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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第六章 Sランク
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6

 その後話を切り上げて自室へと戻りベッドへと寝転がる。


「なんとかSランクを屋敷にいてもらう事に成功したか。懐かれたのは好都合。ミルナ達がこれで安全に闘技大会を勝ち抜ける可能性が格段にあがった。」


 正直これ以上女性に懐かれて慕われるのは勘弁してほしいが、今回ばかりはしょうがないと諦める。ちなみにエリスを引き入れたのはミルナ達の為だけだ。彼女から必要な情報はもう大方得ている。


 ミルナ達には言わなかったが、ケーキ屋でエリスからSランク関連の情報は既に聞き出していた。さらにエスタートからイリアに関する情報も得ている。皆の前でエリスに何も聞かないのは不自然だと思い、敢えて闘技大会の事だけはケーキ屋で聞かずにさっきの時間まで取っておいた。これでミルナ達が不思議に思う事はないだろう。アキが必要だと思うSランクや闘技大会の情報をあの場で聞いたと理解しているはずだ。自然と図書館へと行く話も盛り込めたし、了承して貰えた。


「しかしこのままミルナ達を本当にSランクにしていいものか……。」


 最初Sランクの話をミルナ達から聞いた時は少しひっかかったくらいだった。別格の特権、何の責任もない特別待遇。Sランクともなればそんなものか程度にしか考えなかった。だが爺さんの情報とエリスの話を聞いて改めてSランクについての疑問が浮上した。


 エリスがSになったのは2年前、15歳の時らしい。その時に闘技大会をソロで勝ち抜いて、Sランク(仮)になった。何故対人に特化していたかは彼女の過去に関係がある。エリスはエスタートの遠い親戚といっても孤児らしい。12歳くらいまで毎日を必死で生き抜いてきた。人を欺き、悪いこともしたという。衛兵に見つからないように隠れ、息を殺し、ひっそりと街中で生き延びた。その経験が今の実力や対人技術などに生きているのだろう。その後、今の両親に拾われて、もともと正義感が強く悪事に罪の意識を感じていたエリスは心を入れ替え、その罪を償うという意味で冒険者となった。そして才能が開花してSランクまで駆け上がったというわけだ。


 この時点でアキが思った事が2つある。まず1つ目がこの世界での犯罪の扱いについて。基本的に窃盗、強盗などの一般的な犯罪などは街の衛兵によって捕縛され、国の法によって捌かれる。大抵が牢屋送りからの強制労働か処刑らしい。街中での殺人や凶悪犯罪も一緒で、衛兵によって対処される。だからエリスは必死で周囲を欺いて生きてきたと言っていた。では「街の外は?」というと基本的に法律が適用されない。アキが巻き込まれた件もそうだ。街の外だったので衛兵は動かなかった。冒険者同士ならなおさらだとエリスは言った。あの時も領主から退去を命じられた程度でそれ以上のお咎めはなかった。


 それと繋がるのが「この世界には野盗・山賊などがいない。」とミルナが言った事になる。そもそもこの犯罪処罰の理屈でいくとそれがおかしい。街の外で襲えば犯罪ではないのだから街の外でするべきだ。魔獣が多いから外にはいない?街中での犯罪が許容されているならそれでいいだろう。でもされていない。Bランク以上の冒険者や商人を狙えばリターンは大きいし、確実に外で襲うほうがリスクは少ない。それか街の外で暮らし、犯罪をするときだけ街中に行けばいい。ある程度実力もあり、魔獣に対応できるなら、外に根城を置くのが最善なのは明白だ。もちろんエリスみたいに幼くて外で暮らすには難しい場合は、街中でひっそりと生きるしかないが。


 そこからアキが導きだした答えが、街の外の犯罪に関する情報は何らかの形で隠蔽されているという事。そもそも何故、街の外だと犯罪ではないのかという疑問もある。おそらく各国が共同でその辺りに関する何かを隠している可能性が高い。この犯罪抑制システムだと街中は問題ないだろうが、街の外に犯罪者がいない事に一切説明がつかない。いない重大な理由が何かあるのか、いるけど襲わない様に何かしらの要因が働いているかだ。


 そこで2つ目の疑問。エリスのSランク(仮)の初依頼とはなんだったのか。彼女は特に隠す必要もないのか教えてくれた。「殺人鬼の殺害」。実力で言うとAランク相当だったとエリスは言う。ただ対人特化していたので冒険者のAランクだと勝てないだろうとも付け加えた。さらに確認したところ、その殺人鬼の根城は街の外の森の中にある洞窟だったという。この時点で一連の話の流れが破綻しているのがわかる。街の外に犯罪者がいる、でも国はいないと言う情報を流している。だが実際には王都への移動中は魔獣以外に襲われたりはしなかった。


「そもそもSランクってなんだ?なんで存在する必要がある?」


 Sランクの実力は対人特化したAランク。それだけの差。だがそれがおかしい。何故冒険者は対人経験がない?街の衛兵が犯罪者は処罰する、街の外に犯罪者はいない、だから冒険者は対人戦闘をしない。理屈としてはわかるし、筋も通っている。ただ街の外に犯罪者はいる。それはエリスの件を聞けば明白だ。じゃあそいつらは誰が対処している?Sランクか?それはありえない。そんな大量の犯罪者をSランク数人で対応するなんて不可能だ。そもそもSランクは依頼を受けるのが自由なのだから。


 エリスに聞いた。彼女が依頼を受ける判断基準はなんなのかと。それと受けてきた依頼の内容はどんなものかと。


「討伐対象が面白いかどうかだ!人間でも魔獣でもかまわん!今まで受けたのもそればっかりだな!」


 つまり単純に討伐相手が強いかどうか。他のSランクも大体同じで極度の戦闘狂バトルジャンキーらしい。となれば凶悪犯罪者や強力な魔獣討伐はSが喜んで受けるという事になる。逆を言えば、つまらない犯罪者相手なら受けないということだ。だからSランクが全ての街外にいる犯罪者を対処しているという説は否定される。


 だから本当であれば冒険者にも対人経験を低ランクのころから訓練させて、街の外の犯罪者を対応させる依頼を出せばいい。だがしていない。する必要がない?じゃあ何故。


 さらに爺さんのイリアに関する情報をここに入れると疑問は深まる。爺さんから聞いたのはイリアが受けたであろう依頼の内容だ。月夜の森での魔獣討伐。ただそれだけ。要人の救助でもなんでもない。ミルナの話と大きく違う。だから尚更あの依頼をイリアに指名することがおかしい。エリスの依頼受託理屈からすれば、Sランクに依頼していれば喜んで受けただろう。何故わざわざイリアにしたのか。そして何故イリアが受けたのか。ここにも何か理由がありそうだ。


 ここから先がアキにはわからない。いくら考えてもわからない。圧倒的に情報が足りない。街の外に犯罪者はいる。なら何故それを隠す?何故襲ってこない?魔獣となにか関係しているのか?そもそも魔獣ってなんで存在する?Sランクを対人特化させる理由は?Sランクのそもそもの存在理由は?そして何故イリアにあの依頼をした?



 1.街外での犯罪者について

 2.Sランクの存在理由について

 3.イリアへの依頼について



 アキはエリスと爺さんの話から思いついた疑問を箇条書きに整理してタブレットにメモする。何回考えてもこれ以上はわからないから無駄だと悟った。訓練中も頭の片隅で考えていた事だ。そして辿り着いた結論はやはり情報収集。先ほどミルナ達に図書館へ行くと言った本当の理由がそれだ。この国や大陸の歴史を紐解いていけば何か見えるかもしれない。


「そういやSランクは全ての情報や立ち入り禁止エリアにもアクセス可能だったな……。」


 じゃあSはアキが知らない何かを知っている?でも戦闘狂バトルジャンキー共がそんな情報を調べたりするだろうか?エリスに少しだけこの考えを話した時、まったく意味がわからないという表情をしていた。あの顔は演技じゃない、本当にわからない顔だ。長年人間観察をしてきたアキだから確信を持って言える。それにあのエリスがそんな複雑な事に興味あるわけない、とアキは苦笑する。


「しかし、皆の前でわざとしたSランクの話、エリスを屋敷におく流れ、図書館へ行く話の作り方はかなり不自然で強引だったのに誰も気づかなかったな。ミルナもまだまだだな。アリアだけは何か感じたぽいけど、彼女は俺側だから気づいても何かいう事はないだろう。」


 とりあえず明日からは久しぶりにしばらく本の虫になれる。そんなことを考えながらアキは眠りにつく。

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