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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十二章 故郷巡り②
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「鬱陶しい。」


 ユフィに聞かれてつい正直に鬱陶しいと答えてしまった。だがユフィはそう言う意味で聞いたわけじゃないだろう。


「同意です。本当に馬鹿姉です。」


 流れるように同意するユフィ。もうある意味ソフィーの事に関してユフィは条件反射で返事をしている気がする。


「あ、コホン・・・お兄様、そう言う意味ではなくてですね・・・」


 自分の回答を取り消すように、慌てて言い直すユフィ。


「うん、俺が悪かった。ついな。」

「いえ、私もつい・・・」


 ソフィーが聞いたら激怒しそうな会話だ。まああの駄エルフは幸いにも狂喜乱舞していて何も聞いていない。つまり今なら何でも言いたい放題だ。


「とりあえず『アレ』の事だが・・・まあ五月蠅いし、鬱陶しい。でもそれは半分冗談で言っているだけだ。あれでこそソフィーだし、ああいうソフィーが俺は好き・・・ってのが本心だな。」


 いつも「駄エルフ」と罵って引っ叩いてはいるが、あれはただじゃれ合っているだけ。所謂お遊びだ。勿論ソフィーもそんな事はわかっているだろう。


「はい。お兄様がそういうお考えなのは見ていればわかります。本気で姉さんを貶しているのであれば話は別ですが、そうではありません。だから自然と私もお兄様の事は頼りにしてもいい人だと判断したのです。」


 なるほど。ソフィーが心を許しているから大丈夫だと判断したと言う事か。


「それは光栄な事だが、ちょっと安直過ぎないか?」

「いえ、姉さんはお馬鹿ですが人を見る目は意外にしっかりしているんですよ。ずっと一緒にいた妹の私が言うんだから間違いないです。それにここ数日、私も自分でお兄様を見て、姉さんの気持ちがなんとなくわかりました。」


 確かにソフィーは人を見る目がある。というかソフィーだけでなく、うちの子達は全員そうだ。ただアキのように相手の性格や言動から人間性を推察するのではなく、あの子達は直感で判断している。それがミルナ達の凄いところだ。そのせいで冒険者の依頼で騙されたり、エリスに至っては悪徳商法に引っ掛かったりしていたが、あれはまあ依頼主や取引相手との話だ。信頼して心を許す相手に関しては見誤ったりはしない。どういう原理かはわからないが、多分第六感みたいなものなのだろう。


「ソフィーの人を見る目に関しては同意だな。ただ俺みたいな男に引っ掛かってるし見る目がないとも言えるけどな・・・」

「お兄様は自己評価が低すぎます。」


 やれやれと呆れ顔のユフィ。


 それはミルナ達にもよく言われる。だがそれは仕方ないだろう。自分の事を低く見積もっているつもりは一切ないが、さすがにミルナ達のような美少女達に慕われるような人間ではないと思っている。腹黒いし、計算高い。そして社交性もない。人当たりよく見えているのは上手く社会を生き抜く為の演技だ。そんな人間の自己評価が高いわけがないだろう。


 そもそも地球でのそんな生活が嫌でベルフィオーレに逃げてきたのだ。それにいくらベルフィオーレに来たからといって、人間がすぐに変わる訳がない。ミルナ達は「そんなことはありませんわ」と言ってくれるし、「アキさんは変わりましたわ」とも言ってくれるが・・・正直実感はない。


 まあミルナ達に対してだけは心を開けるようになったし、裏表なく接せる数少ない相手ではあるのは事実だ。だがうちの子達以外に対しては結局何も変わっていない。だから自己評価をあげられるわけがない。


「しょうがないだろ。ミルナ達は肯定してくれるけど、自分からしてみれば俺は大した人間じゃないよ。」

「そういう謙虚なところもお兄様の良いところだと思いますよ?」

「そうかな?」

「まあ・・・そう言う事にしておきましょう。」


 これ以上説得するのは無駄だと思ったのか、ユフィはそう言って話を締め括る。


 そして本題を切り出すかのような真剣な表情でアキの方を見つめてきた。


「それよりお兄様。」

「・・・なに?」

「私に何を隠しているんですか?」


 何の話だろう。ユフィに特に隠し事をした覚えはないが。


「何も隠してないけど?」

「隠し事というか・・・私に言ってない事、説明してない事がありますよね?お兄様は一体どこの国で生まれた方なんですか?」


 驚いた。


 そこに気付かれるとはさすがに思わなかった。確かにユフィにはアキが別の世界出身であることは言っていない。だがソフィーの両親、そしてミルナの家族にも言わなかった事だ。そして彼らにそこを疑われる事はなかった。


「なんでだ?俺の出身はエスぺラルドだぞ?」


 誤魔化せるだろうか。とりあえず適当に返事をしてみる。それにアキはエスぺラルドを拠点に活動しているし、完全な嘘ではない。


「お兄様・・・先程お姉様方が狩っていた獣を覚えていますか?」

「ああ、ミルナにそっくりなピグルフの事か?」

「そ、それに関しては同意しかねますが・・・コホン、お兄様?エスぺラルドで生まれているんでしたらピグルフを知らないなんてありえないんですよ?」


 なるほど、小声で話していたつもりだったが、あれを聞かれていたのか。


 鋭いな。

挿絵(By みてみん)

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