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「それよりお兄様、せっかくのお料理が冷めてしまいます。」
早くお召し上がりくださいとユフィが急かして来る。
正直まだ虫料理を食べる踏ん切りはつかないが、これ以上躊躇していても余計に食べづらくなるだけだろう。それにソフィーがあれだけぱくぱく食べているのだからそこまで酷い味がする事はないはずだ。
「じゃあ、いただきます。ユフィ、おススメはどれだ?」
「そうですね・・・揚げ物でしょうか。」
先程紹介したバッタらしき虫の揚げ物を指差すユフィ。
「わかった。」
男は何事も度胸だ。それに異世界に来る時のあの緊張感に比べれば、虫を食べるくらい大したことはない。ただミルナ達女性陣は生理的に虫が駄目なのか、さっきからずっと涙目のままだ。
とりあえずアキは揚げ物を一つ取り、口に放り込む。
「・・・ん、案外美味しいな。」
おもったほどの苦みもなく、ほんのりとした塩味がしていて美味しい。香ばしいポテトチップスを食べているような感じだ。食感はちょっと独特だが、不味くはない。
「あら・・・お兄様は普通に食べられるんですね。」
意外ですと目を丸くするユフィ。
「そうか?」
「はい。やはり村の外から来た人は嫌悪感を抱かれる事が多いので。それを臆さず食せるあたり、さすが兄様です。」
どうやらユフィの口ぶりからして、ベルフィオーレでも虫を食すのは、あまり一般的ではないようだ。地球と同じようにおそらく一部地域の人達だけなのだろう。
「ちなみにユフィはどうなんだ?」
「お兄様?虫なんて人が食べる物ではありませんよ?」
そう言ってスッとアキから目を逸らすユフィ。
「おい。」
ミルナ達同様、ユフィも虫が苦手らしい。だが人に食べるように勧めておいてそれはない。
うちのソフィーが随分と世話になった事だし、ここは彼女の婚約者としてしっかりユフィに仕返しをしてやるとしよう。
「ソフィー。」
「はいですー!」
ソフィーはアキが何をしたいのか瞬時に察してくれたようで、ユフィの背後にスッと移動する。
そしてユフィを羽交い絞めにするソフィー。
「え?ちょっと?姉さん?」
「ユフィ、特別に俺が食べさせてやろう。」
「・・・え!?ま、まってください!お兄様!そ、それはまって・・・!」
問答無用だ。ユフィの口にキガリバッタの揚げ物を捻じ込んでやる。
「んー!んー!」
ユフィが涙目で睨んでくる。
「え?おかわりがほしいって?」
「んー・・・!ち、ちがいます!!もうやめてください!おにいさま!私がわるかったです!ごめんなさい!ごめんなさい!!」
泣きそうになりながら必死に謝ってくるユフィ。
どうやら本気で虫を食べるのは嫌らしい。これ以上やると泣き始めそうなので、やめておこう。
「これからはうちのソフィーをもう苛めるなよ?」
「はい・・・お兄様・・・」
「でもソフィーは平気そうなのにユフィは食べられないのか?」
ソフィーとユフィは双子で、2人ともミスティアの出身だ。それなのにミスティアの郷土料理をソフィーは食べられて、ユフィは食べられないのがちょっと不思議だ。
「うぅ・・・私は昔から虫がダメなんです・・・」
「食べ物は食べ物ですー」
目に涙を浮かべるユフィと平然な顔のソフィー。
あまりにも対称的な2人がちょっと面白い。
「まあ・・・ミルナ達もちゃんと食べるんだぞ?」
「「「「・・・はーい」」」」
うちの子達の声に覇気が一切感じられない。だがアキが「せっかくだしミスティアの郷土料理食べたいな」に対してミルナ達も「いいですわね!」と賛成したのだから、ここは一蓮托生。
「「「「・・・い、いただきます」」」」
覚悟を決めたらしく、ミルナ達は料理を口に運ぶ。しかし我儘を言わずちゃんと食べるあたり、うちの子達はさすがだ。