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ある程度皆と訓練したところで今日は終わりにして、屋敷のリビングで寛ぐ。アキが準備した夕食を食べ終わって団欒中だ。エリスもアキのご飯を大変気に入ったようで毎日食べに来ると騒いでいる。それを聞いてアキは気になっていた事を尋ねる。
「エリスはどこに泊まってるんだ?拠点は王都なのか?」
「今は特に決まった拠点はないな……。王都に居る時はエスタート爺さんのところだ。ほら、アキ私は宿にはその……。」
「ああ、でももう大丈夫だろ?」
「確かにそうだな!」
エリスは力強く頷く。
「ちなみに王都へ来たのはそれが理由か?それとも闘技大会か?」
「それもある。あとはアキの言う通り闘技大会だな。Sランクが収集される唯一の依頼だ。」
「なるほど、エスペラルド所属の既存のSランクが全員集まるのか?」
「そうだな、今この国にいるSランクは私を含めて3人なのは話したな?誰が試合をするかはSランク同士で話して決める。大抵揉めるが。誰もやりたくない、面倒臭いと。」
エリスは苦笑する。どうせエリスのような戦闘狂ばかりなのかもしれない。Aランク程度とやってもつまらないのだろう。ちなみにSランクの話はエリスとケーキ屋に居る時にした。
「俺たちが決勝行ったらエリスは出て来てくれそうだな。楽しそうって理由で。」
「よくわかっているな!だから今年の闘技大会は楽しみなのだ!」
今度はアキが苦笑する。
「そうそう、明日からの予定だけど、皆は午前は個人訓練。午後はお互いやエリスと手合わせで頼む。俺は午後は参加するけど午前は出かける。」
「どちらにですの?」
ミルナが尋ねる。
「図書館。調べものがしたい。魔法の情報がもっと欲しい。そろそろ足りなくなってきた。だからミルナ達は個人訓練。セシルとアリアは俺と一緒に図書館。情報整理に付き合って。」
「はい!お仕事ですね!」
「もちろんです。」
ミルナ達は一緒に行けないのが相当不満のようで文句を言ってくるが、彼女達にはする事がある。それに書類整理はセシルの仕事、アリアはアキのフォローが仕事。彼女達の仕事を取るなと説明し納得させた。
「お詫びに良い物作ったから、許して。」
そろそろ食休みもいい感じなので、お詫びをアリアに指示して用意してもらう。さっき試しにケーキを作ってみた。人生で初めて作ったが、レシピはタブレットに入っていたし、それ通り作るだけなので難しい事はない。見た目についてはご愛敬。
「アリア、ありがとう。」
ケーキを並べてくれたお礼を述べる。
「いえ、当然ですので。」
「あ、アリア自分の分もね?」
「え……あ、はい!」
アリアは従者なのでアキと一緒に食べるのは……とか色々渋っていたが、ポイするよって脅して、一緒に食べるほうが嬉しいと伝えた。それ以降はリビング、ダイニングでもメイドとして配膳した後は一緒に席について食べるようになった。
「リオナが食べたそうにしていたから作ってみた。」
女子はやっぱり甘い物が好きなようで、全員がさっきから目を輝かせて配膳されるケーキを見ていた。
「アキ!まだ?食べていい?まだ?」
レオが尻尾をブンブン振ってアキに尋ねる。この子達は俺がいいよって言うまで決して手を付けない。そんな気を使わなくてもいいと言ったのだが、自分達で決めた事なのだと譲らなかった。なんでもアキに養ってもらって、ご飯まで作ってもらって、アキより先に食べるのは皆の中では御法度らしい。律儀だなと思ったが、それが彼女達らしくもあった。
「いいよ、みんな食べて。俺の世界の甘味だから口に合うかわからないけど。エレン以外。」
「な、なんでよ!」
「なんとくなく?」
「アキのばかー!」
「よしいつものやり取りもしたし、解き放たれた猛獣も食べていいよ。」
「その名で呼ぶな!せっかく忘れたのに!」
ガルルと猛犬のような唸り声が聞こえてくるようだ。適当にエレンを宥め、食べろと促す。作ったのはショートケーキ。定番のやつだ。イチゴはさすがになかったので別のフルーツで代用した。味見したらイチゴに近かったので大丈夫だろう。アリアに聞いたところミランベリーという果実らしい。
「アキ!美味しい!うーん、最高。」
レオが幸せそうな表情を浮かべている。尻尾がどこかに飛んでいきそうな勢いで揺れている。
「あら、これは確かに美味しいですわ。」
ミルナも同意する。他の皆も幸せそうに食べているので大丈夫だろう。
「なによりセシルの耳がぴくぴく動いている事がケーキの美味しさを証明している。あれは嬉しいときの動き。このセシル耳愛好会創設者の俺が言うんだ間違いない。」
「変なものつくらないで!た、確かにこれは美味しいけど……!」
セシルが必死に突っ込む。幸せそうな顔で文句を言うって器用だなと思う。
「それでエリスはどうしたの。」
エリスが何故かさっきからアキの横で土下座のような勢いでアキに頭を垂れている。
「一生ついて行く!」
「なんでだよ。」
なんか急にアリアみたいなことを言い出したエリスに戸惑うアキ。
「こ、このケーキを食べないと私はもう死んでしまうのだ!」
「そんなバカな。」
「嘘じゃない!もうこのケーキなしでは生きられない!だから傍においてくれ!」
エリスってこんなもので一生捧げちゃうの?とアキは頭を悩ます。最近こういうことで悩む事が多い気がする。
「まあ……じゃあエリスもここに住めば?」
「いいのか!」
「俺の物なんだろ?」
「ああ!私はアキのだ!」
嬉しそうに笑うエリス。果たしてアキの魅力なのかケーキの魅力なのか疑わしいところだがSランクが常にいる状況を作れたのは大きい。
「アキさん?どれだけ私とお話しがたいんですか?」
ソフィーがケーキを食べるのを中断して笑顔で睨んでいるのでとりあえず頭を叩く。
「ひゃん……叩かないでくださーい!」
「叩かれたくなかったら暴走をやめろ。それにエリスに関する『お話』はもうしただろうが。Sランクに居て貰った方が色々と捗る。ミルナ達の訓練の為にもなるしな。」
「そ、そうですけどー……。」
そうじゃないんですとソフィーが口を尖らせる。
「まあ、部屋空いてるしいいだろ。」
アキが話を締める。ミルナ達もちょっと不満そうだが、Sランクが傍にいるのは確かにメリットしかないので渋々納得してくれたようだ。
「なに?私はアキの部屋じゃないのか!」
「だからなんでだよ。」
エリスの予想外の発言にアキが突っ込む。
「わ、私はアキの物なのだ……つまり私はアキと寝るのだ!」
果たしてエリスは本当に言っている意味わかっているのか。どう考えてもわかっている気がしない。
「エリス言ってる意味わかってる?」
「勿論だ。両親から聞いた!男の物になったら一緒の部屋でその……寝るのだ!」
「具体的には?」
アキが突っ込んで確認する。セクハラ発言になりえる事だがエリスはおそらく……。
「一緒の部屋で寝る以外の何かあるのか?」
だろうな……とアキは思う。なんでだよ、この世界は性教育がないのかよと激しく突っ込みたい衝動に駆られるが、必死に抑えて頼りになる我がメイドに命令する。
「アリア。」
「はい。」
「この性知識が壊滅的な金髪剣士を隣の部屋に連れて行って、必要な教育してくれ。色々手遅れになる前に。」
「わ、わかりました。」
アリアも少し恥ずかしいのかもしれないが何もアキに説明しろというわけではない。何もわかってない女の子に説明しろというのだからアリアなら問題ないはずだ。
「頼りにしてる。アリアにしか頼めない事だ。」
「はい!喜んでご命令に従わせて頂きます。」
頼りにされているのが嬉しかったのだろう。アリアは元気よく返事をして不思議な顔をしているエリスを連れて隣の部屋へと消えた。アキはやれやれと、アリアがケーキと一緒に淹れてくれた紅茶を口にする。
「ではその間、アキさんは私達とお話ですわね。」
ミルナがいつもの笑顔でアキを見ている。ソフィーもあの笑顔だし、レオとエレンも威圧するような視線でアキを見ている。最近お話ばっかりだなと思うアキ。
しばらくしてアリアが顔を真っ赤にしたエリスを連れて戻ってくる。色々と理解したんだろう。
「エリス、俺の部屋でいいのか?」
「あ……その……まだ、ダメだ。それはダメ。」
いつもの凛々しい口調が見る影もない。
「アリア、面倒ごと押し付けて悪かった。でもよくやった。流石だね。」
「いえ、これくらいなんでもありません。」
アリアはアキに一礼する。
「じゃあエリスは適当な空き部屋ってことでいいな?」
「そ、そうだな!で、ででできたらそれで頼む!」
「わかったから落ち着け。」




