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「ユフィ、これがうちの日常だ。変わってると思うかもしれないが・・・もしうちに遊びにくるつもりなら慣れてくれとしか言いようがないな。」
アキやミルナ達がわいわいやっているところに入ってくるのはさぞ居心地が悪いだろう。もしアキがユフィの立場だったら絶対に嫌だ。和気藹々と騒いでいるのを見て疎外感しか感じない。そういうのを気にするタイプではなかったとしても、「こいつらうるさいな」と鬱陶しく思うだけだ。
「大丈夫ですよ、お兄様。」
だがユフィは何も気にした様子はない。
「凄いな、ユフィ。自分で言うのもなんだが・・・俺なら絶対に俺達の間になんか入りたくないぞ?」
うちに遊びに来ても、アキとミルナ達が毎日ように騒いでいるのを見せられるだけだ。そんなところに誰が加わりたいと思うだろう。男なら絶対にお断りな状況だ。
「ふふ、本当ですよ?お兄様がそれを言ってはダメですよ?」
「そうだけど、客観的に見たら嫌だろ。」
「まあ・・・殿方なら絶対に嫌でしょうね。女性でもあまり気持ちのいい状況ではないかもしれません。」
「だよな・・・うちのメイド達に申し訳ないわ。」
うちで働く使用人のナギ達もそんな思いをしているのかもしれない。それだったら非常に申し訳ない事をしている。少しは生活態度を改めた方がいいのだろうか。
「でもお兄様を慕う方達は別だと思いますよ。そういう方は、お兄様やお姉様達の事を微笑ましいと思っているはずです。」
だがユフィは大丈夫だと言う。
「そうなのか?」
でも確かにユフィの言う通り、うちのメイド達から負の感情は一切感じた事がない。ミレーで新しく雇った獣人のメイド達も同様だ。特に居心地が悪いといった様子はなかった。
「アキさん、ユフィさんの言う通りです。何も気にする必要はありません。」
アキが首を傾げていたら、アリアが補足してくれた。
「シャルちゃんも?」
「はい。妹のシャルはアキさんに感謝はすれど、鬱陶しく思うなんてありえません。そしてナギさんやジーヴスさん達もそれは同様です。」
まあシャルは変態貴族のところで苦労していたわけだし、ナギやジーヴスは元奴隷。そう言う意味ではアキに感謝しているとも言える。
ただミレーで雇ったメイド達はアキに何の感情もないだろう。アイリスに紹介して貰った希望者をそのまま雇っただけだ。一応アキのところで働きたいと希望する子で、獣人を大事にするアキだからという志望動機はあったが、別にアキが慕われているわけではない。シャルやナギ達とは違い、何の恩義も感じていないだろう。まあ恩を感じる理由もないし、それが当然だ。
「ミレーのメイド達はそうでもないだろ。」
「そうですね。あの子達は少し違いますが・・・別に問題ないです。私を含め、ミルナさん達で見極めたのはその為ですから。」
あの時アキを部屋から追い出し行われた女子会はそう言う意味があったらしい。自分達と上手くやれるか見極めたんだと後で言われたが、どうやら「アキやミルナ達を見ても鬱陶しく感じない」という条件も含まれていたようだ。
「なるほど。でもユフィはなんで大丈夫なんだ?」
「ふふ、だって私もお兄様をお慕いしてますから。あ、もちろん異性としてではなく、頼りになる『お兄様』としてです。」
「ユフィに慕われるようなことをした覚えはないけど?」
ユフィに優しく接しているのは彼女がソフィーの妹だからだ。「ミスティアを出たい」という手助けをするという約束は一応したが、それくらいだ。そしてそれもソフィーの妹だからという理由で手伝うと言っただけだ。
ユフィもそんなことは当然わかっているろう。自分がソフィーの妹としてしか見られていない事くらいは重々承知のはずだ。
「そうですね・・・確かに私はお兄様に直接的に何かをして頂いたわけではありません。お兄様にとって私は『ソフィーの妹のユフィ』。それ以上でもそれ以下でもないでしょう。」
「その通りだ。」
的確に自分の立ち位置を理解出来ているユフィはやはり頭がいい。ベルが「アキさんの領地で文官に」と言っていた理由がよくわかる。
「ですが私にしてみたらお兄様は『姉さんをもらってくれた人』というだけで尊敬に値するのです。それにあの姉さんが信用している人ですから・・・。」
双子だから通じ合う何かがあるのだろうか。
それはさておき、ソフィーの手綱を握っているというだけで絶大な評価を貰えるのは何故なのだろう。ソフィーの両親も似たような事を言っていた気がする。
ユフィはソフィーが問題児のような扱いをするが、アキからしてみれば、なんてことはない。時折暴走して鬱陶しいのは事実だが、性格は真っ直ぐだし、素直でいい子だ。
「ソフィーは最高の女だぞ?」
「ふふ、そう言えるから私はお兄様をお慕いしているんですよ?」
ユフィがくすくすと笑う。
「よくわからんな・・・」
「ではお兄様、あれを見てどう思います?」
ユフィが指差す先を見ると、ソフィーが狂喜乱舞して踊り狂っていた。何をやってるんだ、あの駄エルフは・・・と呆れたが、どうやらアキが「最高の女だ」と言った事で変なスイッチが入ったらしい。
「鬱陶しい。」
「同意です。本当に馬鹿姉です。」