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改めてセシルが気づかせてくれた事に思考を向ける。アキがこの世界に来た切欠、それは地球で発見された人工遺物。あれのおかげで異世界があると確信して、異世界渡航を可能にする装置を作成した。だが逆を言えば、あの人工遺物はどうやって地球に来た?アキが制作した機械の仕組みを簡単に説明すると、空間に歪を作り別の次元の世界へと移動する。アキは全ての人工遺物が発見された場所の環境や状態を徹底的に分析し、共通点を見つけていた。どの場所でもある一定の環境条件になっていた瞬間が存在したのを発見したのだ。気温、気圧、湿度、照度等、考えうる全ての環境状態をその瞬間に合わせれば空間に歪が出来ると考え、その装置を作った。案の定、歪は発生し現在に至るというわけだ。
そうなると地球に現れた人工遺物、あれはそもそもなんだ?地球に存在した物質じゃないのは確認した。だが今のところ、この世界でも見ていない。そしてあれは偶発的に地球にやってきたのか、それとも誰かが意図して送り込んだのか。この世界の素材や技術を考えるとアキが作った転送機械を作る事は不可能。ただ魔素により代用できる可能性は十分にある。
「あれか?あの人工遺物になにかあるのか?」
あの時の遺物の写真はタブレットに入っている、セシルとアリアに見て貰おう。彼女達なら情報共有しても漏れないと信じられる。アリステールの計画の時、俺に怒ってくれたこの2人なら問題ない。ちょうどタイミングを見計らったかのようにアリアがお茶を持って部屋に入ってくる。
「アキさん、お茶をお持ちしました。」
「ありがとう、ちょうどよかった。アリアこっち来て。」
「はい、いかがしましたか?」
「セシルも。2人ともこれ何かわかる?」
アキはそう言ってタブレットに保存しておいた、地球で見つかった遺物の写真を数枚見せる。一応発見された全ての画像を入れてある。こちらに来る際に何かしら役に立つと思ったし、そもそもこれが何なのか調査しようと思い入れておいた。それなのに忘れていた自分が情けない。
「いえ……私はわりません。申し訳ありません。」
力になれないのが悔しいのか、アリアは悲しそうな顔をする。
「気にするな、セシルは?」
「うーん、何かはわかりません。ですがわかる事もあります。」
そう言ってセシルは人工遺物の剣の柄や盾の持手に刻印されている印を指す。アキも何かの印だとは思っていたが何かわからなかったやつだ。
「これは紋章です。王家の。これがエスペラルド、こちらはリオレンド。あと1個はわかりません……ミレーやサルマリアに似ている気はしますが違いますし……。」
他2つが王家の紋章。最後の1つはどちらもでもない。可能性としては過去の国。
「もしかしてミレマリアか?」
「あ、なるほど!そうかもしれません。私もミレマリアの紋章は見た事ないので断言はできませんが。」
その線でおそらく間違いないだろう。両国の物と似ているという事は、ミレマリアの紋章をベースに新国の紋章を決めたのだろう。
「続きですが、武器に紋章を入れるというのは珍しい事です。王家の武器と認定しているわけですから。」
「つまり国宝級?」
「はい、それから推測するに、これはおそらく王家所有だった武器です。それもアキさんのおっしゃる通り国宝級。素材も多分特殊なものなのでしょう。」
アキはセシルの話が正しいと仮定して、それを元に質問する。
「国宝級の武器って冒険者に渡ったりするもの?」
「ありえません。王が冒険者に武器を賜う事はあるでしょう、ですがその時に紋章はいれません。紋章が入っている武器は王家の者以外が所有することは絶対ないです。王家が意図して流出させたり、盗まれたりしたら別ですが……。」
「ありがとう、さすがセシル参考になった。」
アキはそう言って思考に戻る。セシルは耳を触られると思い防御していたのだが、アキがしてこないのを見て逆に寂しそうな顔している。
セシルの説明から考察するに、この武器は王家所有、国宝級の武器。それが地球に現れた。それはまだいいとしよう。ただ、各国の国宝級武器がいくつも地球に転送したのが不自然だ。偶発的な現象ではないだろう。揃いも揃って紋章入りの武器だけが転送される確率なんて天文学的数値だ。つまり、各国の王家が意図して転送したか、誰かが盗んで何かをしようとして転送された。異世界へと運ばれたのは偶然の可能性はあるが、転送自体は意図的なものだろう。問題はこの武器の役割。おそらくこれで何かをしようとしていたのだろうと推測できる。
ただこの武器がいつ頃この世界から消えたものなのかはわからない。ミレマリアの紋章があったからと言って290年前に転送されたとも言い切れない。国宝級武器であれば当然各国が厳重に保管しているだろう。この世界から国宝級武器が消えた時期も調べる必要がありそうだ。
「武器の素材わからないかな……エリスならもしかして。」
Sランクとして様々依頼、国、武器を見てきたエリスであれば検討がつくかもしれない。そう思い、エリスを部屋に呼ぶ。
「アキ、どうしたのだ?」
エリスが部屋に入るなり聞く。
「うん、ちょっと見て欲しいものがあって。」
真剣な表情でエリスに答える。
「だ、ダメだ!アキ!そういうのはダメだと思うぞ!」
「え、なんで焦ってるの?」
急に取り乱したエリスを見て不思議に思うが、すぐに思い当たる節があった。
「もう話が読めた気がする。エリス、念のために聞くが、何がダメ?誰に何を教わった?」
「アリアに……その男が見せたいものがあるっていう時は……その……。」
「もういい、わかった。」
そんな事だろうと思い、アリアを見る。
「アリア。」
「いやです!捨てないで!」
言葉を終わらせる前にアリアが遮る。
「わかってるならすんなよ……。教えろと言った俺が悪いのはわかる。だが余計な事まで教えんなよ。」
溜息を吐き、改めてエリスに説明する。
「この写真の武器の素材、わかるか?」
おそらく紋章や武器の出どころなどはエレンにはわからないだろう。
「こ、これは!オリハルコンじゃないか!」
「え、こんな冴えない色をしているやつが?」
「ああ、色はくすんでいるがそれがオリハルコンの特徴だ。多分な。前に依頼で王に謁見した際に同じ素材の武器を見た事がある。あれが本当にオリハルコンなら、これもそれと同じだ。武器を見る目には自信があるのだ。」
エリスに礼をいい、訓練に戻ってもらう。
しかし、本当にオリハルコンだとしたらちょっと驚きだ。地球ではオリハルコンとは古代ギリシアの文献に登場する幻の金属。素材については諸説あるが、所詮物語の中に出てくる未知の物質という認識だ。
アキも当然見た事なんてあるわけない。地球の人間でオリハルコンを見た事ある者はいないだろう。研修者が必死に遺物の素材について材料検査等をして調べたけど、どの検査も既存の金属とは違う数値だった。わかるわけがないのも当然かとアキは苦笑する。そもそもオリハルコンは地球に存在しないのだから。
とりあえずこの金属はオリハルコンという事でいいだろう。これが本当にオリハルコンかどうかなんて証明できない。エリスだってオリハルコンを持っていないし、あくまで見た事があるというだけ。多分、王が武器の説明でもする際に素材をオリハルコンと言ったのだろう。それと同じというのだから、エリスの慧眼と王の言葉を信じるとしよう。まあ、これが本当にオリハルコンかどうかはともかく、王家所有の武器、特殊な素材というのは間違いなさそうだ。
「この世界から消えた王家所有の国宝級オリハルコン武器、それは何故か。」
6.オリハルコン武器と地球への転移、その因果関係について
また1個増えた疑問をメモに書き足す。少し進めば疑問も増える。なんとももどかしい。
「爺ちゃんならオリハルコンについて何か知っているかもしれないな、明日は図書館じゃなくて爺ちゃんを尋ねてみるか。」
今日の調べものはこれくらいでいいだろう。それにそろそろ庭に行かないとうちの子達が五月蠅そうだとアキは部屋を出てミルナ達の元へ向かう。




