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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十二章 故郷巡り②
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「はい。ユフィさんの身の振り方についてご提案があります。」


 ベルがこういう提案をしてくるのは珍しい事じゃない。アキがどうするか悩んでいる時や困っている時はすかさず助言をしてくれる。だがそれはあくまで悩んでいる時だけだ。今回のように結論が決まっている場合は決して口を挟んで来ない。だからベルがこのタイミングで会話に入ってくると言う事はアキの判断に不満があるからだ。


 おそらくソフィー同様、ベルもユフィがエスぺラルドの屋敷で居候するのを好ましく思っていないのだろう。まあその気持ちはわからなくもない。王女であるベルが、アキの婚約者でもないユフィの前で、みっともない姿を見せるのは憚られるのだろう。ミルナ達の前であれば、同じ穴の狢と言う事で、心を許しているようだが。


「聞こうか。」


 理不尽な提案でないなら、これを採用するのもありだろう。ベルの案を聞くだけ聞いてみるとしよう。


「今までのユフィさんを見ている限り・・・とても優秀な方だと思います。」


 一瞬ベルがチラッとソフィーの方を見た気がする。多分「優秀な方だと思います、ソフィーさんに比べて」と言いたいのだろう。


 まあそれは同意だ。ユフィの方が確かに思慮深い。腹黒いとも言うが、ソフィーよりは確実に計画性はある。


「そうだな、優秀だと思うぞ。」

「ええ。ですのでブレスレルド領の文官を任せるのはどうでしょう。」


 なるほど・・・それはありだ。良い案だと思う。


 ちなみにベルの言うブレスレルド領というのは、アキが侯爵になった際に下賜された、例の領地の事だ。正式にはシノミヤ領というのが正しいのだろうが、アキはまだ領地の視察もしていない。だから今は便宜上、前任の公爵であるブレスレルドの名前のままにしてある。


「うん、それはいいかもしれないな。」


 先日ミルナの兄であるアレクシスも文官として迎える事を約束したばかり。アレクシス1人だと何かと大変だろうし、もしユフィがそこに加わってくれるのであれば願ったり叶ったりだ。


「あの・・・お兄様・・・?」

「どうした、ユフィ。」

「今お話しされているのは・・・私がお兄様の領地の文官をすると言う事でしょうか。」

「そうだよ。」

「そ、そんな大役さすがに務まらないと思います・・・」


 不安そうな目でユフィが見つめてくる。


 確かに今まで田舎でのんびり暮らしていた村娘がいきなり文官をやれと言われたら重荷だろう。ユフィが不安に思うのもわかる。だがユフィは計算高くて地頭がいい。間違いなく文官に向いていると思う。


「その辺は俺やベルがフォローする。だからどうだ?」

「んー・・・」


 いまいち踏ん切りがつかない様子のユフィ。


「文官をやる事で普通じゃ見えない事も見えるようになると思うぞ?とりあえずうちの屋敷にきて、暫く王都を見学したあと俺の領地で文官してみるのはどうかな。嫌ならいつ辞めてもいいし。」


 いつ辞めてもいいという破格の条件を付ければユフィも首を縦に振りやすいだろう。まあ雇う側としては機密情報などを持ち逃げされる可能性もあり、リスクは高い。だがソフィーの妹であるユフィだから問題はないだろう。身内のようなものだし、そこは信用出来る。


「嫌です。そんないい加減にお仕事するのは駄目だと思います。」


 ソフィーが絶対に言わない事トップ3に入りそうな言葉をサラっと言うユフィ。


「ユフィ・・・おまえは本当にソフィーの妹か・・・?」


 双子なのにこれ程真面目なのかと驚いてつい本音が漏れてしまった。


「アキさん!それどういう意味ですー!?」

「はぁ!?それはこっちのセリフです!そもそもお兄様!こんなのと一緒にしないでください!」


 ソフィーとユフィが顔を突き合わせて睨み合っている。


 こういうところは本当にそっくりだ。


「だから喧嘩はやめろって言ってんだろ。」


 ユフィとソフィーを無理矢理引き剥がす。これから美味しいご飯を食べようというのに、空気を悪くするのはやめて欲しい。ご飯が不味くなる。


「「むー・・・」」


 不満そうな表情の2人。


「お兄様がそう言うならここは引きましょう。」

「ふんっ、それはこっちのセリフですー」


 やっぱりそっくりだ。さすが双子。


「お兄様の提案ですが・・・とりあえず文官については保留でお願いします。まずはお屋敷に遊びに行かせてください。そこで色々お勉強させて頂き、私に務まりそうなら引き受けさせて頂きます。でももし他にやりたい事がみつかったら・・・」

「その時はそっちを優先すればいい。」

「ありがとうございます。その代わり何も見つからなかった場合・・・大人しくミスティアへ帰ります。そして両親の言う通りに結婚します。これでいかがでしょう。」

「いや、そこまでしなくても・・・」

「駄目です。お兄様にご迷惑をおかけするのですからこのくらいの覚悟は当然です。」


 ユフィの目がもう決めたと言わんばかりに真剣だ。これはもう何を言っても意見を曲げたりはしないだろう。


「わかった。でも俺が力に慣れる事は何でもするから言ってくれ。」

「ふふ、ありがとうございます、お兄様。それではご飯にしましょう。」

挿絵(By みてみん)

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