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「ミルナ、俺達は魔法訓練しよう。ソフィーもおいで。」
エレン、レオ、そしてエリスに剣の訓練をするように伝えた。それぞれが剣を振り始めたのを確認してミルナとソフィーに声を掛ける。最近ずっと剣の訓練ばっかりだったし、さっきのも前衛職用の対人技術だ。後衛職のミルナ達にも魔法職や遠距離職用の技術を教えておきたい。
「最近ミルナやソフィーとゆっくり訓練してなかったからね。」
「はい!嬉しいですわ。」
「やったー!」
2人とも嬉しそうに近寄ってくる。うちの子達は基本的にわかりやすい構ってちゃんなので、適度に相手しておかないと毎日誰かにお話しされることになりそうだし。まあ、なんだかんだそんなミルナ達をアキは気に入っている。
「ミルナ、ソフィー。今やったのは前衛職用のフェイントだから後衛職の2人にはあまり有効な手段とは言えない。使えるに越したことはないけどね。」
「そうですわね、でもアキさんは何か教えてくださるんでしょう?」
「まあね。実践したほうがわかりやすいかな……。」
アキは庭の適当な位置に土の壁を魔法で作る。
「ミルナ、あの壁に向かって炎魔法を全力で使ってみて。」
「は、はい……えっと。い、いきます!大気を燃やせ、ファイヤ。」
詠唱がやはり恥ずかしいらしい。少し戸惑いを見せたミルナだったが、覚悟を決め炎球を全力で的に向かって放つ。
「なるほど、なるほど。」
「何かわかるんですかー?」
ソフィーが首を傾げて尋ねてくる。
「色々わかるよ。」
「何か変なところでもありましたか?」
ミルナが不安そうに尋ねてくる。
「1つわかった。ミルナの胸ってやっぱ凄いね。めっちゃ揺れるよね。」
「ど、どこ見てるんですの!」
まさかそこを弄られるとは思っていなかったのか、ミルナは顔を真っ赤にして胸を隠しながら怒る。
「悪いとは思う。しかしミルナ。目がいってしまうのはしょうがなくないか?あんなに縦に横に揺れて移動や行動の邪魔じゃないのか、というのをどうしても考えてしまう。物理法則がどうなっているのか研究したいじゃないか。まるで意思を持った生き物のようだ。」
「知りません!細かく説明しないでくださいませ!」
ミルナにしては珍しく取り乱している。いつもなら「あらあらアキさんはエッチですね」くらいは言うだろうに。
「てっきり詠唱とかで弄られると思ってたのに何でそこなんですの!」
「ごめん、忘れてた。カッコイイ!大気を燃やせカッコイイ!」
「やめて!二重で弄るのやめて!」
そろそろ本当に泣きそうなのでやめておく。
「アキさん?何見てるんですか?お話したいんですか?」
ソフィーが晴れやかな笑顔で話しかけてくる。その笑顔も板についてきたなと思うアキ。
「ごめん、ソフィー。ちゃんとソフィーの胸が揺れているとこも見るから。これからはいつも見るようにするから。安心して?」
「ち、ちがいます!そうじゃないです!見ちゃヤですー!」
ソフィーも必死に両手で胸を隠す。その仕草がまた逆にエロく見えてしまうのは自分だけだろうか。
「大体胸なんてあってもいいことないです……。」
ソフィーが頬を栗鼠のように膨らませる。
「じゃあエレンにあげよう。それがいい。エレンも狂喜乱舞だ。」
アキが速攻で提案する。
「アキ!人が一生懸命訓練している時になに勝手なこといっていんのよ!ぶっころす!」
エレンがちゃんと会話を聞いていたのか短剣を構えて飛びかかってくる。アキはそれを自分の脇差で防御する。一応防御できる程度に手加減してくれているのがエレンの優しいところだ。
「アキ、覚悟しなさい!早速覚えたフェイントあんたで試しやるんだからね!」
鍔迫り合いをしながらエレンが鬼の形相でアキを見つめる。
「エレン……。」
「な、なによ。」
アキはわざとらしくエレンの胸に視線を送る。
「ぷっ。」
「今すぐぶっころおおおおす!」
エレンがさらに激高するがアキはエレンの肩に手を置いて優しく話しかける。
「ごめん、最近エレンとじゃれ合ってなかったからつい。許してね。あと手加減してくれてありがとう。対人練習頑張れ。」
「べ、別に怒ってないわ……。うん、頑張る。」
エレンは嬉しそうに自分の訓練へと戻って行った。
「ちょろいなー。」
「相変わらずですわねー……。」
嬉しそうにしていたエレンを見てミルナが同意してくる。
「しかし、ミルナの胸のせいで話が脱線したじゃないか。」
「今の一連の出来事を私のせいにしないでください!」
「違う、ミルナのせいじゃない。ミルナの胸のせいにしたんだ。」
「一緒だから!それ一緒!」
アキは軽く笑う。それを見ていたソフィーも釣られて笑う。ミルナも察したのか、少し恥ずかしそうに微笑む。
「全く……アキさんは。察しの良い男は嫌いですわ。」
「だから逆だっての。ミルナ、ソフィー、最近構えてなくてごめんね。」
彼女達ともある程度コミュニケーションを取ったので、改めてアキは戦闘技術の話を続ける。
「予備動作ってわかる?」
「え、ええ。攻撃の前に身体の一部が予備的に動いてしまうことですわね?」
「そうだね。人間である以上、どうしても予備動作は出る。実力者になればうまく消したり隠したりはするけど、完全に0にすることは難しい。」
アキはそう言ってレオに声を掛ける。
「リオナ、ちょっと俺の太刀に向かって攻撃をしてくれるか?」
「うん、いいよー!」
そう言ってレオは地面を蹴ろうとする。
「リオナ、その状態のままストップ。」
その瞬間アキがレオを止める。
「今リオナが俺の方に飛びかかろうとした。予備動作として軸足に力を入れる為、少し後ろにずらした。」
「あ……ほんとだ。」
レオは自分の軸足を見て、初期位置よりわずかに下がっていることを確認したようだ。
「結構わかりやすかったと思うけど、ミルナはわかった?」
「は、はい。アキさん程に詳しく説明は出来ませんが、飛びかかるというのは雰囲気でわかりますわ。」
「そう、その雰囲気を人は感じ取って反応する。エリスはこの動作が一瞬だったり、ほとんどなかったりするんだ。だから防御しづらい、反応しにくい。」
「さすがアキ!それを習得するのには私も苦労したのだ!」
やはりちゃんとエリスは予備動作を少なくする訓練をしたようだ。
「エレンとリオナはこれも同時に意識して練習するようにね?」
「わかったわ。」
「了解だよ!」
2人の返事を聞いてアキはミルナとソフィーの方を向く。
「で、魔法や弓。特に魔法においてはこの予備動作を0にできるはずだ。」
「確かにそうですわ、アキさんは無詠唱ですもの。」
アキはそれだけじゃないと説明する。先ほどミルナが炎球を放った際、投げる動作が入っていた。おそらく体が勝手に動いてしまったのだ。でも魔素で射出を行っているので投げる動作に意味はない。気持ち的にその方が早く飛びそうな感覚がするだけだ。
「なるほど……言われてみればその通りですわね……。」
魔獣相手だと予備動作を意識する必要はないし、ミルナが意識した事がないのはしょうがない事だ。
「弓に関しては、弦を引く、矢を放つ。この2つの動作を極力一瞬にする。弓は遠距離攻撃だから敵からしたらタイミングがさらに掴みにくくなるはずだ。ソフィーは優秀な弓使いだから出来ると思う。」
「が、がんばります!」
可愛らしくガッツポーズするソフィー。
「で、その効果だけど。ちょっと見せようか。俺も完璧にできるわけじゃないけどね。」
アキはそう言うとエリスに声を掛ける。
「エリス、今からこの水球をエリスに向かって2回攻撃する。いつ攻撃するかは言わないし、話している途中で急にやるから適当に回避してみて?」
手の上にサッカーボールくらいの水球を作る。魔素の量を考えると、このサイズで180kmくらいは出せるはずだ。アキは一旦、水球を消す。
「面白そうだな、いいぞ!」
そこから適当にエリスと話をする。今日食べたケーキの事やレオ達の訓練の事などだ。内容は正直なんでもいい。時折、エレンやレオに話も振り、エリスの気を出来るだけ逸らす。
「リオナは甘い物好きだし今度食べに行こうね。」
「やった、いくー!」
その会話の途中でアキは敢えて投げる動作を軽くいれ、水球をエリスに飛ばす。エリスはそれをなんなく回避する。
「さすがエリス、不意ついたくらいじゃあたらないね。」
エリスの事を横目で見つつアキは声を掛ける。
「当たり前だ!これでもSだからな!」
褒められて嬉しそうに笑っているその瞬間に2回目の攻撃をアキは行う。今度は手の振りなど一切なし。体はエレン達の方に向けているので、左肩の先にエリスがいる状況だ。絶好のタイミングだとアキは思い、魔法を掌からから出すのではなく、左肩辺りから水球をエリスに向けて射出。人が皮膚呼吸で酸素交換できるように、魔素も交換できると考えて練習してあった技術だ。水球形成から射出まで0.1秒以下。何の前触れもなく水球が飛んできた様にエリスには見えるだろう。
「なっ!」
エリスの反応が遅れた。そして水球を回避しきれず右腕に命中し、エリスの腕が水浸しになった。それを見たアキは満足したような表情を浮かべる。
「俺でもエリスに命中させられたな。」
「くくく、凄い、凄いな!」
アキの技術にエリスは感心して、嬉しそうに笑う。ただ女性を水浸しにさせたのは申し訳ないのでアリアからタオルを受け取り、エリスの腕を軽くふいてやる。
「でも水で濡らしちゃってごめんね。」
「あ、うん……それは別にいい……でもありがとう。」
こういう時は急に女の子らしくなるエリスが可愛い。ある程度拭いたところでエリスにタオルをそのまま渡してミルナに声を掛ける。
「ミルナにも覚えてもらうからね?」
「は、はい!魔素を掌以外から出すのですわね……確かに出来るのは知っていました。正直意味がないと思っていましたが、対人戦だと有効ってことですわね?」
「そうだね、俺でもエリスに命中させられたんだ。ミルナがやればもっと上手く出来る。」
「頑張りますわ!あ……でも詠唱破棄からですね。」
ミルナは苦笑する。そう、これは詠唱破棄が前提の技術だ。詠唱するなら正直どこから魔素を出したところで意味がない。詠唱破棄の概念がなかったのだから、ミルナがこの技術に意味がないと思っていても当然だ。
「えーやだ。ミルナの詠唱は未来永劫聞きたい。」
「だから破棄はいいことなの!なんでそこまで私の詠唱を弄るんですか!」
ミルナがアキの肩を掴んで揺らす。
「普通に聞いてて格好いいし、楽しいし、照れるミルナが可愛い。」
「可愛いは嬉しいですけど……。」
アキの言葉に照れるミルナ。
「アキさんの詠唱もききたいですー!」
ソフィーが会話に入ってくる。
「だからやだって言ったじゃん。ダサいし、格好悪いし、恥ずかしいし。」
「ちょっと!さっき私に言ってた事と逆ですわ!さっきのはなんなんですの!」
「ミルナがやるとミルナで遊べる。」
「それが本音ですわよね!せめて言わないで隠してよ!」
ミルナが涙目だ。暗黒物質だった彼女がずいぶんと変わったもんだと苦笑する。メルシーの時、皆を引っ張っていく為に無理して自分を奮い立たせて必死に頑張っていたのだろう。アキは「頑張ってたんだね」と優しい目でミルナを見つめる。




