59
ソフィーの生まれは言うまでもなくミスティアだ。そしてミスティアから旅立つまでの15年間、ソフィーはずっとミスティアで暮らしてきた。ただ今のソフィーとは違い、当時は物静かで人見知りだったようだ。人と話したりするのが苦手で、ずっと部屋に籠って本ばかり読んでいたのだとか。
「ここまでは大丈夫です?何か聞きたいことありますー?」
「いや、特にない。」
ここまでは以前ソフィーが話してくれた内容と一致するし、特に質問はない。ソフィーが物静かな性格だった事には相変わらず驚きだが、それが元来の性格だというなら、これ以上掘り下げる必要はないだろう。
それより何故今の性格にソフィーになったのかの方が気になる。ソフィーは「これでは人生損していると思ったからです!」と言っていたが、何が切欠でそう思うようになったのか。
「俺が気になるのは・・・いつ、どうして、今のソフィーになったのかだな。」
「はい。それを誰にも言った事なかったのですー」
「ユフィも知らないのか?」
「ですー。ユフィにも聞かれたけど言ってないです。」
ユフィは「今のソフィ」の一番の被害者だし、間違いなくソフィーを問い詰めたはず。それでもソフィーは言わなかった。つまりのっぴきならない理由があったのだろう。
「そんな言い辛いのに俺が聞いても大丈夫か?」
ソフィーはアキならいいと言ってくれたが、さすがに無理に聞くのは申し訳ない気がする。
「え?別に言い辛くなんかないですよ?」
「・・・え?」
予想外の返事につい素っ頓狂な声を出してしまう。
「?」
アキの反応にソフィーは不思議そうに首を傾げている。
「今まで誰にも言ってこなかったのは何か深刻な理由があるからでは・・・?」
「ないですー。大した理由じゃないですし、言い辛いとかないですよー?」
平然とした顔で言うソフィー。嘘を言っているようには見えない。つまり本当に大した理由ではないのだろう。では何故誰にも言わなかったのか。今度はそっちが気になってきた。
「なんで誰にも言わなかったんだ?」
「聞かれなかったからですー」
まあそれは当然だろう。というか昔のソフィーを知らないのであれば、ソフィーが変わったなんて思わない。そんなのは昔のソフィーを知っているミスティアの人間でなければ分からない事だろうし、しかもあの村の人間もほとんどがソフィーをユフィだと勘違いしていた。つまりソフィーの両親かユフィくらいしかソフィーの変化には気付いていなかったと言えるだろう。
「いやいや、ユフィには聞かれただろ・・・」
「アレは別です。アレは鬱陶しいので聞かれても言わなかったのです。」
そんな理由かよ。段々とユフィが不憫になってきた。
次に会った時、もう少し優しくしてあげよう。
「可哀そうだな・・・」
「全然可哀そうじゃないです!私の理由を聞いてくださいです!アキさん!」
ソフィーがもの凄い勢いで詰め寄ってきた。
「お、おう・・・とりあえず言ってみろ・・・」
「あの妹は元々鬱陶しかったのです!昔の私は根暗でずっとお部屋に閉じこもっていました。人と接するのが嫌いで、外に出たくない。だからお部屋で本を読んだりするのが唯一の楽しみだったのです。」
そしてそんな生活をしていたソフィーに、「姉さん、外に出てください」、「人生無駄にしてます」とユフィは口煩く言っていたらしい。それがソフィーには鬱陶しくて仕方なかったのだとか。傍から見ると引き篭もりの姉を心配するいい妹にしか見えないが・・・まあ当事者からしてみれば余計なお世話だと言う事なのだろう。
「つまりユフィに言われてソフィーは変わったんだな?そしてそれを本人に言うのが嫌だったって事でいいのか?」
話の流れから予想してみたが、多分こういう事なのではないだろうか。
「は?アキさんはお馬鹿なんです?そんなわけないです。ちゃんと私の話を最後まで聞いてくださいです。」
全然違うらしい。そして何故か滅茶苦茶怒られた。どうやら「ユフィのおかげ」とか勘違いされるのがソフィーにとっては何より嫌らしい。
「あ、すいません・・・最後まで聞きます・・・」
「それでいいんです。」
アキの謝罪に満足気にフンスと鼻を鳴らすソフィー。
「では改めて説明するです。耳をかっぽじってよく聞くです。」
うざい。今すぐこの駄エルフを引っ叩きたい。ただそれをすると肝心の理由を聞けなくなる気がしたので、グッと我慢した。
とりあえず引っ叩くのはあとにしよう。