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「ソフィー、どうした?さっきからボーっとして。」
ミスティアを出立してから数時間、アキはいつものようにミルナ達と雑談に興じていたのだが、ソフィーだけは窓の外を眺めてボーっとしていた。普段なら真っ先に「私が」と話題の中心に入ってこようとするのに、これは珍しい。というか大丈夫か心配になる。
「え?あ、はい。大丈夫ですー」
「それならいいけど・・・さっきから静かだぞ?」
「ちょっと昔を思い出していたのですー」
どうやら久々に故郷に帰った事で、過去の思い出がフラッシュバックしているようだ。ユフィの話を聞いた限り、ソフィーは故郷のミスティアで色々やらかしていたようだし、そんな過去を懐かしんでいるのだろう。
「そっか。邪魔して悪いな。」
「全然いいです!ところでアキさん私に何か用ですー?」
ソフィーが目を輝かせながら尋ねてくる。だが別に用があってソフィーに話し掛けたわけじゃない。静かだったのが気になっただけだ。
さてどうしたものか。ソフィーはアキが話しかけたことで「私に何か聞きたいんですね!」と期待した目で見てくる。多分ここで「別に用はない」と言ったらソフィーが拗ねる。
面倒だ。面倒だが・・・話しかけたのはアキだし、無下には出来ない。ここはお茶を濁す意味も兼ねてミスティアの感想でも聞いてみるとしよう。
「どうだ?ミスティアへ来てよかったか?」
「んー・・・びみょーです。」
微妙らしい。
「そうか。変な事聞いて悪かったな。」
「あ、でも・・・懐かしかったですよ。アキさんが言わなければ私はきっと戻る事はなかったでしょうし、そう言う意味ではありがとうです。」
ソフィーがペコリと頭を下げる。
しかしソフィーの返答に気になる部分があったので、追加で質問してみる。
「ソフィー、なんで里帰りしようとは思わないんだ?」
何故ソフィーはそこまでして里帰りを嫌がるのだろう。アキが両親に挨拶したいと言った時も、「行かなくていいです」とミスティアへ行くのに難色を示していた。だがソフィーの両親と会ってみてわかったが、別に仲が悪いと言った様子はなかった。それに今までの話を聞いた限り、ミスティア自体に悪い思い出があるわけでもなさそうだ。ソフィーが嫌がる理由がわからない。
「んー・・・ユフィがいるからです?」
「なんで疑問系なんだよ。それにそれは結果論だろ。」
確かにユフィがいるからというのはあったのかもしれないが、ソフィーは自分の行動によってユフィが迷惑を被っていた自覚なんて無いと言っていた。アキが説明して初めて理解したくらいだ。だからユフィに仕返しをされるなんて思ってもいなかっただろうし、それは理由にならない。
「ソフィーが色々やったことがユフィのせいにされていた・・・なんてのは知らなかっただろ?」
「まあそうですけどー」
「じゃあなんで嫌だったんだよ。」
ソフィーとユフィは終始姉妹喧嘩しかしてなかったが、別に姉妹仲が悪いわけではない。どこの兄弟姉妹でもするような微笑ましい姉妹喧嘩だったし、普通の姉妹といって問題ないだろう。
「そーですねー・・・」
ソフィーが難しい顔で唸る。
「言いたくないなら別にいいよ。」
もしかしたらなにかのっぴきならない事情があるのかもしれない。ソフィーに話してもらえないのはちょっと寂しいが、本人が言いたくないのであれば無理に聞こうとは思わない。それにもしアキが知っておく必要がある事でならソフィーはちゃんと言ってくれるだろうしな。
「あ、そう言う事ではないです。誰にも言った事はないですが、アキさんにならなんでも言います。今考えていたのはどう説明したらいいか考えていただけですー!」
なるほど。言葉にするのが難しいだけか。
「ありがとう。」
しかしソフィーの言葉は地味に嬉しい。
「えへへ、どういたしましてです!」
「それでソフィー、説明できそう?」
「そーですねー・・・上手く言葉にできるかわかりませんが・・・とりあえず最初から説明してみます。繰り返しになる部分もあると思いますが聞いてくれますー?」
「ああ、もちろん。」
「よかったです。では私がミスティアに居た頃なんですが・・・」
そう言ってソフィーは昔話を始めた。




