13
「さて、エリス。せっかくだし、俺ともやってもらおうかな?」
「アキとか!いいぞ!やった!」
エリスが嬉しそうにはしゃぐ。俺より確実にミルナ達のほうが手応えありそうなのに、何故かアキとの手合わせはエリスにとって何より楽しいらしい。
「確かに実力的には4人のほうが強い。でも防御だけみるとアキは相当だし、思いもよらない事をしてくるので楽しいのだ!」
アキからしてみれば奇策をうっているだけなのだが、それが彼女には楽しいらしい。
「まあ、いいや。本気で行っていい?」
「もちろんだ、怪我しても文句はいわん!」
ミルナ達と入れ替わるようにしてアキが戦闘位置に立つ。エリスも準備万端のようだ。
「アキさん頑張ってくださいね。」
「アキ、頑張って!」
ミルナとレオが応援してくれる。
「アキ!あいつを殺すのよ!」
「アキさん!泥棒猫を殺してください!」
エレンとソフィーは……応援なんだろうか。とりあえずアリアに合図してトレーで殴っておいてもらう。エレンとソフィーが痛そうに蹲っているが自業自得なので反省しろと言っておく。
「さて、ミルナ。合図を。」
「はい……でははじめ!」
ミルナが合図をするがアキは動かない、エリスも動かない。
「エリス来ないの?」
「ふふふ、急いでもしょうがないじゃないか。」
「まあ、そうだね。」
軽口を叩きつつ様子を伺う。
アキとてこの数週間遊んでいたわけではない。自分に出来る事を考え、色々と訓練してきた。攻撃も太刀を満足に使えるくらいには上達した。エリスが付きっ切りで教えてくれたおかげだ。だがそれでもやっとCランクに届くかというくらいだろう。使いこなせないわけではないが、当てにはできない。だからこそ防御しつつも攻撃に使える魔法も開発した。防御であれば、エリスがお墨付きをくれたように、ある程度こなせる。相手の癖がわかっていればという条件付きだが。
防御面での剣の腕だが、エリス特訓のおかげで風魔法での保険を加えなくてもよくなってきた。先読みや予測を駆使して、剣のみで防げるくらいに上達した。つまりその分の魔素を攻撃魔法に回せるという事になる。この意味は大きい。それを今回テストしたいと言うのもありエリスに模擬戦をお願いした。エリスであれば大怪我する事はないだろうし。
「でも今日はいい天気だね。」
「ふふ、なんだその話題は。」
エリスが楽しそうに笑うが、何かを察知したのか急に表情を変えて横に飛退く。さらに直ぐにステップを繰り返す。ミルナ達は何が起こっているのかわかっていないようだ。
「どういうことですの?」
「アキが何かやってる……んだよね?きっと。」
ミルナとレオが不可解な顔で2人を見る。
実際にアキがやっているのはノーモーションで薄くした氷を刃のようにして飛ばしているだけ。よく見れば視認できると思うが、生成から射出まで一瞬で行い、薄くしてあるので視認する事は中々に難しい。はじめはカマイタチと言われる超常現象が出来ないかと試行錯誤したが、風をどんなに鋭くしても速くしても風は風。物質を切り裂くことは不可能だった。もしかしたら速度を音速以上にあげれば出来るのかもしれないが、魔素が足りない。だから氷刃で妥協した。
「エリス、よく避けられるね?見えるの?」
「いや、ほぼ見えない。何かあるって程度だ。あとは勘だな。」
「女の勘ってすごいな。」
「くくく、それを言うなら戦闘経験で培った勘だな!」
「なるほどねー。」
呑気な会話をしつつもエリスは的確に避けていく。なら次だ。アキは氷刃を飛ばす間に高温の炎球を混ぜて飛ばしていく。炎に目が行ってしまい、氷刃をさらに見にくくするという作戦だ。
「何がやっかいってアキの魔法攻撃は防御できないってとこだな!どうなるかわからんから避けるしかない!」
「そう言いつつ全部避けているエリスも大したものだよ。」
アキが攻撃しつつ、エリスが避けるという時間がしばらく続く。
「呑気にやってるけど、エレンとレオはあれ避けられる?」
ソフィーが2人に訪ねる。
「無理ね。私には氷の方は見えないもの。炎を避けたとこに氷を打たれて終わりだわ。それにアキは今も剣を構えているだけ、何かしているようには見えない。あれだけノーモーションで魔法を打たれるなんて思わないわ。だから避ける以前に最初の1発目で多分終わってるわ。」
エレンが説明交じりに答える。
「僕も同じかな。でもエリスはなんでアキとの距離を詰めないんだろう?」
レオも答えつつ、疑問を投げかける。それに返事を返したのはミルナだ。
「多分ですけど、近づくと避けられなくなるのではないでしょうか?あともし斬りこんだとしましょう。今のアキさんなら剣だけで防御できます。鍔迫り合いの状態であの魔法打たれたらどうしようもないですわ。」
「あ、確かに。だから近づかないんだね!」
ミルナの説明に納得したようにレオが頷く。
「何がDランクの実力ですか……確かに剣の攻撃だけだったらそうでしょう。でもそれ以外で十分に戦えているんですもの。下手したら私達より上かもしれませんわね。魔法の使い方が特殊というだけでこれだけ優位に立てるとは思いませんでしたわ。」
ミルナがちょっと複雑そうな感じで拗ねる。
「魔法職の存在意義変えちゃうかもねー!」
レオが嬉しそうに返事をする。
「でもアキさんはあれだけ戦えるのに何故実力ないというんですか?やたら剣での攻撃にこだわっていませんか?」
ソフィーが首を傾げる。
「それは私も思うわ。確かに剣の扱いはまだまだ稚拙だけど、ミルナの言う通り防御と攻撃魔法だといいところ行くと思うのよね。男の浪漫とか……?」
エレンは不思議そうに顎に指を当てて悩む。
「そんな格好いい理由ならいいけど、違う。」
急に声をかけられて驚く4人。よく見るとアキが手合わせを終了してこっちに向かってきていた。
「エリス、ここまでにしよう。闘技大会でやるんだし、これ以上手の内を見せると対策されそうだ。」
アキはそう言って苦笑する。
「ああ、楽しみはおっておかないとな!もちろんこれだけじゃないんだろう?」
「まあね。」
「それは楽しみだ!ならこれ以上やって楽しみ減らしてもしょうがない。とりあえず私は特攻以外でどうアキに接近するか考えることにするのだ。」
「あんまり考えなくていいよ、打開されると面倒だし。」
「くくく、つれない事いうな。」
エリスは本当に楽しそうに笑う。アキ自身は彼女ほどの戦闘狂ではないので正直楽な相手に越したことはない。そう思いつつも、とりあえずうちの子達の疑問に答えようと彼女達に話しかける。
「アキさん、私達の会話聞いてたんです?」
「うん、俺ぼーっと魔法打ってただけだし。」
アキがしれっとソフィーに答える。
「それでアキ、どういう事?」
レオが尻尾を振ってわからないので早く教えてと言っている。最近は尻尾の振り方でレオの事がさらに細かく読み取れるようになってきた。
「そうだね、俺の技術は対人特化。対人では通用するけど魔獣だと無理ってことだよ。」
人間というのは脆い。どれだけ鍛え上げたとしても獣には適わない。ちょっとの炎で火傷するし、ちょっとした傷でも行動に影響がでる。だからアキのあの程度の魔法でも致命傷になりえるし、人であれば必死に回避する。回避一択だと選択肢の幅が狭まり、色々と戦略も練りやすい。さらに言うなら、人間の攻撃力程度だからこそアキでも剣戟をなんとか防御できるし、対処もできる。エリスの剣戟も十分重いが、太刀や脇差で防ぐくらいは可能だ。もしレオみたいな大剣を遠心力つけてぶつけられたら吹っ飛ぶだろう。ただその攻撃力をレオが出すにはしっかりタメを作って遠心力を使い、全力でぶつける必要がある。その間の隙を突くのは容易だ。
「だから人間相手なら攻撃を予測し、防御や回避して魔法で攻撃するだけで十分に勝てる。」
だが魔獣相手だとそうはいかない。何気ない攻撃で吹っ飛ばされる可能性は高いし、アキの氷刃程度じゃかすり傷程度しかつかないだろう。魔獣であれば多少の傷では怯まずにそのまま突っ込んでくる可能性が高い。そして魔獣の物理攻撃に対してアキは攻撃を予測し回避するしかない。魔法攻撃だったらいくらでも対応が可能だが物理は無理だ。魔獣とアキでは力が違いすぎる。
そして攻撃の問題だ。魔獣に有効な攻撃を与えるにはやっぱり剣を使うしかない。弱点の魔法をぶつければ多少はダメージは通るだろうし、それをひたすら繰り返せばなんとか倒せるかもしれない。だが魔獣の生命力は人間より遥かに高い。魔法だけだと相当時間がかかる。その間に他の魔獣などに加勢されるとおそらくゲームオーバーだ。だからこそ結局短時間で剣を使って絶命させないと実践では厳しい。
「剣が使えないという事はいつまでもミルナ達に守ってもらわないといけないという事だ。だからこそ俺はまだまだCランク以下。対人だけ特化しても意味はないだろ?冒険者は魔獣討伐がメインなのだから。」
「なるほど。言っている意味はわかりますわ。」
「まあ逆を返せば、ミルナ達がいるからこそ俺は別にこれでもいいんだけどね。仲間って自分が足りないものを補って貰えるものでしょ?頼りにしてるよ。」
「ふふ、そうですわね、ではいっぱい頼りにしてくださいね?」
ミルナがいつものように袖口を口にあててくすくすと笑う。
「じゃあとりあえず終了。闘技大会の準備は整ったと思う。軽くSランクになるぞ。」
「もちろんよ!」
アキが締めるとエレンが力強く頷く。
「約束通り明日から3日は皆の好きなことに付き合うからどうするか決めておいてね。」
アキの言葉にミルナ達は嬉しそうに頷いて、今日の訓練は終了となった。




