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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第六章 Sランク
94/1143

11

 エスタートの屋敷を出て自分の屋敷に戻ったのは午後3時を過ぎたくらいだった。エリスも同行させていたので、今日の午後の訓練はエリス抜きで対人練習をしていると思ったのだが、庭にミルナ達の姿はなかった。不思議に思いリビングに向かう。


「ミルナ、なんでここに?訓練はもう終わった?」

「いいえ、今日はしてませんわ。」

「なんでまた?」

「あ、あれよ!ボイなんとかよ!」


 エレンの言葉に首を傾げるアキ。


「エレン、ボイコットだよ。」


 レオがエレンに耳打ちする。


「そう、それよ!」


 あほの子丸出しだなと思うアキ。一体これになんの意図があるのだろうかとミルナを見つめる。


「そうですわ、ボ、ボイコットですわ!ふんっ。」


 見つめられたミルナは少し照れるが直ぐに拗ねたように顔を背ける。


「そうです、ボイコットです!」


 ソフィーも同調の声をあげる。


「あはは……ぼ、僕は一応反対したんだよ?でも気持ちはわかるかなー……。」


 レオは居心地が悪そうな顔をする。レオは真面目だからなとアキは思う。理由はわからんがどうせ発案者はミルナあたりだろう。


「一応理由を聞かせてくれ。」


 なんとなく想像はついているが、アキは確認の為に彼女達に尋ねる。


「アキさんが構ってくれないからですー!ずっとアリアさんやセシルさんと一緒にお出掛けばっかしてずるい!私も行きたいです!ミルナさんやエレンもずるいずるいって駄々こねていたんですー!」


 ソフィーが一気に捲くし立てる。


「ソフィー、ななななにを言ってるんですの!」

「ちょ!ソフィー!」


 ミルナとエレンの恥部までさらっと暴露したソフィーの口を慌てて塞ぐ2人。


「へぇ、そうなんだ。」

「ち、ちがうんだからね!勘違いしないでよね!」


 相変わらずのテンプレツンデレなエレン。デフォでそのセリフが出てくるって凄いなと無駄に感心する。


「し、しりません!」


 エレンに続いてミルナの方を見るが、彼女は黙秘権を行使するようだ。


 アキとしてもそうだろうなとの想像はついていた。最近は訓練の時に話したりするくらいで彼女達との時間をあまり持てていない。午前は図書館にアリアやセシルと行っているし、午後の訓練が終わってからはセシルと情報を整理する為に部屋に籠っている。ミルナ達も邪魔をしないようにと我慢をしていたのだろうが、ついに限界がきたようだ。


「やれやれ、しょうがないな。気持ちは嬉しいけど皆には目的があるでしょ?」

「わかってます!でもこれはこれなのです!やる気の問題なんです!どうしようもないんですー!」


 ソフィーが必死に身振り手振りで訴える。


 しかし彼女達のやる気が出ないのは問題だ。いくらイリアという目的があると言っても所詮17,8の女の子。多感なお年頃なのはしょうがない。まあそんな自分も18なんだがな……と年不相応な考えに苦笑する。


「わかった……とりあえず案がある。その前にミルナ。」

「は、はい。」


 怒られると思ったのか、急に呼ばれたミルナは少し身を縮こまらせて返事をする。だがアキはミルナが座っているソファーの背後まで移動して肩を揉んでやる。


「ひゃん……急に何を!」


 急に肩を揉まれて変な声を出すミルナ。


「たいしたことはできないけど、マッサージで労いくらいはさせてくれ。」

「あ、ありがとうございます。」


 少し照れながらも嬉しそうにしているので労いの効果はありそうだ。


「結構凝ってるね。」

「そ、そうですの?」

「やっぱり胸が大きいと凝るのかな?いっつも揺らしてるもんねー。」

「ちょっと!そういう事は言わないで!もうバカ!」


 反論してくる余裕があるみたいなので、少し強めにマッサージしてやる。


「あん、んっ……気持ちいいですわ……。」


 急に強く揉まれて煽情的な声を出すミルナ。


「ん……あっ……あん……」


 いつまで経っても止まらないので、一応注意しておく。


「エロい声だすな。」

「だ、だしてないですわ!」

「いいや、エロい。俺も男なんだから気を付けろ。」

「は、はい……。」


 やっと自覚してくれたのか声を出さないように必死に我慢している。その姿も煽情的なのだが……可哀そうなので言わないでおいてやる。


「アキさん!エッチな声ってやっぱり男の人としては女を感じるんですかー?」

「そりゃそうだろう?」


 ソフィーが当然の事を聞いてくる。アキの返事を聞いた途端「なるほどです」と頷いて、何か思うところがあるのかぶつぶつ呟いている。


「僕も次やって?」


 レオがお願いしてくるので当然了承する。


「私もです!」


 レオは常日頃から大剣を振っているし肩も凝るだろう。ソフィーも胸がそこそこあるし、弓矢は意外と弦を引いたりするから凝ってそうだ。偶には家族サービスしてやらないとな、と休日の父親みたいな感覚になる。


「あれ、エレンはいいの?」

「知ってるのよ!どうせ『私も!』っていったら『エレンは断崖絶壁だから、凝らないでしょ?ぷっ』とかって言うんでしょ!その手には乗らないんだからね!」


 エレンの綺麗なオッドアイがアキを睨みつける。1人だけ黙っていると思ったらそういう事らしい。エレンも学習するようだ。


「え、そんな事言わないけど?俺は男だから胸で肩が凝るとかわからないんだよね。女性だったら大きさとか関係なく胸はあるし、肩は凝ると思ってたよ。」


 アキが大真面目にエレンに語る。


「そ、そうなの……?」

「でもエレンが必要ないっていうなら。」

「だ、だめよ!私も、私にもしなさい!」


 アキの言葉を聞いてあっさり手のひらを返したエレンが命令してくる。


「え?エレンは断崖絶壁だから、凝らないでしょ?ぷっ。」

「はあああああ!今の会話はなんだったのよ!ぶっ殺す!絶対殺すわ!」


 いつものやり取りで和んだのか、皆楽しそうな顔をしている。弄られたエレンもどこか満足気だ。その後もレオとエレンをマッサージしてやり、みんな気持ちよかったと嬉しそうに言ってくれた。


「あとはソフィーか、じゃあここに座って。」

「はーい!」


 ソフィーが嬉しそうにソファーに座り、早く早くと催促する。


「やっぱ弓矢って肩凝るの?」

「どうですかね?凝ってますー?」


 逆に聞き返されたので、とりあえずソフィーの肩に手を置いて軽く肩甲骨辺りを揉んでやる。


「ああああああああああんんん!いやあああああんん!」


 わざとらしく大声で叫ぶソフィー。どうやらエロい声を出そうとしているらしい。アキが無言でアリアの方を見る。すると全てを察してくれたらしく、円形の銀のトレーを手渡してくれたので手加減なしで思いっきりソフィーの頭をひっぱたく。


 カーン。


 甲高い金属音が室内に響く。どうせアキの力とソフィーの防御力を考えれば大したダメージにならないというのはわかっている。トレーもそんな固い素材じゃないし。


「あ、頭がぐわんぐわんいってますー……うぅ……痛い……アキさんなにするんですかー!」


 ソフィーが頭を抑えて涙目でアキの方を見つめてくる。


「え?わからないの?もう一発いっとく?マッサージも辞めるよ?」


 アキは再びトレーを振り上げる。ミルナ達だけでなくセシルやエリスも含めた全員が「馬鹿だなー……」という呆れた表情でソフィーを見ていた。


「待って!待って!私が悪かったです、余計な事しました!だから辞めないでください!」


 必死に懇願するのでやれやれと思いマッサージを再開する。ミルナとのやり取りを聞いて実行しようとしたのだろう。このエルフ様の暴走癖は相変わらず直ってないみたいだ。


「ソフィーにはああいうのは似合わないんだから辞めとけ。そのままで可愛いんだから。」

「えへへ……わかりましたー。」


 嬉しそうに微笑むソフィー。


「ああいうのは、わがままボディで露出の多い服装してるのに、エロい知識が壊滅的なミルナがやるからエロいんだ。」

「まさかの飛び火ですわ!?しかも前半部分関係ないですよね!最後だけでいいですわよね!」

「ああ、ごめん。ミルナがやるからエロいんだ。さすがミルナ、エロい。」

「やめて!どのみち恥ずかしいですわ!言い直さなくてもいいから!」


 その後もミルナ達とくだらない談笑をしつつ、腕などもマッサージをしてやる。ついでにアリアとセシル、それにエリスにもしておいた。3人とも口には出さなかったが、表情でして欲しそうなのが丸わかりだ。エリスは気持いいと褒めてくれ、セシルは耳もついでに触ったので目を細めて夢見心地になっていた。アリアだけは最後まで遠慮していたが、なんだかんだマッサージされたら嬉しそうにしていた。皆満足してくれたようだ。こんな日常的な時間、暫く過ごしていなかったのでアキとしてもいい息抜きになった。


「最初に言っていた考えなんだけど、闘技大会まであと2週間と少しだよね?だから4日前までに訓練を終わらせよう。訓練最後の日に再度、エリスと模擬戦をしろ。そこで4人が勝ったら、闘技大会までは休日にして俺がなんでもいう事を聞く。」

「ほんとですかー!」


 ソフィーが前のめりになって聞いてくる。


「遊びでも買い物でもなんでも付き合う。Sランクに勝てたご褒美だ。さすがに闘技大会の前日は家で最終調整と休息、これは譲れない。だが間の3日はなんでもみんなに付き合う。」


 これだけ人参をぶら下げておけばやる気を出してくれるだろう。幸いにもアキ自身が彼女達にとっての人参なので都合がいい。彼女達がアキの事を想ってくれているのは心から嬉しいが、それが彼女達の目標達成の力となるのであれば、やはりその気持ちすらも利用していくつもりだ。


「やる気でた?」

「でましたわ!絶対アキさんに買い物に付き合って貰いますわ!」

「でました!頑張ります!お出掛けしましょー!」

「か、覚悟しなさい、徹底的に連れまわしてやるんだからね!」

「僕も僕も!アキと色々行ってみたいとこある!」


 ミルナ、ソフィー、エレン、レオが元気に返事をする。この達のテンションがもの凄い事になっている。アキの提案したご褒美が最高の人参になったようだ。


「もう勝った気でいるのか……やる気出してくれたのは良い事だけどね。でもエリスはそんな甘い相手じゃないよ?」

「大丈夫です!アキさんがついてます!」


 えっへんと勝ち誇った顔をするソフィー。


「いや、俺は口ださないからね?みんなでなんとかしなさい。」

「そ、そんな……。」


 ソフィーのドヤ顔が一転して絶望の表情になる。アキがエリスとの模擬戦に口を出さないのは、彼女達が学んだ事や成長したところを見たいからだと説明する。


 さらにソフィー達に追い打ちをかけるようにアキはエリスに告げる。


「エリス。本気でやれ。もしエリスが勝ったらエリスのいう事をなんでも聞こう。」

「ほんとか!やる気でたぞ!本気で、全力で叩き潰してやるのだ!」


 エリスにも当然やる気を出させておく。同情してわざと負けたりはしないだろうが、本気のSランクを相手にしなければミルナ達には意味がない。


「おに!あくま!ひとでなしー!」


 ソフィーが涙目になりながら叫ぶ。酷い言われようだ。


「アキは僕達と遊びたくないの……?」


 レオが尻尾をしゅんとさせて悲しそうに尋ねてきた。


「遊びたいよ?でも俺が信頼しているリオナ達なら出来るって思ってる。だから皆とどこに行こうかなってもう考えているよ。それに手を抜いたんじゃ意味ないでしょ?必死に努力して頑張って勝ち取ったご褒美だから意味があるんだと俺は思う。」

「うん……わかった。僕、頑張るね!」


 レオが力強く頷く。それに続いてミルナ、エレン、ソフィーの目にもやる気が漲っている。うまく発破を掛けられたようで一安心だ。とりあえずあと2週間、彼女達には頑張ってもらうしかない。当然自分自身も彼女達のお手本となるようにさらに頑張らねばと気合を入れなおす。

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