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リオレンドに入り、馬車を走らせて数時間。
「アキ、これからどうするの?私はどこへアキを案内すればいいのかな?」
リオナが聞いて来る。
そう言えばリオレンドではどうするのか言っていなかった。
リオレンドでの用事はリオナの両親への挨拶なので、リオナの故郷へ直行したいところなのだが、リオレンドの王女であるシルヴィには王都へ来いと言われている。あの王女にはあまり会いたくないので無視したいが、それをすると後が面倒だ。それに国王のリオルグにも是非と言われているのでさすがに顔を出さないわけにはいかないだろう。
リオナもそれをわかっているからアキに「どうすればいい?」と聞いてきているのだ。そしてリオナがこのタイミングで聞いて来ると言う事は、この先に王都とリオナの故郷へ向かう道の分岐点でもあるのだろう。
ちなみにエスぺラルドからリオレンドに入るまでは2日かかったのだが、その間にリオナからリオレンドの事は色々と教えてもらった。
それを少し紹介しよう。
リオレンドが寒冷地なのはもう言うまでもないだろう。街の雰囲気もエスぺラルドと大差がなく、違いは街行く人の姿格好くらいだ。
ではリオレンドの特色は何かというと、それは当然寒冷地ならではの生産物。リオナの説明によると、リオレンドは毛皮のような皮製品の産業が盛んで、他国への輸出も多く行っており、リオレンドのほとんどの人がそれ関連の産業に従事しているのだとか。冒険者は毛皮をもつ獣や魔獣を狩り、職人がその皮を剥いで加工する。各商会はそれを仕入れて各国へ輸出して利益を得る。リオレンドの国益のほとんどはこの皮製品に頼ったものらしい。
一方で農業といった産業はあまり盛んではないようだ。というより過去に農業を試みたが、ほとんどが不作だったらしく、今ではまったく行われていないのだとか。だからリオレンドは時折食料問題に陥るらしい。肉は獣を狩ればいいだけなので問題ないが、野菜や魚に関してはそのほとんどが他国からの輸入に頼っているので、貿易が何かしらの原因で停滞すると、野菜が一切入って来なくなるのが原因のようだ。
これも寒冷地ならではの問題なのだろう。ただリオナからしてみれば「別にお肉あるし平気だよ。みんなはよく騒いでるけどね」との事らしい。まあリオナは肉食系女子だからな。野菜が食べられなくても別に不便はないのだろう。だがアキからしてみれば死活問題だ。改めて気候が穏やかなエスぺラルドに住んでいる事に感謝した。
とりあえずリオレンドの紹介は以上だ。あとは実際に現地へ行ってみて色々観光してみるとしよう。
ではまずそのどこへ行くかだが・・・
「王都で頼む。」
やはりここは面倒事が先だろう。リオナの故郷へ行く前に、シルヴィへの挨拶を済ませるとしよう。リオレンドの王都も一応見ておきたいし、まずは王都に行くのがベストだ。
「うん、わかった。」
リオナは了解と頷くと、早速御者に指示を出しに行ってくれた。
「アキさん・・・本当に行くんですか・・・?」
そしてリオナとの会話が途切れたタイミングでベルが情けない声で懇願するように問いかけてくる。やはりシルヴィと会うのが嫌なのだろう。それにリオレンドの王子に対しても婚約を断ったばかり。そう言う意味でも色々と気まずいのかもしれない。
「行くしかないだろ。」
アキとてあの王女と会うのは嫌だ。決して悪い王女ではないが、非常に面倒。何が面倒かは・・・今更言うまでもないだろう。
「そうですよね・・・」
「そんなに嫌か?」
「嫌です!当たり前です!!」
「まあ俺も嫌だけど。でもシルヴィの両親は別に悪い人ではないだろ。」
それにシルヴィの父親であるリオルグはこの国の国王。さすがにエスぺラルドの王女であるベルとしては挨拶をしないわけにはいかないだろう。
「そうなんです。だから余計に質が悪いといいますか・・・リオルグ陛下にお会いするのはいいんですが・・・あの王女は・・・」
深い溜息を吐きながら愚痴を言い始めたベル。彼女が愚痴を言うのは相当珍しい。まあそれだけシルヴィが嫌だと言う事か。
「ステラとどっちがましだ?」
「当然ステラさんです。ステラさんは鬱陶しですが好意的なのでまだ我慢できます。」
シルヴィとは比べるまでもないらしく、即答するベル。
「はぁ・・・アキさん、わかってるんですよね?行ったら引き留められますよ?鬱陶しいですよ?それでも本当に行くんですか?」
しつこいくらいに「やめましょう」とお願いしてくる。確かにベルの言う通りシルヴィに付き纏われるのは避けたい。
「いざとなればベルをシルヴィに差し出してリオナの故郷へ行くから大丈夫だ。」
シルヴィの趣味はベルを苛める事のようだし、ベルをおいてくれば問題解決だ。
「ちょっとアキさん!私がどうなってもいいんですか!!!」
「よくないけど?」
「じゃあおいてかないで!ちゃんと私も連れて行ってください!!!」
ベルがあまりにも必死で面白い。
勿論ベルをおいていくなんてのは冗談だ。普段のベルならそんな事はわかるはずだが・・・その正常な判断が出来ないくらい、ベルはシルヴィの事が苦手らしい。
「冗談だ。おいてかないよ。」
「ほ、ほんとですね!」
絶対ですよとベルが何度も何度も確認してくる。こういうベルは本当に珍しいのでもう少し観察していたいが、これ以上苛めるのはちょっと可哀そうだ。
「よしよし、俺がベルをおいていくわけないだろ。」
ぽんぽんとベルを撫でてやる。
「うぅ・・・よかったです・・・」
「ただいま・・・ってあれ?どうかしたの?」
丁度その時、リオナが戻ってきた。