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「それはしょうがないわよ、アキ君。」
アキの疑問にはエリザが答えてくれた。
なんでもエリザによると、運動が出来なくてストレスが溜まっていたとかそういうことではないらしい。単純に肉が食べたいだけなんだとか。そして昨日の虫料理を二度と食べたくない、だからミルナ達はやる気満々らしい。
まあそんな事だろうとは思っていたが。
「今夜は肉が食えるな。」
「そうね!」
エリザが嬉しそうにゆらゆらと尻尾揺らしながら返事をする。
うちの猫はやっぱり可愛い。
「エリザだけは昨日の郷土料理な?」
だからこうして苛めたくなる。
「なんでよ!?」
「おもしろいから?」
「そんな面白さいらないわよ!いやよ!」
「猫は雑食って言うし、大丈夫だろ。」
「だ、大丈夫じゃないわよ!猫にそんな物与えたちゃダメっ!お肉かお魚じゃないとダメなのよ!ちゃんと覚えておきなさい!」
いつもなら猫って言うなと怒るのに、それを否定する余裕もないくらいに必死だ。まあそれだけあの虫料理が嫌だったのだろう。エリザを含め、獣人組は全員尻尾や耳の毛を逆立ててぷるぷる震えていたしな。
とりあえずエリザ弄りはこれくらいにしておこう。
「それよりベルやセシルは・・・大丈夫か?」
エリザは魔法の心得があるから多少の戦闘は出来る。さすがにあのミルナ達ほどではないが、そこそこの戦闘能力を持っている。しかも最近は毎日の戦闘訓練に参加しているから、間違いなく以前より強くなっている。だからこうして魔獣がいるかもしれない森の中でも平気にしていられるのだ。
だがベルやセシルは違う。この2人はうちの子達の中で戦闘が出来ない2人だ。
「はい。アキさんやエリスさん達がついているので。」
「です!問題ないです!安心できます!」
怖がるどころか、平然とした顔でお茶を啜ってお菓子を食べ、森林浴を楽しんでいるベルとセシル。この肝の据わりようは凄い。まあそれだけアキやエリス達を信用してくれていると言う事なのだろうが。
「あのアキさん。何故私には聞いてくださらないのですか。」
アリアがどこか不満気に言ってくる。どうやら彼女の心配をしなかったから拗ねているようだ。確かにアリアも非戦闘組ではある。ただアリアの場合、「メイドの嗜みです」とか言いながら短剣とか取り出し、魔獣を瞬殺しそう気がする。
「魔獣退治もメイドの嗜み・・・」
「そんな嗜みはありません。アキさんはメイドを何だと思っているのですか。」
怒られた。
非常に理不尽な気がする。
「俺のメイドは優秀だからなんでも出来ると思ってる。」
「そ、そんなわけないでしょう。馬鹿にしてるんですか。」
口では文句を言っているアリアだが、口角が少し上がっていてどこか嬉しそうだ。メイドして褒められるのはやはり嬉しいらしい。
「実際のところどうなんだ?アリアは戦闘の心得はあるのか?」
「さすがにありません。自分の身を守る為にアキさんから頂いた短剣で多少訓練はしてみましたが・・・」
自信はないですと肩を竦めるアリア。
「そうか。じゃあ俺の側にいろよ?」
「はい。そうします。」
「お兄様とお姉様・・・本当に仲良しですね。」
アキ達のやり取りをみていたユフィが言う。
「そう?」
「はい、お互い信頼し合っている感じがして・・・とても羨ましいです。」
ユフィの言葉にどこか重みを感じる。これは揶揄っているわけではなく、本気でそう思っているというのがわかる。
「ユフィにはそういう相手いないのか?」
「ええ。小さな村ですから。一応幼馴染はいますが、それが気の合う相手かどうかは別の話ですので・・・」
そういえば先日ユフィが言っていた。幼馴染と結婚させられそうになっていて、その相手が生理的に受け付けないのだと。
「例の結婚相手だろ?普通に友達はいないのか?」
「一応いますよ。顔見知りの女の子や男の子が。」
ただそこまで仲がいいわけじゃないとユフィは言う。喧嘩しているわけでもないし、仲が悪いわけでもないが、心から信頼し合えるわけではないのだと。
「だからお兄様達が羨ましいのです。お姉様とお兄様が仲がいいのは勿論ですが、お姉様達もお互い信頼し合っています。」
それは・・・どうだろう。ミルナ達は毎日ようにバチバチ火花を散らし合っていて大変だし、アキもしょっちゅう理不尽な事で怒られる。まあ信頼し合っているという部分については否定はしないが。
「ちょっとアキさん!さっきからなにしてるんですの!私達は真剣に狩りをしていますのよ!それなのに呑気にお茶をしているなんて・・・酷いですわ!!!」
言った側から意味不明ないちゃもんを付けてくるミルナ。大体アキにベル達の護衛をするようにと提案したのはミルナだ。「アキさんはのんびりしていてくださいませ!」と言っていたのに、何故文句を言われるのか。
本当、悪い意味で期待を裏切らない子達だ。