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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十二章 故郷巡り②
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 だがまだ戦える。ここで負けを認めるわけにはいかない。別にユフィが嫌いとか、信用出来ないとかではない。単純にアキがこの世界の人間でないと言う事をこれ以上広めたくないだけだ。


 今ベルフィオーレでこの事実を知っているのは、アキの婚約者であるミルナ達、そしてナギ達のような一部の使用人、そしてエスタートの爺さんと各国の王家。全員絶対に口外しないと信頼でき、この事を説明しておくべき必要があった人達だけにしか言っていない。ユフィはソフィーの妹だし、信頼出来ると思うが、言う必要性はないだろう。例えユフィがアキの領地で文官をする事になったとしても、それを知る必要はない。


 ミルナ達はアキの婚約者だし、一緒にユーフレインにも行ったりもする。アキの活動を支えてくれているからアキの全てを知っていてもらわないと困る。そして爺さんも同様だ。爺さんはアキの後見人だし、この世界での親代わりのような存在。色々と迷惑をかけているし、間違いなくこれからもかけるだろう。だから全てを話したし、これからも隠し事は一切しない。


 次に各国の王家だが、こちらもアキの出自や活動内容を最低限は説明してある。まあ魔獣政策に対しての改革を進めるにあたり、色々と説明する必要があったからだ。ただこちらはミルナ達とは違い、プライベートな事は一切話していない。あくまでアキが別の世界から来ている事、そして魔獣政策やオリハルコンに関連する事だけだ。


 最後にエスぺラルドの屋敷にいるうちの使用人だが、シャルはアリアの妹だから例外として、ナギやジーヴス達。彼らには・・・まあ結果的に話す事になってしまっただけ。最初は隠しておくつもりだった。ただユーフレインで紆余曲折あり、話した方が良いと言う事になったのだ。まあナギやジーヴスは奴隷で、アキに忠誠心を誓ってくれているというのもあったので、話すのに抵抗はなかった。


 現在、アキの出自を知っているのはこんなところだ。


 ミレーの屋敷で雇った獣人メイドの子達は、転移魔法など、アキの魔法が特殊な事は知っているが、それだけだ。ユーフレインの事や、アキの出自の事、魔獣に関連する事は一切話していない。だからあの子達は少し別枠だ。


 それと忘れていたが・・・あとはユキ。彼女は全てを知っている。ユーフレインの人間で、唯一アキの事情を全て知っているのはユキだけ。というか半ば強制的に言わされたんだがな。まあユーフレイン側にも協力者は欲しいと思っていたし、アキとしても助かっているので問題はない。


 とりあえずアキの出自や秘密を知っている面子はこんな感じだ。


 そしてここにユフィが加わる必要があるかと言うと、正直ない。ミルナの兄であるアレクシスを文官として雇う事になったが、アキの身の上話は一切してない。だから同じ立場になるであろうユフィに話す必要性は感じられないのだ。


「たまたまだよ。ユフィは疑い過ぎだ。」


 だからここはこれで押し通す。


「そうでしょうか?どこの出身ですかと聞いた際、お兄様は迷う事なく答えましたよね。目も泳がず、考える素振りもせず、当然のように答えていました。それが私には『用意された答え』であるかのように思えたんですが。」


 ユフィがそう言いながら真っ直ぐに見つめてくる。


 自分の推測に自信があるのか、ユフィは全然引き下がってくれない。


「ユフィは凄いな。そこまで思慮深いのか・・・うちの文官として余計に欲しくなったよ。是非お願いしたいものだ。」


 今度は適当にユフィを褒めつつ、話題を逸らしてみた。


 だがユフィが文官として欲しくなったというのは事実だ。ここまで色々と読めるのであれば、うちの領地の文官として是非雇いたい。ユフィがいる事でアキの仕事がかなり楽になるだろう。


「ふふ、褒めて頂きありがとうございます。でもお兄様?話を逸らさないでくださいませんか?今はお兄様のお話ですよ。」


 本当に、鋭い。ソフィー相手ならこれであっさり話を逸らせるのに、手強い相手だ。


「何でそこまで言い切れるんだよ。確証でもあるのか?」


 最後の悪あがきだ。これでダメなら負けを認めよう。そもそもアキがピグルフを知らないという不用意な言動のせいでこの状況になっているわけで、どう考えても形勢は不利だろう。


「女の勘ですよ、お兄様♪」


 うん、これは勝てないやつだな。それを言われると何を言い返しても無意味だ。どれだけ理論を振りかざして論破しようとしても無駄。ミルナ達で学んだ。


「わかったよ。俺の負けだ。」


 これはもう認めるしかない。


「ふふ、潔い殿方は素敵ですよ。」

「褒められている気がしないな。」

「それでお兄様?どこのご出身なんですか?」


 だが負けを認めたからといって、それを話すかどうかは別の話だ。先も言った通り、ユフィには言う必要のない事だ。ソフィーの妹だからという情だけで全てを話して、不用意なリスクを背負う必要はないだろう。


「内緒だ。」

「む・・・お兄様、可愛い義妹に教えてくれないんですか・・・?」


 目を潤ませ、上目遣いでアピールしてくるユフィ。


 あざとい。あざといが・・・可愛い。


 そしてソフィーそっくりなのが余計に質が悪い。


 だがこの子はユフィであってソフィーではない。


「ユフィにはまだ言えないな。言う必要が出てきたら考えてやるよ。」

挿絵(By みてみん)

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