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あれから数日、アキ達はソフィーの故郷であるミスティアを楽しんだ。村を散策したり、森を探検したり、かなり充実した時間を過ごす事が出来た。
やはり田舎はいい。時間の流れが穏やかで心が安らぐ。王都は活気があって色々と便利だとは思うが、どうしても落ち着きがない部分がある。これからものんびりしたい時はソフィーの故郷へ来るのもありかもしれない。
ただアキがミスティアへ来るのはミスティアの人達にとっては正直迷惑だろう。今回は幸いにもミスティアの人々がアキ達干渉してくることはなかったので、のんびり出来たが、普通はそうはいかない。アキが来ると言う事は、ベルも必ず一緒にいると言う事だ。そしてベルのような王女が来るとなったら普通は歓待歓待の嵐になるし、のんびりするなんて無理だろう。
では何故今回は平穏に過ごせたのか。それはユフィが色々と根回しをしてくれたからだ。実際に裏では村長がベルやアキを歓待しようと色々計画していたらしいが、ユフィがそれを全部止めてくれていたのだ。「お兄様は静かに過ごしたので邪魔しないでください」と村長に進言してくれていたのだとか。
ミスティアに到着した日、アキは歓待を遠慮しますと村長には伝えたが、村長からしてみれば、その言葉を真に受けて本当に何もしないわけにもいかないだろう。やはり村の長としてなにかしらのおもてなしをしなければと考えてしまうのは当然の事だ。何故ならここはサルマリアで、アキやベルはエスぺラルドの貴族と王族。つまりアキ達は他国の要人であり、そんなアキ達に失礼があったとしたらミスティアのような田舎村は潰されるかもしれない。そう考えるのが妥当だ。特にベルなんて王女なわけだしな。まあベルは失礼があったからといってそんな事をする王女ではないが、村長やミスティアの人達にそんな事はわからない。だから当然色々とアキ達に便図を図ろうとする。それをユフィが気を利かせて止めてくれたのだ。
本当によくできた義妹だ。
そしてアキ達がミスティアを発つ今日も見送りはユフィしかいない。これもユフィの配慮だろう。
「ユフィ、色々助かったよ。」
「いえ、お兄様達がのんびりされたいのはわかっていましたので、当然の事をしただけです。」
大した事はしていませんとユフィは平然と言う。
「でも見送りがいないのもユフィが手を回してくれたからだろ?」
「ええ、まあそうですが。」
普通は中々そこまで気づけない。いつもはアキが「何もしないでくださいね」と口酸っぱく言わないといけないのに、アキが何も言わずとも、ユフィは全てを察して、先に動いてくれる。
「本当に優秀な義妹で嬉しいぞ。ますます俺の領地で欲しくなった。」
「ふふ、ありがとうございます。前向きに検討しますね、お兄様。」
最初はあくまでユフィがミスティアを出る手助けになればと思って提案しただけだったが、今では本当に彼女をうちの領地で雇用したいと思っている。
「2週間。」
「はい?」
「2週間したら迎えを寄越す。」
とりあえずはユフィにエスぺラルドに来て貰うところからだ。ユフィにはミスミルドの屋敷で数日過ごして貰い、本格的に身の振り方を考えてもらうとしよう。その為にアキも2週間で用事を片付ける。リオナの故郷へ行って、ユーフレインの様子を確認するのにまあ2週間もあれば十分という計算だ。
「わかりました、お兄様。旅の準備をしておきます。」
「両親の許可もとっておけよ?」
「もちろんです。万事抜かりはありません。」
「そうか・・・じゃあしばしの別れだな。」
ここで時間を使っても余計に出立し辛くなるだけなので、さっさと行くとしよう。せっかく知り合ったユフィとの別れは少々名残惜しいが、またすぐに再会できるだろうしな。
「はい。それではお兄様、お姉様、お達者で。」