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「重要な話は終わったし3人を呼ぶね。」
「うむ、構わんぞ。」
アキはエスタートのメイドにお願いしてセシル、アリア、エリスを呼んでもらう。程なくして3人が部屋に入って来る。
「商談はおわりました?」
セシルが耳をぴくぴくさせながら訪ねてきた。
「おわったよ。」
「なんで私達まで連れてきたんですか?商談だけならアキさんだけで大丈夫ですよね。」
「あれ、セシルは来るの嫌だった?」
「ち、違います!ただ疑問に思っただけです!」
セシルが慌てて否定する。
「冗談。エリスは闘技大会関連の話をするからいて欲しかった。アリアは優秀なメイドだから。彼女がいるといないとでは俺の仕事の効率が大きく違う。」
「なるほど。あれ?私は?」
「え、耳要因だけど?」
アキが大真面目な顔で答える。
「なんで!なんで私だけそんな微妙な要因なんですか!」
「微妙じゃない。最重要だ。」
「それはそれで複雑な気分です!」
実際はセシルが持つ冒険者の情報、そして情報整理能力が欲しかったからだけど言ってはやらない。どうせ本人もわかっている。
「で、セシル。本題。闘技大会、結局何組申し込んだ?」
セシルには闘技大会の申し込みが終わってから改めて参加者について調べてもらっていた。午後の訓練にセシルは参加しないので、その時間を利用して調べるようにお願いしている。以前の情報収集ではAランクの情報が全く集まらなかった。闘技大会関連の情報収集方法を考えなければならないと思っていたが、セシルに相談したら「申し込みが終了したら、すぐわかります。問題ないです。」と言ってくれたので全て任せる事にした。
セシル曰く、冒険者協会で見張っていれば王都にいるAランクは自ずとわかるらしい。まあ、元受付嬢のセシルだから出来る芸当だ。それに闘技大会の申し込み期間が終わると参加者はこぞって依頼を受け腕を磨くらしく、冒険者協会によく出没するとのこと。アキ達の様に引きこもって訓練しているなら別だが、そういう連中は稀らしい。その冒険者協会で見かけたAランクを全て分析すれば闘技大会の傾向と対策は容易だというのがセシルの見立てだ。
「冒険者協会で見かけたAランクは今日までで20組。闘技大会に申し込んだのはアキさん達を含めて16組。5組は申し込まなかった事になります。ちなみに受付嬢の子に確認したところ、闘技大会に申し込んだ冒険者はその20組の中に全ているそうです。」
受付嬢がそんな情報を漏らしていいのかと思ったが、別に聞けば教えてくれるそうだ。特に隠さなければいけない決まりはないらしい。そもそも聞く人がめったに居ないのだとか。情報収集に苦労するだろうと考えていたがそんなことは全くなかった。まさか聞けば教えてくれるとは知らなかったし。まあ、セシルの冒険者ランクを見ただけで見抜ける観察眼があってこその調査方法ではあるが。
つまりアキのように申し込みだけこっそりして、協会に訪問していない参加者はいないということになる。これでさらに闘技大会の対策が容易になった。
「全員馬鹿で助かりました。」
セシルが珍しく毒舌だ。
「というより戦闘にしか興味ないんですかね?それか自分が強いと勘違いしているか。私の予想だと多分後者ですね。アキさんの様に強かに実力を隠して勝ち抜こうとは微塵も思ってないようです。」
アキは事前に調べて貰いたい事をセシルに伝えておいた。武器、防具、性別、身長、体格、性格などだ。脳筋連中であれば武器や防具を堂々と装備しているだろうし、性別、身長、体格はみればわかる。性格については話し方や内容から推測しろと言った。
「アキさんの言う通り、武器を堂々と装備していました。体格などはこちらに記録してあります。性格は私の予想を書いておきましたが、会話内容も書いたのでアキさんも推測して、私の意見と照らし合わせましょう。」
「さすがセシル、優秀で助かる。」
「そ、そんなことないです……。」
彼女は褒められたのが恥ずかしいのか謙遜するが、アキが依頼した事だけでなく、さらに一歩進んだ結果を出してくれる。間違いなく優秀な人材だ。
「しかし命を懸ける戦いなのに、大事な情報である自分の武器を大会前に晒すかね……。普通隠さないか?」
「それがわからないからAランクなのだ。対人戦と魔獣討伐が根本的に違う事に気付かないのだ。」
静かに2人の話を聞いていたエリスが口を挟んでくる。
「正直このメモを読むまでもないかもしれません。武器は大体剣か大剣。性格は……悪い人ではないようですが馬鹿です。そして自信家です。自分は誰よりも強いと思っている脳筋という言葉がぴったりな人達です。」
セシルの毒舌が止まらない。少し苛ついているようにも見える。
「私、自己中心的な人って大嫌いなのです。自分の事しか考えない、周りが見えていない。いくら悪い人でなかろうが、そういう人って他人の気持ちを理解しようともしませんから。自分以外の人間もいるってわからないんですかね?ほんと馬鹿です。死ねばいいのに。」
言葉に熱が籠っている。過去に嫌な経験でもしたのだろう。
「セシルの中で俺は及第点?」
「はい!私的には男はアキさんくらい強かじゃないとイヤです。察しが良すぎるのはどうかと思いますが、それだけちゃんと相手の気持ちを見ようとしているという事ですから。」
そういうとセシルは優しい微笑みをアキに向ける。
「それは光栄だね。とりあえず闘技大会の参加者は心配ないということか。エリスに比べたらだけどね。俺には手が余るかもしれないけどエリスと訓練しているうちの子達なら余裕だろう。」
エリスの方見て確認する。
「そうだな、アキが見込んだだけはあった。技術はまだまだだが、上達も早いし彼女達なら問題ないだろう。その確認の為に私を呼んだのか?」
勿論それが彼女に対する本題ではない。
「闘技大会に参加するこの国の残りのSランクについて聞いておきたくてね。決勝まで行ったとしてエリスが絶対に出てくるとは限らないだろう?」
「ううむ、何としてでも私が出たいが……ほかの2人も希望した場合どうなるかわからん。普段ならありえんと言いたいが、今回に関してはアキ達の実力を見て、戦いたいと思うかもしれん。なんせ私がそう思っているのだ!」
力強く頷きながらエリスが語る。
「エリスに認められるのは嬉しいな。」
「そ、そうか……?」
褒められると可愛らしい女の子になるのが彼女の特徴だ。
「それで残りの2人のSランクはどんな奴だ?」
コホンとわざとらしく咳払いをして、エリスは説明を始める。1人目は剣1本で戦う男の剣士。正義感がつよく真面目。実力は当然折り紙付きでエリスと同等くらい。ただエリスが速度・攻撃力のバランスタイプなら彼は速度特化で攻撃力は低め。速度を生かして手数で敵を屠るという。
「1撃では致命傷になりにくいかな。ただ手数に押されて反撃できない可能性はあるね。ちなみにもう1人は?」
2人目も男でオールラウンダーだとエリスは言う。武器はなんでも水準以上に使いこなし、その時の気分によって変えている。性格は先ほどの剣士とは真逆。正義感は特になく、強い相手と戦えればなんでもいい。真っ向勝負ではなく、騙し討ち、舌戦などなんでも有り。とりあえず敵を倒せさえすれば何でもいい主義らしい。ただ実力はわからないとのこと。
「奴が戦闘しているとこなど見たことないからな。まあ、それは2人共に言えることだが。チーム組んでいるわけでもない。あくまで私が彼らと話した感想だ。闘技大会中は意外と暇なのだ。剣士のほうは昨年の大会でSランク戦に出たので少しだけ戦闘は見た。だが本気とは程遠いだろうからちゃんと『見た』とは言えないかもな。」
「2人目のほうがめんどくさそうだ。どちらかというと俺に近い人種かもしれないな。」
「ふふ、戦闘に関してはそうかもな。でもアキは性格悪くないし、全然違う。」
顔にかかった綺麗な金髪を耳にかけながらエリスはアキの方をみて微笑む。その自然で美しい所作についつい見惚れてしまう。魅入ってしまったのを隠すようにアキは適当に話を逸らす。
「まあ、性格の悪さだったらアリアには適わないからな……。」
「否定はしません。でもアキさんに言われるのは少々不本意です。」
いつものように仏頂面でアキの側に控えていたアリアがアキの言葉を聞いて少し拗ねたような顔をする。
「冗談だ、アリアが本当は素直で優しいのは知っているからね。」
「そ、そうですか……それならいいです。」
さらっと褒めた事に不意を突かれたのか、少し口籠るアリア。女性にさらっとこういう事を意識しないで言う自分の性格は改めた方がいいのかもしれない。海外での生活で身についてしまった事だが、あまり不用意に使うのは余計な女性を落としかねない。先日ミルナ達に注意されたばかりだ。地球に比べてこちらの世界の女性はそういう言葉に免疫がないのだから。だが言われた当人達は幸せそうだし、人心掌握術としては相変わらず有効なわけだから使わない手はない。結局、結論としては「今のままでいい」が最善だろう。
「さて、爺ちゃん。大方話も終わったし、そろそろ帰るよ。」
「そうか、寂しいが仕方あるまい。また遊びにきてくれ。」
「ああ、落ち着いたら温泉でも行こうか。」
「ほほほ、そりゃいいの!楽しみにしておるわい。」




