わりを悟った。

 ここまでか……





 「諦めるのはまだ早いッ!!」



 突如聞こえた声。

 どことなく強い信念を持った女の声がシモンの耳に届いた。

 その人物は丁度龍撃の目の前――つまりシモンの前に立ち、光に照らされて影となりながら現れた。

 そして背中に背負った剣を抜き放ち、構えを作る。

 まさか、この急に現れた女は龍撃をどうにかするつもりなのか。


 女はふうっと息をつくと、シモンと同じように口上を紡ぐ。


 「禁忌を重ね、重ねて得たこの力。今、他人の為に使って見せよう!!」


 女の大剣は紫電を帯びた。

そして大きく凪ぎ払う。


 「【龍撃を一閃せよ(ドラグレイ)】ッ!!」


 龍撃とそれを断ち切らんとする刃が衝突した。

 それは想像を絶する威力だった。

 近くの木々は吹き飛び、シモンもその余波で吹き飛ばされそうになる。

 だが、前に立つ女のおかげか耐えれていた。

 そして龍撃はというと、女の放った刃に押され始めていた。

 否、まさに龍撃を一閃せよという名を表すように、龍撃を切り裂いていた。 

 そして遂には龍の元まで辿り着き、龍に逃げる暇も与えず、その首を刈り取った。

 断末魔は一瞬たりとも聞こえなかった。

 まるでその刃が切り取ったように再び世界から音が死んだからだ。

 そして闘いは終了したのだった。 


 「ふむ……どうやらまた一つ業を背負ってしまったな……だが」


 女は大剣を戻し、ちらりと後ろを振り返った。


 「漸く会えたな……」


 そこには既に意識を失い倒れたシモンがいた。

 女は近寄ると、そっと愛しさを感じているようにシモンを撫でた。


 「ルナは……シモン、君に会えて嬉しいよ」


 それを告げるとルナはシモンを抱えた。


 「さて……先ずは帰ろう。私達(ファンタジア)の居るべき場所へ」

 

 にこりと微笑みながらルナは呟いた。

 そして次の瞬間、そこには誰も居なくなった。


お読み頂きありがとうございました。

この作品は好評でしたら連載すると思います……設定全然作ってないですけど。 


取り敢えず用語集


龍滅姫・・・ルーシア帝国が誇る七人の女騎士。龍の力を使って悪龍を倒す。


KEY・・・その名の通り鍵。自身と契約した武器を繋ぐ扉を解錠する。そしてそれによって得られた能力を使うことができる。


ファンタジア・・・人ではない。これ以上はネタバレ。因みに元ネタは宇宙の平和を守る僕らの赤い巨人達である。


龍・・・ルーシアを守る守護者だったが悪堕ちした。なぜだろうね?


後は何かあれば気軽に感想等で聞いてください。

良ければ見たついでにポイントとかも着けてくださると励みになります。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  普通とは切り離された能力を持つ、 シモン君が苦戦してる様から、 龍が超常の存在であることがよく分かり、 その戦いを終わらせたルナの、 良い引き立て役になっていた。 [気になる点]  やっ…
[良い点] 確かにアクションしてますね~。 良い感じです!
[良い点] 設定が最高ですね。 急展開でも伝わる、想像できる。 でもカッコイイ! 龍の牙の設定とか最高でした! 「くそ、カッコイイ!」って思いました♪ 文章も読みやすいし、緊張感があってめっちゃい…
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