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「アキ君!この国寒い!寒いわよ!今すぐ帰りましょ!」
寒い、寒いとエリザが涙目で叫ぶ。
うん、やっぱりこうなったか。うちの猫は本当に予想を裏切らないな。
「いや帰らないけど。」
「なんでよ!あなたのお嫁さんがこんなに凍えているのよ!!」
そう叫ぶエリザは寒さで小刻みにぷるぷると震えている。
ちょっと可愛い。
「まあ確かに寒いけど・・・」
エスぺラルドを出発して数日、アキ達は無事リオレンドに入った。そしてリオナの言った通り、リオレンドに入った途端、急激に気温が下がった。国を跨いだくらいでここまで急に寒くなるのかと、驚いたくらいだ。地球だったら間違いなく異常気象と言われるだろう。
だからエリザが寒がるのもわかる。アキもさすがにいつもの服装だと寒かったのですぐに外套を羽織ったしな。
「でしょ!アキ君!凍え死ぬ前に帰るわよ!」
「だから帰らないって言ってるだろ。」
リオナの両親に挨拶しに行きたのだから、帰るという選択肢はない。そもそも寒いという事はわかっていたはず。準備不足のエリザが悪い。
「大体エリザは『余裕よ!』とか言っていただろ。」
「う、うるさいわね!猫だから仕方ないでしょ!猫は寒いのダメなの!アキ君もそう言ってたじゃない!」
いつもは猫扱いするなと怒るくせに、自分に都合の悪い時はすぐプライドを捨てて自ら猫になり下がるエリザ。まあこういうところが愛嬌があると言えなくもないのだが。
「とりあえず俺の横で丸まっておけ。少しはましになるだろ。」
「わかたわよ・・・そうするわ。」
そう言ってエリザはアキに抱きつくようにして丸まり、暖を取りはじめた。
「・・・あたたかいにゃ・・・むにゃ・・・」
人肌が暖かいのか、甘えたような声を出すエリザ。そしてすぐに寝息を立て始めた。多分体が温まって安心したのだろう。
「今日はエリザさんに譲りますわ。」
「そうですね。偶にはいいでしょう。」
ミルナとベルがなにやらボソボソと話し合っている。何を言っているのかはよく聞こえないが、きっとアキが知る必要のない事だろう。それに知っても後悔しそうだし、これ以上は触れないのが吉だ。
「ミルナとベルもその格好・・・似合っているぞ。」
とりあえず話題を逸らすのも兼ねて、2人の服装を褒める。ミルナ達もリオレンドに入ると寒かったのか、各々が持って来ていた上着やコートを着ていた。
「ふふ、当然ですわ!」
「ありがとうございます。このコート、今日の為に新調したんですよ?」
アキが褒めると、ミルナとベルの表情がパァっと明るくなった。2人とも褒めてもらえるのを待っていたようだ。まあ2人とも実際に似合っているしな。
ミルナはいつもの格好の上に漆黒の毛皮のコートを羽織っていて、もの凄く上品で色気のあるお姉さんと言った感じだ。そしてベルはシンプルながらも気品のある真っ白なコート。王女の風格が一層出ていて、ベルにぴったりだ。
「ミルナは綺麗だな。ベルは上品で可愛い。」
「「えへへ・・・」」
満足気に笑うミルナとベル。
「エレンも可愛いぞ?」
そんな2人の隣でエレンがちょっとだけ拗ねた顔をしていたので、エレンの事も褒める。
「ふ、ふん、別にアキに褒められたって嬉しくないんだからねっ!」
口ではいつものように素直じゃないが、顔はにやけているので嬉しいのはバレバレだ。やっぱりエレンは可愛い。
そしてエレンの服装も可愛い。さすがのエレンもリオレンドに入ってからはいつものへそを出しスタイルではなく、桃色のコートと白いロングスカートに着替えている。普段の服とは違い、とても落ち着いた雰囲気で、お淑やかな女の子スタイルだ。
「そしてソフィーは・・・いつもとあまり変わらないな?」
ミルナやエレンとは違い、ソフィはほとんどいつもと同じ格好だ。もしかしてエルフは狼獣人同様寒さに強いのだろうか。
「そーですー?でも寒いのでいつもより厚着ですよー?」
ソフィーはそう言うが、別にコートは着ていない。ただいつものショートパンツが長めになっていて、カーディガンのような薄い上着を羽織っている程度だ。
「まあ可愛いけど。」
「えへへ、やったーですー!」
「でも無理はするなよ?寒くないならいいけど、寒いなら俺の上着を・・・」
「寒いですー!アキさん上着を貸してくださいー!」
アキが言い終える前にソフィーが叫ぶ。
うん、絶対に嘘だ。だがまあ別に上着を貸すのくらいはかまわないので、アキは上着を一枚鞄から出してソフィーの膝にかけてやる。
「「アキさん!」」
「はいはい、ミルナとベルにも貸してやるから・・・」
もう2枚鞄から上着を取り出し、2人に貸してやる。
「「やったー!」」
ここで2人に貸すのを渋ったら絶対にソフィーと喧嘩を始めるからな。というかリオレンドが寒冷地だと聞いた時からこうなる事を確信していたので、上着を多めに持って来ておいたのだが・・・やはり正解だったようだ。
さて、この調子で残りの子達も褒めて行くとしよう。