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ソフィーの実家はミスティアの村の東にあった。
「これですー!」
ミスティアではありふれたタイプの木造建築の家だ。アキの屋敷に比べると小さいが、家族4人で暮らすには十分だろう。というよりうちの屋敷が広すぎるだけだ。まああれは元々エスタートの爺さんの屋敷だからでかくて当然なのだが。
「おんぼろです!」
「十分立派だろ。」
「そ―ですかねー?とりあえずどうぞー!」
ソフィーがこっちですと、家の中へ入っていく。
ちなみにミルナ達は宿で留守番だ。ソフィーが「さすがに全員は入れないです」と言うので、留守番させてきた。ミルナ達も「お留守番でいいですわ」と素直に受け入れてくれた。一応側仕えとしてアリアだけは連れてきたが。
「お邪魔します。」
「あら、姉さん?お兄様?」
家の中へ入ると、ユフィ―が出迎えてくれた。
「おはよう、ユフィ。掃除中か?」
ユフィは掃除道具を手に持っている。多分アキを出迎えてくれたというより、家の掃除をしていたら、アキがやって来たと言う感じだ。
「ええ、そうです。」
「偉いな。」
「・・・?」
家のお手伝いをしていたので褒めたのだが、きょとんとした表情を浮かべるユフィ。
「どうした?」
「あ、いえ、褒められるとは思わなかったので。」
「そうか?」
「はい。両親が仕事へ出ている間、家の事するのは子供の役目ではないでしょうか?」
どうやらミスティアでは子供が家の手伝いをするのは当然という考えらしい。だがアキにしてみたら、それは「普通」ではない。地球ではどちらかというと、「子供は遊ぶもの。手伝いをするのは偉い。」というのが一般的な常識だった。
「そういうものなのか?でも・・・偉いと思うぞ?」
「・・・ふふ、ありがとうございます。お兄様。」
くすくすと楽しそうに笑うユフィ。
「掃除の邪魔をして悪いな。」
「大丈夫ですよ。」
「両親は?」
「もちろんお仕事です。森で狩りしています。」
どうやらアルとソングは狩猟に出掛けていて留守らしい。まあ真昼間から訪ねてきたのだからそれも当然かもしれない。
「それよりお兄様、今日はどうしました?」
「アキさんが家を見たいと言ったので案内したです。ユフィ、さっさとお茶をいれてくるです。」
ユフィの質問にはソフィーが代わりに答えてくれた。ただ無駄に偉そうだ。
「・・・わかりました。」
口答えするかと思いきや、ユフィは素直に承諾する。また喧嘩が始まるかと心配したが、ユフィが引いてくれたようだ。
「アキさん、いつまでも入り口に突っ立ってないで適当に座ってくださいー」
「ああ、わかった。」
ソフィーに促され、近くにあった木の椅子に腰かける。
「アリアも座れ。」
「はい。」
多分アキが言わないとずっと立ったままで待機するだろうアリアにも声をかけておく。
「狭い家ですいませんです。」
「そうか?」
ソフィーの家は玄関を入るとすぐに居間のようなスペースがあり、ソファーなどが置かれている。そして部屋の奥にはキッチン。シンプルながらも住みやすそうだ。ソフィーは狭くておんぼろな家だと言うが、十分に立派な一軒家だ。
「アキさんのお屋敷の方が立派ですー」
「まあ・・・あれは元々爺さんの屋敷だし。」
「それにこのお家は狭いです。走り回れないです。」
「俺たちは大所帯だからこの家だと狭いかもな・・・でも4人で暮らすには十分だろ。アットホームで住み心地良さそうだし、素敵な家じゃないか。」
あと口には出さなかったが・・・家の中で走り回る必要がどこにあるのだろうか。
「えー?そうですかねー?」
「2階もあるんだろ?」
アキは玄関の側にあった階段を指差す。
外から見てもすぐにわかったが、この家は2階建てだ。
「はいです。上には両親の部屋と私とユフィの部屋があります。」
「あれ、ユフィと同じ部屋なのか?」
「です。だから狭いです。」
姉妹で一部屋は別に普通の事だと思うが、年頃の女子は自分の部屋が欲しなるものなのだろうか。アキには兄弟がいなかったからいつも一人部屋だったのでその気持ちはよくわからない。でも確かに同級生がよく文句を言っていた気がする。
「はぁ・・・それは姉さんが走り回るからでしょう・・・普通に暮らしている分には十分な広さですよ・・・」
お茶を淹れて戻ってきたユフィが溜息交じりに呟く。
どうやらユフィの口ぶりからして、ソフィーはよく家の中で暴れていたらしい。まあそれに関しては驚きでも何でもない。今でもよく暴れまくっているしな。
「昔からそうなのか?」
「ええ、この性格になってからは・・・でもお兄様?『昔から』と言う事は今でもお兄様のところで?」
「元気いっぱいだぞ?」
「・・・姉さんがすいません。」
頭を抑えながらユフィが謝ってくる。
まあソフィーが暴走するのはいつもの事だ。たまに鬱陶しく思ったりもするが、なんだかんだ元気いっぱいなソフィーには助けられているし、ソフィーはそれでいいと思っている。それに彼女がいるおかげで家の雰囲気が明るくなっているのは間違いない。
「さあお兄様、お茶をどうぞ。」
「ああ、わざわざ悪いな。」
「アリアお姉様も遠慮しないでくださいね。」
「すいません。」
ユフィがアキとアリアの前にお茶が入ったコップをおいてくれた。
そう、ユフィはアキとアリアの前に「だけ」おいた。
つまり・・・
「・・・ユフィ?私のはどこです?」
「ありませんが?」
「なぜですか!」
「それはこちらのセリフです。何故私が姉さんをもてなさいといけないのですか。」
「実家に帰って来てやったのですから私はお客様扱いされるべきです!」
「帰って来てなんて頼んでいません。お帰りはあちらからどうぞ。」
「なんですか!おねーさんにその口の利き方は!この腹黒エルフ!」
「は?うるさいですよ、この駄エルフ。姉として敬って欲しいならもう少し姉らしくしたらどうですか。」
「むむむ・・・もう怒りました!許しません!」
まあ当然のように喧嘩が始まったわけだ。
「お茶が美味いな。アリア。」
「そうですね。」
もう好きにやらせよう。そのうち飽きて静かになるだろう。




