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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
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3

 それからはソフィーとレオにひたすら連れ回された。服屋やカフェ等、彼女達は行ってみたかった場所がいっぱいあったのだろう。2人はどこへ行っても楽しそうに笑っていた。アキがいる事でお金を使うのにもそこまで躊躇しなかった。アキが選んだ服をいっぱい買って、食べたいものを食べた。レオはひたすら男物を買おうとしていたのでアキが無理やり女物を買わせた。最初は躊躇していたが買った後は凄く嬉しそうにしていたので本当は欲しかったのだろう。ソフィーにも色々と服を選んだ。いつもとはちょっと違った感じの服を中心にソフィーに似合いそうなのを選んで買わせた。しきりにメイド服を選ぼうとしていたのには参ったが。あまりにもしつこいので、最終的には妥協して一着だけメイド服も買う事を許してしまった。アキが選んだ服よりそれが一番嬉しそうだったのが複雑な気持ちだ。


「少し休憩しようか。」


 日も大分落ちてきて、すっかり夕方だ。


「連れまわしてごめんなさい。」


 ソフィーは謝るが、アキは気にするなと(かぶり)を振る。


「俺も楽しかった。今度買った服を着て見せてね?レオもね。」

「うん、楽しみにしてて!」


 レオが良い表情をしてアキに返事をする。


「あの時計塔みたいなの登ってみませんか?」


 ソフィーが商業地区の一角にある高い時計塔を指差す。


「登れるの?」

「はい、いきましょう!」


 ソフィーがアキの手を引く。どうやらソフィー達は事前に調べていたようだ。あそこからなら綺麗な夕日に照らされた街が一望できるだろう。さすがに王城の高さまでは届かないが十分に絶景が望めそうだ。


 時計塔の下に居た管理人らしき人物に一声かけて上まで登る。時計塔の上はちょっとした広場みたいになっており、ベンチなどがおいてあって休憩スペースもある。ゆっくり座って景色を眺める為の配慮だろう。だがアキ達以外は誰もいない。こうやって景色を眺める余裕がまだこの世界の人達にはないのかもしれないなと街を見下ろしながら考える。


「思った通り綺麗だ。」


 夕日が街全体を赤く染め上げている。夜の街へと変わる直前の姿はどこか慌ただしく、どこか切ない。一日の終わりを告げるように帰宅しようとする人の往来がせわしなく目下の道では続いている。


「楽しかった。こうやって何も考えずに楽しむって久しぶりだな。毎日こうだったらいいのに。」


 アキは近くにあったベンチに腰をおろして街を眺める。闘技大会が終わってからもまだまだ慌ただしい日々は続くだろう。でもたまにはこうやってさぼるのもいいかもしれないなとアキは目を閉じて優しさと柔らさに包まれた夕方の空気を肌で感じる。


「はい、早くそんな日がくるといいです。」

「今日が終わるのやだな。」


 ソフィーもレオもアキの隣に座り寂しそうに呟く。






「あれ、アキ寝てる?」

「寝てるねー。」


 話しかけても返事がないのでレオは不思議に思い彼の方をみる。アキは静かに寝息を立てているようだ。


「早朝から連れまわしたから疲れたのかな?」

「そうだね、寝かせてあげよっか。」

「早朝に叩き起こしたソフィーのせいだしね。」


 レオが苦笑交じりに言うと、ソフィーは恥ずかしそうに視線をそらす。


「でも嫌な顔一つしないで付き合ってくれた。」


 レオは今日、アキと出かけて楽しかった。どこへ行こうって言っても、喜んで付き合ってくれた。普段からアキが自分たちの目的の為に色々としてくれているのは知っている。午前中に図書館へ行って、帰ってからも訓練に必ず顔を出して、夜は遅くまでセシルと情報整理をしていた。忙しいってわかっているのに構って貰えないから我儘を言った。そんな時でもしょうがないなと笑うだけで彼は怒ったりはしなかった。


「アキは優しすぎるよ。僕達我儘ばっか言ってるのに。怒ってもいいんだよ?」


 レオはそういうとアキにもたれかかる。今くらいは甘えてもいいよね、くっついてもいいよねと自分に言い訳する。アリアが言った通りあれからは全く撫でてくれない。それがレオには寂しかった。もっとアキと触れ合っていたいのに。


「今なら尻尾触ってくれてもいいのに。アキならいいよ。いつでも。」


 誰にも聞こえないように小さく呟く。そういってレオはそっとアキの膝の上に自分の尻尾を乗せる。少し肌寒くなってきたし毛布代わりになるかなと思った。





「ほんと、優しいんですから……意地悪ですけどね。あと、レオばっかりずるい。」


 ソフィーがそういって逆側の肩にもたれかかる。ソフィーもずっとアキと遊びたいと思っていた。ずっと一緒にいるアリアやセシルが羨ましかった。勿論ソフィーもアキが自分たちの為に寝る間を惜しんで色々やっているのは知っていた。


「でもあんまり無理しないでね?」


 寝ているアキの手をそっと握る。温かいな、と微笑むソフィー。


 自分でもわかっている、アキの事になると暴走してしまうのを。ついつい感情だけで話してしまってアキを困らせてしまうことも。でもそれでもいいって思っている。


「好きなんだからいいんだもん。」


 アキは我儘を言っても、暴走しても笑って許してくれる。そして構ってくれる。意地悪はされたりするけどそれも嬉しい。もっと自分に何かしてあげられたいいけど馬鹿な自分には何も思いつかない。だからせめて大事に想っている事だけは伝えようといつも決めている。その結果暴走する事になっても。


「これからもいっぱい我儘いいます、迷惑かけます。でもこれからも前に言った通り私の一番の笑顔をアキさんに見せるから許してくれますよね?」


 ソフィーもそっと呟く。本人には絶対恥ずかしくて言えないけど今なら言える。それにいっぱいくっついちゃえと思うソフィー。最近全然撫でてくれないし今くらいはいいよね。






 暫くしてアキが目を開ける。


「俺、寝てた?」

「ふふ、少しだけですよー。」


 ソフィーが意味深な笑顔で答える。なにか温かいなと思ったらレオの尻尾が膝に乗っているし、2人とも自分にもたれ掛かっている。


「ごめんね、せっかく遊んでるのに寝ちゃって。」

「いいよ、のんびりするのも楽しいし。」


 今度はレオがちょっと恥ずかしそうに笑う。


「そろそろ帰るか、日も落ちたし。」


 アキはそう言って立ち上がろうとするけど2人に押さえつけられる。


「ダメです。もう少しです。」

「うん、まだダメ。」


 やれやれと思うアキ。


「じゃあ今渡すか、はいこれ。」


 そう言ってポケットから取り出した紙袋をレオとソフィーに渡す。


「なんですかー?」


 ソフィーとレオが不思議そうに開ける。先ほどお店巡りをした際にこっそり買っておいたものだ。最近構ってやれなかったお詫びも兼ねて2人が持っていないだろうアクセサリーを選んだ。


 レオにはシルバーのティアドロップ型のネックレス。男の振りをしている時にでも使えるようにシンプルなものにした。どのみちレオに派手なのは似合わないし、シンプルなくらいが彼女の可愛さを十分に引き立てると思った。


「可愛い!いいの?これ僕の?」

「うん、リオナの時でもレオの時でも使えるようなのを選んだんだ。」


 ここにはアキ達しかいないのでリオナと呼んでも問題ないだろう。


「ありがとう!ずっとつける!大事にするね!」


 すごく嬉しそうに笑うレオはとても可愛くて、年相応の女の子にしか見えない。


「アキ、つけてよ。」

「いいよ。」


 レオからネックレスを受け取り、彼女の首にかけてやる。予想通りとても似合っていて安心した。まあ、端正な顔立ちしているから何つけても似合うんだろうけど。


「リオナ、似合ってる。可愛いよ。」


 アキの膝の上の尻尾が激しく揺れる。


 ソフィーには髪飾りを選んだ。いつも簡単な髪留めでサイドポニーにしているので丁度いいと思った。髪飾りは白色の花をイメージして作られており、素材は多分レジン的な物だ。結構丈夫そうなので長く使えるだろう。金色のソフィーの髪には白が映えるだろうし、花の装飾がソフィーの笑顔に似合うと思った。


「髪飾りですか?こんな可愛いの私に似合いますか?」

「ソフィーは可愛いから似合うだろ。言わせんな恥ずかしい。」

「えへへ……やった。凄く可愛いです!これも大事にします!」


 ソフィーは早速サイドポニーを一度ほどいて新しい髪留めに変えるようだ。つけてあげられたらいいが、さすがに髪飾りとかよくわからないし本人に任せよう。


「あ、髪おろしたソフィー新鮮。そっちもいいね。」

「恥ずかしいのであまりみないでください……。まあでもアキさんならいいです。」


 普段ずっと髪を結んでいるので下ろした姿を見たことがなかった。髪を下ろすとエルフの長い耳が隠れてちょっと出ているくらいになる。それがまたいい具合に大人の色気を醸し出している。子供っぽさが抜けて、綺麗という言葉がぴったりだ。


「そっちのソフィーは可愛いじゃなくて綺麗だね。」

「ほんとですか!じゃあこっちにしようかな……でもそれだと髪留め使えないし……悩みます。」


 そういいつつも髪を結び直して髪留めを付ける。


「下ろしたとこはたまに見せてあげます!どうですか?似合いますかー?」


 そういって髪飾りを見せてくる。


「うん、可愛いよ。似合っていてよかった。」


 ソフィーも元がいいから多分何をつけても似合う。そういう意味では服やアクセサリーを選ぶのに苦労しない。いや、むしろ苦労する……何を選んでも似合うからこそこれだっていうのを選ぶのが大変だ。


「じゃあ帰ろうか。」

「残念ですけど、しょうがないです。」

「うん、また遊んでね?」


 ソフィーとレオは名残惜しそうにベンチから立ち上がる。

 だがアキは言い忘れていた事を思い出したので2人に告げる。


「レオ。尻尾今度触るね?いつでもいいんでしょ?」

「え?」

「ソフィー、笑顔見せてくれたら許すけど程々にね?」

「はい?」


 2人が石のように固まる。


「ね、寝てたんじゃないんですか?」


 ソフィーが恐る恐る尋ねる。


「どうかなー。目を瞑ってはいいたけど。俺寝てたのかなー。」


 とぼけた感じで答えるアキ。実際本当にうとうとしたのだが、2人が楽しそうに話していたから意識を飛ばすまではいかなかった。そしたら2人とも面白い独り言を言い始めたのでそのまま寝た振りを続けてみた。


「僕たちの話というか独り言は……?」


 レオが唾を飲み込むように緊張した面持ちでアキに尋ねる。


「全部聞いてたから安心しろ。」

「「忘れて!今すぐ忘れて!」」


 声を合わせて叫ぶ。

 その後ぎゃーぎゃー騒ぐ2人を宥めつつ1日目の休日は終わった。



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