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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十二章 故郷巡り②
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 私はお兄様達の馬車が見えなくなるまで頭を下げ続けました。


「ふふ、とても充実した数日間でした。」


 お兄様がちゃんと旅立ったのを確認し、私は小さく呟きます。


「しかしあの姉さんが・・・ふふ・・・」


 正直姉さんが帰ってきたのには驚きました。私にあんな仕打ちをしておいてよく顔を出せたものだとムカついたのです。姉さん本人には自覚はなかったみたいですが、私は・・・まあもうそれはいいでしょう。ここ数日でたっぷり仕返ししましたしね。


 それよりあの姉さんがまさか婚約者を連れて帰ってくるなんて考えてもいませんでした。姉さんがミスティアを飛び出したとき、「ああ、あの人はここへ二度と戻ってこないでしょうね」と思ったくらいです。それくらいに姉さんはこの村での生活に飽き飽きしていました。あの人にとってこの村は小さすぎたのでしょう。


 ただ今でもわからないのが、何故姉さんはあんな風になってしまったのかということです。昔は物静かで、極度の人見知りだった姉さん。それがある日を境に変わってしまいました。性格が変わってからは自由奔放、天真爛漫、唯我独尊。おかげで私がどんな目に・・・


「コホン・・・」


 話が逸れました。その件はもういいと言ったばかりでした。


「駄目ですね。あの時の事を思い出すとどうしても頭に血が上ってしまいます。」


 反省しないといけません。お兄様に「もう姉さんを苛めたりはしません」と約束してしまったのですから。


 とにかくあのお馬鹿姉さんについてです。


 昔、姉さんがまだミスティアに居た頃、「姉さんはなんでそんな風になったんですか・・・」と理由を聞いた事があります。姉さんの答えは「今までの性格では人生を損していると気付いたのです!一度きりの人生、やりたい事をやってなのですー!」と言っていました。  


 言っている事はかっこいいし、正しいとも思います。ただどうして急にそう言う結論に至ったのかがわかりません。そこは何回聞いても教えてくれませんでした。ああなる前はずっと部屋に籠って本ばかり読んでいたのですが・・・その本の影響でしょうか。


「まあ・・・私がいくら考えても答えはでませんね。」


 これはいつかお兄様に頼んで姉さんに聞いて貰いましょう。


 お兄様の頼みなら姉さんは絶対に断りません。それくらい姉さんにとってお兄様は絶対なのです。見ていればすぐわかりました。姉さんがどれ程お兄様を信頼しているのか、そしてどれだけ大好きなのか。


「それにしてもお兄様ですか・・・初めてあの姉さんに感謝することになりそうですね。」


 私は昔から頼りになる兄が欲しかったのです。まあ頼りになる姉でもいいのですが・・・あの姉さんにそれを期待するのは無理でしょう。だから姉さんが婚約者を連れてきたと聞いて、少しだけ期待したのです。


「私のお眼鏡に適うとは思えませんでしたが・・・」


 ただ私の想像とは裏腹に、お兄様は想像以上に素敵な人でした。あの姉さん、何故か人を見る目はあるんですよね。少しだけ期待したのもそれが理由です。


 とにかくお兄様は頭の回転が速く、とても聡明な方でした。私にとっては理想の兄です。「お兄様」と呼ぶことにしたのも私がアキさんを兄と認めた証拠です。


「その辺もちゃんとわかっていました・・・さすがお兄様です。」


 そしてお兄様は私の本質をちゃんと理解してくれる人でした。少し話しただけで私がどういう人間かを見抜きました。


 自分で言うのもなんですが、私は見た目が良い方です。幼馴染の間でもモテモテでした。ただ誰もが私の外見だけで言い寄ってくる人ばかり。私が何を考え、何を望んでいるか・・・ちゃんと理解する人はいませんでした。だから結婚の話が出た時、これはミスティアを出るしかないと思ったのです。


 丁度そんな時です。ミスティアにお兄様がやってきたのは。これは渡りに船だと思いました。村を出ようと考えてはいましたが1人ではその決心がつかなかったでしょう。ですがお兄様の手助けがあるなら話は別です。


「これで私もこの村から出られます。ふふ、本当に楽しみです。」


 お兄様は2週間待てとおっしゃいました。本音を言うと一緒についていきたかったのですが・・・あまり我儘は言えません。それにお父様とお母様を説得して許可をもらわなければいけませんし、旅の支度もあります。ある意味準備の期間があるのはよかったのかもしれません。


「お兄様に迷惑がかからないよう、しっかり根回ししてから旅立つ事にしましょう。これから忙しくなりそうですね。」


 村の外でどんな生活が待っているのか楽しみで仕方ありません。

挿絵(By みてみん)

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