表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第七章 闘技大会
98/1143

2

 暫く歩いて工業地区に入る。王都の工業地区はアリステールに比べて多少小綺麗な印象を受けるがやはりどこかすす臭い匂いが漂う。早朝だからか工業地区独特の製鉄や木工の音は聞こえない。ガランから聞いている工房の場所を目指して静かな工業地域をソフィー達とゆっくりと歩く。


「朝の物静かな雰囲気もいいね。」

「うん、僕も嫌いじゃない。」


 レオが静謐な街の雰囲気を体全体で感じている。気持ちがいいのか彼女の尻尾もぴくぴく揺れている。相変わらず表情豊かな尻尾だなと思うアキ。色んな動きをするので見ていて飽きない。ついつい触りたくなってしまうが、レオが嫌がりそうなので我慢する。


「ここかな?」


 ガランの工房らしき建物の前に着いた。教えてもらった場所を間違えてなければ多分ここだろう。アリステールの頃と同じように石で造られた工房でRPGに出てくるような情緒ある雰囲気だ。アキはこういった工房を見るとどこかワクワクしてしまう。男の浪漫のようなものなのかもしれない。


 工房は使い始めて間もないからか、アリステールの頃のように散らかっておらずとても綺麗だ。屑鉄などは一切散らばってないし、とても掃除が行き届いているように見える。どうせガランの事だから前の惨状にすぐに戻るだろうが。


「じゃあ入るか。」

「こんな早くに迷惑じゃないですかー?」

「そう思うなら俺を早朝に叩き起こすな。」

「だ、だってー!」


 ソフィーが頬を膨らまして拗ねる。


「まあ、大丈夫だろう、ガランだし。いつでも来いって言われてるからね。」


 とりあえず工房の中に入ってガランを呼ぶ。


「ガランきたぞ。相変わらず糞みたいな剣を打ってるのかー!」

「アキ……開口一番に喧嘩売っちゃダメだよ。」


 レオが心配そうに見つめるが、こうでもしないとあのおっさんは気付かないんだからしょうがない。案の定「糞みたいな剣」に反応したようで工房の奥から怒号が飛んでくる。


「誰だてめー!糞みたいなって喧嘩うってんのか!ぶち殺すぞ!」


 そして鬼のような形相でガランが出てくる。


「よお。ガラン、工房見に来たぞ。」

「なんだアキか。普通に声かけろよな。」


 アキだとわかった瞬間に怒りを収めて普通に話し始めるガラン。


「ああでも言わないと気付かないだろうが。」

「ふはは、確かにな、お前の言う通りだ。」


 自覚しているなら直せよと思うアキだが職人気質の塊である彼にそれが無理なのはわかっている。


「で、どうした?闘技大会の訓練に明け暮れていると思っていたが。」

「準備は終わったから3日程ゆっくり休息とることにしたんだよ。今日はガランの新しい工房の見学に来ただけだ。陣中見舞いだな。」

「それは構わんが……朝早くに来過ぎだろうが!嬢ちゃん達まで早朝から連れまわして可哀そうに。」

「せっかくの休日だ。俺が彼女達と一分一秒でも長く居たかったから叩き起こしたんだよ。悪いとは思ってる。」


 アキの言葉を聞いた2人が「えっ」といった顔で見てくる。特にソフィーは何かを言おうとしたみたいだが、アキがいいからと手で軽く制してガランと話を続ける。


「まったく、そんなわがままばっか言ってると捨てられるぞ。せいぜい気を付けるんだな。捨てられて泣き崩れるお前を見てみたいからそれでも俺はいいがな。」

「ああ、忠告感謝する。それより土産持ってきたんだ。」


 アキはガランに紙の束を渡す。玉鋼の製法などのヒントをさらに書籍から抜擢して纏めたものだ。それ以外にも鉄や鋼の生成に関するものをセシルに手伝ってもらい纏めておいた。今日早速ガランのところへ行けると思っていなかったが、休日のどこかで行けるだろうと思い持ち歩いていて正解だった。


「おお!感謝するぞ……!これでまた剣造りが捗りそうだ。」


 ガランは嬉しそうに紙の束を見て唸っている。すると何かを思い出したのか、ちょっと待っていろといって工房に一旦引っ込む。そのタイミングを待っていたかのようにソフィーがアキの袖口を引っ張って話しかけてくる。


「アキさん……叩き起こしたのは私です……。」


 ソフィーの綺麗な翠色の瞳が悲しそうにアキを見つめる。レオもごめんねという顔をしている。


「いいんだよ。俺が格好つけたいだけって事にしておいてよ。」


 そう聞くと2人はちょっとだけ微笑んで納得してくれたようだ。


「は、はい……。ずるいです。普段は意地悪いっぱいしてくるのに、こういう時はさらっとかっこいいことして。きゅんきゅんしちゃいます。女たらしです!」


 相変わらず余計な一言をつける正妻モードのソフィー。別にいいけど。


「アキのそういうとこ僕は好き。」


 レオも嬉しいことを言ってくれる。


「2人にそう言って貰えるなら格好つけた甲斐はあったね。」


 アキは苦笑しながらも2人と居られる時間を楽しむ。ちょうど話が途切れたタイミングでガランが戻ってくる。


「新しい剣を作った。太刀っていうんだっけか?見てみろ。」


 ガランはそう言って1本の日本刀をアキに渡す。アキは鞘から刀を抜き、仕上がりを確かめる。前回打ってもらったものに比べて、各段に鋼の質が上がっていそうだ。以前の太刀より遥かに輝きが増している。前の太刀が上物ならこれは名刀一歩手前くらいだろうか。


「さらに進化してるね。」

「わかるか!じゃあ前の剣は返せ、それと交換だ。あんな出来の悪いものをいつまでも使わせるわけにはいかん。」


 おそらく鍛冶職人としてのプライドだろう。微妙な出来の物は回収しておきたいのかもしれない。アキとしても異論はないので腰に刺している太刀と入れ替える。冒険者ともなれば常に武器を携帯しているのが普通らしいので、アキも常日頃から刀は持ち歩くようにしていた。武器の情報を闘技大会前に晒したくないので外套で隠してはいるが。ミルナ達にも街に出る際は短剣のみにして武器を見せるなと伝えてある。外套などで隠せるならいいが、ソフィーの弓矢、レオの大剣、ミルナの杖等は特に目立つので携帯しないように言ってある。彼女達としては主要武器が手元にないのがちょっと不安らしい。エレンに関しては武器が元々短剣なので、身の危険が無い限りは街中で絶対に見せるなとだけ伝えて好きにさせている。


「あと、ほれ。頼まれていた短剣もう1対だ。」

「助かる、感謝する。」

「またいいのが出来たら連絡するぞ。ちょくちょく遊びにくるがいい。だが今日はさっさと帰れ。嬢ちゃん達と出かけるってのにこんな薄汚いところにいてもしょうがないだろう。」


 意外にガランも女心がわかるようで、アキに気を遣って帰りやすいように言葉をかけてくれた。それに乗らない手はないので、アキは礼を言って工房をでる。


「さっきの短剣はアキさんのですかー?」


 工房を出て暫くしてからソフィーが聞いてくる。


「ああ、これはレオに。はい。」


 1対の短剣をレオに渡す。


「え?僕?」

「うん、遅くなってごめん。ソフィーやミルナには渡したけど、レオはまだだったでしょ。」


 エレンはメインの武器が短剣だ。ミルナも補助武器が短剣だったので優先的に渡した。ソフィーも接近戦に持ち込まれた際に武器が必要だろうという事で短剣を先日渡しておいた。今も短剣を太もも辺りに携帯しているはずだ。レオはメイン武器が大剣なので最後になってしまったが、街に武器を持って出るなと言っているのに護身用の武器すら何も持たせないのは申し訳ないと思っていた。レオだけは完全に丸腰だったので今渡しておく。


「大剣を持ち歩くなと言ってるんだから、短剣くらいはね。遅くなってごめんね。」

「ううん!嬉しい、ありがとう!」


 尻尾をいつものように激しく振って喜んでいる。早速目立たないところに短剣を装備したようだ。大剣と短剣だと扱いも異なるだろうが器用なレオならすぐに使いこなせるはずだ。前に渡した新しい大剣もすっかり使いこなしている。


「ソフィーも短剣は気に入ってる?」

「はい!宝物ですー!」


 短剣を取り出して抱きしめる。非常に可愛い姿だが、年頃の女の子が「宝物です」って握りしめているのが短剣って何かおかしい気がする。


 とりあえずアリステールで彼女達に渡した新武器はちゃんと使いこなしているようで安心している。ミルナは短剣の訓練に気合が入ったと言っていた。エレンも短剣技術を見直すといって一から特訓し直していたし、レオは大剣をひたすら振って感触を馴染ませていた。ソフィーも新しい矢を何百回と射って各段に威力と射程距離を伸ばすことに成功している。


「大事にしてくれているのは嬉しい、ありがとう。」


 ソフィーとレオにそう告げ、引き続き彼女達のお出かけに付き合う為に商業地区の方へと戻る。そろそろ街が動き出す時間なので買い物も出来るだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ