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アキはそれから2週間程、午前は図書館、午後はミルナ達の訓練に付き合いう日々を繰り返した。闘技大会の申し込みも滞りなく完了している。本番まであと3週間。このペースなら恐らく余裕で勝ち抜ける。おそらく苦戦するのは最後のSランク戦だけだろう。
とりあえず図書館で調べていたものを考察することから始める。だがその前に……。
「セシル、これ本当に助かるよ。」
「いえ!私のお仕事ですから。」
図書館で調べた事は適宜セシルにメモって貰っていた。さらにそれがある程度溜まったら、アキが読みやすいように纏めてくれている。
「さすがセシル優秀だ。」
「そ、そんなことないで……ひゃ!耳……耳ダメ。」
「ダメ?」
「ダメじゃないけど……。」
考え事に行き詰った時に癒しも提供してくれる素晴らしい秘書だと思うアキ。今はアキの部屋で書類を纏めたりしているのでセシルと2人きりだ。さすがに図書館では出来ないし、リビングでやると皆に、主にソフィーに、お話されそうなので皆の前では最近は控えている。
さて、まずわかった事。この大陸の歴史は300年ほど遡る辺りまで記録が残っている。歴史書によると、エスペラルド王3世が誕生してからの記録だ。そしてちょうどその頃、内乱により大陸が分割して3つに割れた。エスペラルド、リオレンド、ミレマリア。これはミルナの説明と一致する。その後も内乱を10年程繰り返し、290年前にミレマリアが2分割され、ミレーとサルマリアが誕生。その辺りから魔獣が現れ、内乱や戦争が息を潜める。そこから現代までは魔獣との攻防が続く為、国通しの争いは起こっていない。冒険者制度や協会の設立も魔獣が確認された時期とほぼ同時。魔獣討伐に特化した職業を確立する為に冒険者制度を作ったと記してある。
これだけだ。2週間近く本を読み漁ってわかったことがこれだけ。とりあえずここから読み解いていくしかない。一見普通の歴史に見えるが、疑問に思う部分も多い。まず、300年より前の記録が何故無いのか。エスペラルド王3世以前の歴史、その時大陸はどう分断され、どういう国が存在していたのか。そして急な魔獣の誕生。まるで内乱を収めるかのように魔獣が跋扈し始めている。最後に冒険者制度設立のタイミング。魔獣の出現を予測していたように迅速で的確に制度が確立されている。記録を見る限り、現在の冒険者協会の仕組みとほぼ同じ。
4.この世界の300年以上前の歴史について
5.魔獣について
アキは追加で疑問をタブレットに書き足す。
「一歩前に進んだけど、余計情報が足りないことがわかった。」
一応魔法書なども目を通したが、ミルナの説明以上の事は書かれていない。むしろ魔素の原理を多少なりとも理解しているアキの方が詳しいくらいだ。他には魔獣の生態、大衆の生活、工業技術などの本も見たが役に立つものは特になかった。
「やはり閲覧制限区域か……。」
王立図書館には誰でも見ることができる一般区域と閲覧制限がかけられている区域があった。閲覧制限区域の書を見る事が出来るのは国の関係者とSランク冒険者。おそらくその区域の書に過去の歴史が記されている可能性が高い。
「おかげでわかることもあるが。」
過去の歴史の閲覧が制限されている。つまり一般に知られると不味い何かが過去にはあったと考えるのが妥当だ。存在しないということは無いだろう。それ以外にも魔獣の誕生の原因などの情報もあるはずだ。一般書の区域には魔獣の生態の本は腐る程あったが、何故、どうやって誕生しているかなどの記述が一切なかった。
「さらに面白いこともわかった。」
2週間も通い詰めていたので、司書の人とは日常会話できるくらいの顔見知りにはなった。悟られないように閲覧区域の書について聞いたところ、「Sランクで閲覧しに来たものはいない」らしい。もちろんその司書が働いている期間だけの話で、過去には閲覧に来たSランクもいるだろう。昔の司書にそんな話を聞いたことがあると言っていた。ただ現在の司書は勤続20年と言っていたので、既存のSランクは誰も見に来てないと言える。エリスの情報によると彼女を含めたエスペラルドのSランク3人は30歳未満らしい。
エリスであれば閲覧できるので頼むのも手だと思った。だがその閲覧制限書の内容をエリスが理解できるとも思えないし、それを知ってしまう事でエリスに迷惑がかかる可能性もある。明らかに過去の歴史に何かある上、国はそれを隠したがっている。それをエリスが知った事で何が起こるかわからない。不用意に頼むのは辞めた方がいいだろう。
「いい予感はしないな……Sになってその情報を見たら何か巻き込まれそうな予感しかしない。国とパイプを作るのも手か……。」
エリス曰く、既存のSランクは何も問題もなく活動しているらしい。裏を返せば、余計な情報を詮索してないからという可能性もある。イリアにSランク依頼が入ったのは何かを知っていたから?そしてイリアも何か知っていたから依頼を受けた?そして辿り着く結論、やはり情報が足りない。
「手詰まりか……。」
「アキさん、難しい顔してます。」
ずっと黙って考え事をしていたのでセシルに心配されたようだ。
「いや、まだまだ情報が足りないなと思って。」
「なるほど……力に慣れなくてすいません。」
「大丈夫だよ。」
セシルに礼を言う。情報整理してくれただけでも大助かりだと伝える。
「それがお仕事ですから!行き詰った時は息抜きするか、最初から考え直すといいっていいますよ。」
セシルが助言をくれる。ただ息抜きはミルナ達で遊んでいるので毎日やっているし、情報の整理や一から考えるのも何回もやっている事だ。
「この世界に来てからの情報は洗い……。」
アキが途中で言葉を切る。「この世界に来てからの情報は洗い直した」けど「前の世界での情報は?そもそも俺はなんでこの世界に来た?」という重大な見落としにアキは気付く。何故前の世界での出来事を忘れていたのか、自分らしくもない。アキは苦笑しつつ、セシルにお礼を言う。
「さすがセシル、頼りになる。」
「あっ……だから耳ダメだって……。」
自分が見落としていたことに気付かせてくれたお礼に耳を撫でてやる。
「お役に立てたのは嬉しいです。でもすぐ耳触るんだから……」
セシルはしょうがない人ですと頬を膨らませる。




