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「アキさん、順番が決まりましたわ!」
ミルナが嬉しそうに報告してくるが・・・もの凄くどうでもいい。
「知ってるよ。」
結局ミルナ達は30分くらい女子会ならぬ、「既成事実争奪戦(命名:ミルナ)」をやっていた。しかも何故かアキの部屋で。よくもまあそんなくだらない事で言い争えるものだと感心した。もの凄く気まずかったのは言うまでもないだろう。しかもアキの目の前でやっていたのだから嫌でも耳に入ってくる。
「あら、アキさん、女子会を盗み聞きは・・・感心しませんわよ?」
――スパーン!
ミルナを思いっ切り引っ叩く。
「何故叩くんですの!?」
「盗み聞きとか言うからだろうが。大体俺の部屋でやるお前らが悪い。」
「それは聞かない振りをしてくださいませ!」
「なんでだよ。自分の部屋でやれよ。」
「いやですわ!」
ハッキリと言い切るミルナ。
もう相手にするだけで面倒臭い。
「で、とりあえず順番はソフィー、ミルナ、ベル・・・でいいんだろ?」
「はいですー!」
「ええ・・・残念ながらそうなりました。」
「そうですわ!」
ソフィー、ミルナ、ベルがそれぞれ返事をする。
ちなみにミルナ達がやっていた言い争いだが、基本的にこの3人が騒いでいただけだ。他の子達は「別にいつでも・・・」と言った感じで一歩引いていた。
「エレンやリオナはいつでもいいんだな?」
「そ、そうね・・・アキに任せるわ。」
「うん、私も・・・えっと・・・いつでもいいかなって?」
ほんのりと頬を染めながら呟く2人が可愛い。ミルナやソフィーは「私が!私が!」だからこそ、余計に2人の奥ゆかしさが女性らしく見えてしまう。
「まあ・・・とりあえずそろそろ夕飯に行こうか?」
ミルナ達が女子会をしていたおかげですっかりいい時間だ。お腹もいい具合に空いてきたし、この辺で夕飯にしよう。それにこの話題をこれ以上続けるのも不毛だ。
「あ、もういきますー?」
「うん。」
アキ達が向かう予定のレストランはミスティアで唯一の食事処。まあレストランというより大衆食堂のような場所らしいが。ちなみにその食事処は宿の隣にあり、徒歩数秒だ。一応アキやベルが行っても騒ぎにならないよう、宿へ来る前に立ち寄って貸し切りにするよう頼んでおいた。店主も快く了承してくれたので、のんびりと食事が出来る。
「ミスティアの郷土料理が食べられるんだろ?」
「ですー。懐かしいです!」
「それは楽しみだ。でも貸し切りにしてもらったのは申し訳ないな。」
代金は多めに払う予定だし、店としては大丈夫だろうが、今日そこで食べようとしていた人達がいるなら申し訳ない。ミスティア唯一の食堂と言う事で、夜は酒場としても機能しているらしく、結構繁盛しているとの事だ。そう言う意味で迷惑をかけていると思うと、少々心苦しい。
「大丈夫です。気にしなくていいですよ。どうせとーさま達が飲んで騒ぐだけですし、1日くらいやらなくてもなんの問題ないですー」
ソフィーが呆れ顔で言う。
どうやらその食事処では、村人の男達が集まって毎晩のように酒盛りしているようだ。そして村の女性陣からしてみれば、「毎日毎日飲んで騒いでしょうもない」と言う事で不評らしい。
「それならいいか。じゃあ行こう。」
「「「はーい」」」
アキはミルナ達を引き連れて宿を出る。そして隣の食事処へ入った。
「お待ちしておりました、お兄様。」
店に入ると何故かソフィーがいた。まあソフィーではなくユフィだが。
「なんでいるんだよ。」
「私もご相伴に預かろうと思いまして。ダメですか?」
あざとらしくコテンと首を傾げながら上目遣いで聞いてくるユフィ。正直ユフィがいるのは予想外だ。帰ったのではなかったのだろうか。
「まあいいけど。その代わりソフィーと和解しろよ。」
予想外ではあるが、ある意味丁度いい。この姉妹を仲直りさせるいい機会だ。
「えー・・・」
アキが言うと、ユフィはもの凄く嫌そうな顔をする。
そこまでしかめっ面をしなくてもいいと思うんだが。
「楽しく食事したいんだよ。姉妹喧嘩を見ながらは勘弁してくれ。仲良く出来ないなら帰れ。」
「むー・・・お兄様は酷いです。」
「酷くないだろ、のんびり食事したいと思うのは普通だ。」
「・・・わかりました、姉さんと仲良くします。」
渋々と言った感じでユフィが頷く。
「ユフィ、ちなみにソフィーには説教しておいたからな。」
「え?お兄様?」
アキはユフィに宿屋での一幕を説明してやる。ソフィーにちゃんと理解させて反省させたとわかれば、ユフィも変にソフィーに突っかかったりはしないだろう。これで姉妹仲良くなってくれればいんだが果たして・・・
「・・・そうなんですね。」
ユフィは俯きながら、何か考え込むように呟く。
そのまま暫くユフィの様子を伺っていたが、「もう少し・・・」とか「でもここで引き延ばすのは・・・」とか何やら不穏な事をぶつぶつ言っている。
「ユフィ?」
「あ、はい、お兄様。わかりました。姉さんの事はもう許します。」
「それはよかった。」
だがまだ安心できない。ユフィはまだ何か企んでいそうな気がする。
「その代わりと言ってはなんですが、お兄様にお願いが・・・」
やはりきたか。
「とりあえず言ってみろ。」
お小遣いが欲しいとかであれば可愛いお願いだが、果たしてどんな無茶な事を言われるのだろうか。ちょっと想像がつかない。