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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第六章 Sランク
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12

 訓練だけの毎日だと時間が過ぎるのは早く、気が付いたら闘技大会まで4日だ。そしていよいよミルナ達とエリスの模擬戦の日になった。皆で屋敷の庭に出ていつでも始められる状況だ。ここ2週間、ミルナ達は毎日必死に訓練していた。文句を1つも言わずにアキのいう事に従い、何度も何度も教えられた事を繰り返した。勿論アキもその間遊んでいたわけではなく、自分の訓練に精を出した。エリスのおかげで剣技も大分上達して、太刀を使ってもいいと思えるくらいにはなった。さらに面白い魔素の使用方法もいくつか思いついた。


「みんな、準備はいい?」


 アキがミルナ達に確認する。エリスと4人が向かい合って立っており、合図一つで模擬戦が始められる。ミルナ達は武器を既に構えており、やる気十分だ。やはりご褒美が相当な効果があったと見える。


「大丈夫ですわ!アキさんを勝ち取ります!」

「当然でしょ、奪い返してやるわ!」


 ミルナとソフィーが叫ぶ。何故かアキがエリスに略奪された事になっている。


「アキさんとお出かけ、アキさんとお出かけ、お出かけ、お出かけ、お出かけ……」


 光が消えた目で呪文のようにぶつぶつと繰り返しているので、とりあえずいつもの一発を入れてソフィーを正気に戻す。


「ひゃっ……うぅ……痛いですー。」

「ちゃんとしろ。頑張れ、ソフィー。」


 一応飴として応援の言葉もかけておく。


「はい!頑張ります!」


 効果は覿面だったようでいつもの笑顔に戻るソフィー。


「僕も頑張るよ!楽しみに待っててね!」


 レオは可愛らしく微笑んでくれる。レオが一番まともで、いい子だとしみじみと思うアキ。


「じゃあエリス、頼む。エリスも頑張れよー。」

「ああ、任せておけ!すぐに叩き潰してやるぞ!」


 エリスも気合十分のようなので実のある模擬戦となりそうだ。アキは皆から少し離れ、セシルとアリアの元へ行く。


「じゃあ俺がセシルの耳を捥いだら開始の合図な。」

「なんでえええええ!なんで捥ぐの!」

「冗談だ。」


 そう言ってセシルの耳を優しく撫でる。


「えへへ。ゆるしてあげます。」


 セシルは目を細めて気持ちよさそうにしている。


「あ、あのアキさん?毎度毎度、緊張感高めた瞬間にぶち壊すの辞めて頂けません?」


 ミルナが困惑した表情でアキに苦言を呈す。


「ごめんごめん。じゃあ開始の合図するね。」


 ちょうどいい感じに肩の力が抜けたようだ。ちょっと気合が入り過ぎていてミルナ達は空回りしそうだったので敢えて緊張感を壊した。


「では、はじめ!」


 アキが手を振り下ろして宣言する。





 開始の合図と同時にレオとエレンが左右からエリスに斬りかかる。以前アキと模擬戦した時は不意を突かれて後衛を潰されたので反省したのだろう。エレンが左側からエリスに対して左薙ぎを払う。目線のフェイントをいれているようでエリスに一瞬迷いが生じる。レオは右から大剣を振り下ろそうとして直前に攻撃をキャンセルしてしゃがむ。その瞬間、レオの後方にいたソフィーがほぼノーモーションで矢を放つ。さらにミルナが詠唱破棄した炎を複数、杖の周りに生成し同時に射出。


「うちの子達、成長したなぁ……。」


 エレンとレオは必死にフェイントを練習した。動作から目線まで毎日真剣に取り組んだ。ソフィーはひたすらノーモーションで弓矢を練習したし、ミルナも詠唱破棄を死ぬ気で覚えた。さらに4人の連携にも磨きをかけたようだ。最終的にはアキが全くアドバイスしなくても自主的に課題を見つけ出し、訓練するようになっていた。それが今、実践に生きている。


「今の連携、Aランクレベルであれば瞬殺できるだろう。ただエリスには……。」


 腐っても彼女はSランク。対人特化した最高位の冒険者がこの程度の攻撃をいなせないわけがない。


 アキの予想通り、エリスはエレンの短剣による左薙ぎを剣で軽く力の方向を変え、なんなく受け流す。そのせいでエレンの体が少し右に流れ、ミルナの炎魔法の射線に入る。それに気づいたエレンがミルナの魔法を回避する為、横に飛ぶ。その間にソフィーが放った弓をエリスは剣で弾いて、レオに向かって剣を振り下ろす。


「さすがに落ち着いてるね、エリス。」

「ええ、やはり動きがSランクですね。」


 アキの隣に立っているセシルが同意するように頷く。


 振り下ろされた剣に気付いたレオは大剣で防御姿勢をとる。だがエリスの振り下ろしはフェイントで、レオの防御に気づくやいなや、即座に右薙ぎに切り替える。レオもきっちりフェイントを予測してそれを防御。


「成長したな!なかなかに楽しいぞ!」


 鍔迫り合いをしつつ、軽口を叩くエリス。


「私から目を離してんじゃないわよ!」


 エレンが体制を立て直すとエリスに斬りかかる。


「余裕というやつだ。」


 レオの剣を押し込み、体制を崩させる。エリスは背後をちらっと確認し、体の向きは変えずにエレンの攻撃の軌道に剣を入れる。背後から来たエレンの短剣を振り向く事なく防御するつもりだ。いつものエレンならそのまま防御されて終わりだっただろう。舌戦に応じつつもエレンは冷静で、一旦エリスへの右薙ぎ攻撃をキャンセルし、袈裟切りへと変更する。そこからさらに右切り上げへと2重のフェイントを入れる。エリスはさすがに後ろを向けたまま一連の攻撃を防御しきれないと判断したのか地面を蹴って跳躍、後方一回転して着地するつもりのようだ。


「なるほど、跳躍させたのか。」


 その跳躍を待っていましたと言わんばかりにソフィーが矢を3射ほど放つ。同時にミルナも可能な限りの炎を生成しエリスへと飛ばす。さらにレオとエレンは彼女が跳躍した瞬間に体制を整え、追撃の姿勢にはいる。ミルナ達の攻撃が着弾した瞬間に飛び掛かる予定だろう。


 エリスは空中で回転しつつも、すぐさま懐にしまった短剣をエレンとレオに投げつけて、2人の攻撃態勢を崩す。次にソフィーの弓を剣で全て払い、ミルナの炎は敢えて体で受ける。そのままエリスは着地して地面を蹴る。前衛二人を無視して、後衛のソフィーに斬りかかる。


「さて後衛の2人は防ぎきれるかな。」


 ソフィーは即座に弓を手放し、短剣を抜く。ソフィーにも必要だろうということでガランにもう1対短剣を打って貰い、ソフィーに渡しおいた。エリスは逆袈裟を囮に、左薙ぎでソフィーに斬りかかる。ソフィーは前衛職に比べると見劣りするが、なんとか防ぎきる。


 ミルナもエリスが後衛に向かってきた瞬間、短剣に持ち替えていた。ソフィーに斬りかかるとわかった瞬間に、ミルナは背後からエリスに攻撃を仕掛ける。ちゃんと右薙ぎからの袈裟切りフェイントを入れている。ソフィーへの攻撃が防御されたエリスは、レオにした時と同じように鍔迫り合いからソフィーを力で押し込み体制を崩す。そしてミルナの攻撃を受け流し、その反動で切り上げ攻撃を行う。ミルナも即座に反応し、それを短剣で防御。だが次の瞬間、エリスの蹴りがミルナの腹部に命中し、地面に転がる。


「そこまで。」


 アキはそう宣言するとミルナのところへ行き、彼女の体を支えて上体を起こしてやる。


「ミルナ、大丈夫?怪我は?」

「え、あ……大丈夫ですわ……ありがとうございます。」


 アキに支えられている事に気付き、少し照れるミルナ。一応治癒魔法もかけておく。


「みんなお疲れ。エリスはさすがだねー。」


 ミルナを立ち上がらせて、皆に声を掛ける。


「アキ!なんで止めるのよ!勝てるわ、だから待って!」


 エレンが必死に叫ぶ。


「ダーメ。1人脱落したし、今日はここまで。」


 軽い口調で答えつつも真剣な目でエレンを見つめたので反論はこない。


「うむ、なかなかよかったぞ!だがそう簡単には負けられん!」


 エリスも結構楽しんだようで満足気だ。


「アキさん……勝てませんでしたー……。」


 ソフィーが悔しそうに涙を溜めて上目遣いで見つめてくる。ダメ?今のじゃダメ?って訴えてくるソフィーは相変わらず魔性の女っぷりを遺憾なく発揮している。ミルナやレオ、エレンも悲しそうな目をしているのでついつい甘やかしたくなってしまう。だが別に甘やかす必要はない。何故なら……。


「え、何で悲しそうなの?止めたのは、これ以上は怪我するだろうからってだけで、勝ちはミルナ達だからご褒美はあげるけど?」


 そう言うとソフィー達は驚いた様な顔をしてアキを見る。暫くの沈黙の後、ソフィーがつめ寄ってくる。


「どどどいうことですかー!」

「泣くのか喜ぶのかどっちかにしろ。」


 とりあえずソフィーの頭に軽く突っ込む。


「だ、だってー!」


 エリスはわかっているのか苦笑しつつも何も言ってこない。


「僕達勝ってないよ……?」


 レオが尻尾と耳を垂れ下げながらも確認してくる。


「説明しないとわかんない?エリス言ってやれ。」


 アキがそういうとエリスはやれやれと口を開く。


「炎が命中した時点で私は負けているということだ。勿論お前たち4人だけだったらこのまま続ければ勝てる。そういう意味で負けてられんといったのだ。だが、あれがアキの魔法なら私はあそこで戦闘不能になっているということなのだ。だから負けとも言える。」


 エリスの言う通り、あれがアキの魔法であれば超高温の炎にしているだろうから、当たった時点で脱落だ。ミルナの炎だったからこそ火傷で済んでいるが。


「エリス、ほらおいで。」


 火傷を治療するのを忘れていたのでエリスを呼んで頭に手を置いて治癒をかける。


「アキ……ありがと。」


 戦闘が終わって女の子モードになったのか急にしおらしくなるエリス。そんなエリスをついつい可愛く思ってしまう。ギャップの破壊力って凄いんだなとどうでもいい事を考える。しかし勝敗判定に未だ納得がいかないのか、アキの思考を中断するようにミルナが問いかけてくる。


「で、でもアキさんは手伝わないって言っていましたわ……それにそれはあくまでの話であって実際には勝っていません。」

「俺が良いって言っているんだから良いの。」


 ミルナがでもでもと否定する。


「それともミルナはご褒美いらないってことでいいの?」

「いやですわ!欲しいです!」

「なら黙って喜びなよ。とりあえず、お疲れ。ミルナ頑張ったね。詠唱破棄も出来ていたし、凄く成長したね。」

「は、はい!」


 ミルナを労うと、ちょっと涙目になりつつ嬉しそうに微笑む。他の3人にも声を掛ける。


「ソフィー、弓のモーション少なかったし、フェイントにも対応して防御も出来てた。エレン、目線のフェイントまで使いこなせるようになったんだね。凄い凄い。リオナもソフィーとの連携も凄かったし、ちゃんと防御も練習したんだね。みんな頑張ったね。」


 順番に労いの言葉をかけてやると感慨深いのか少し目に光るものが見える。レオが尻尾をぶんぶん振っているので喜んでいるということでいいだろう。相変わらずわかりやすくて助かると思うアキだった。

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