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「つまり全部私が悪かったんですね・・・」
がっくりと肩を落とし、落ち込んでいるソフィー。ちょっと凹んだり怒ったりは日常茶飯事だが、ここまで本気で落ち込んでいるのは珍しい。だがアキが説明した事でちゃんと理解してくれたようだ。これでユフィも少しは報われるだろう。
「反省したか?」
「はいです・・・」
「ユフィにも謝っておけよ。」
「あ、それはいやです。」
そこだけはハッキリと拒否するソフィー。
「なんでだよ。」
「今日たくさん仕返しされたのでお相子です。むしろ私の恥ずかしい昔話をいっぱいアキさんにバラされたんですから、私がユフィに仕返しする番ですー!」
せっかく反省したのかと思ったのに、もう仕返しする事を考えているあたりが凄い。まあそれでこそソフィーだ。
「うん、それはやめとけ。」
ただここで止めないと、さらに姉妹関係が泥沼化する気がする。今更仲いい姉妹に戻るのは難しいかもしれないが、これ以上悪化させる必要もないだろう。
「なぜですかー!」
「双子なんだから仲良くしろよ。」
「無理です。ユフィが頭を下げたら考えなくもないです。」
それは望み薄だ。ユフィはユフィで頑固そうだし、ソフィーに頭を下げるなんて絶対に嫌だろう。今度会った時にでもアキが上手く緩衝材になって、2人の関係を取り持つのがよさそうだ。アキはソフィーと結婚するのだから、ユフィは義理の妹になる。せっかく可愛い義理の妹が出来るのだから、仲良くやっていきたい。
「俺が話しをつけてやるからこれ以上話をややこしくするな。」
「アキさんはどっちの味方ですかー!」
「当然ソフィーだけど?」
そこはさすがに考えるまでもない。
「そ、それならいいんですけど・・・えへへ・・・」
アキが即答すると思わなかったのか、照れ臭そうに頬を赤く染め、俯くソフィー。
「でもソフィーと結婚するからユフィは義妹になるだろ?俺としてはユフィと仲良くしたいんだ。姉妹が言い争いするのは見たくないからな。」
とはいえ、本気でお互い嫌っているわけではないだろう。喧嘩するほど仲が良いと思える程度の喧嘩だ。ただ毎回毎回あれに付き合うのも面倒臭い、というか疲れる。普通に姉妹として仲良くしていて欲しい。
「むー・・・わかりました。アキさんがそういうなら善処するです・・・」
「ありがとな。」
「特別ですから!アキさんが言うからです!」
納得はいかないが、一応仲直りはしてくれるようだ。
「偉いぞ、あとで甘やかしてやる。」
そもそもの姉妹関係悪化の諸悪の根源はソフィーなので、ここで甘やかすのもどうかと正直思うが、ソフィーには適度な飴が必要だ。そうでないと想定外の暴走するからな。
「やったーです!あ、アキさん!そういえばなんでも言う事聞いてくれるんですよね!私ちゃんとミスティアに案内したですー!」
そう言えばそうだった。そんな飴も与えていた。迂闊な約束をしてしまった感はあるが、言ってしまったからには約束は守らなければならないだろう。
「わかってる。俺は何をすればいいんだ?」
「ふふふ・・・既成事実ですー!」
そう叫びながらソフィーが飛びついてきたので、ひらりと躱す。
「却下。」
「何故です!なんでもって言いましたー!」
確かに言ったが、限度があるだろう。まあソフィーのような可愛い子に迫られて悪い気はしないし、据え膳はなんとやらと言うのもわかるが、そのタイミングは今ではない。そもそもそういうのは挨拶巡りが終わってからという約束だ。まだリオナやエリスの両親に挨拶していないし、ソフィーだけ先にと言うのも不公平だ。
「そういうのは正式に婚約を認めてもらってからだ。残りはリオナとエリスだからもう少し待ってろ。あとセシルの母親にもちゃんと挨拶しないとな。」
セシルの母親であるエステルの婆さんには以前、「セシルは俺のだ」と言ったが、ちゃんと挨拶したわけではない。筋を通すと言う意味ではもう一度くらいは顔を見せておくべきだろう。
「アキさん、一応母親に手紙を書いておいたので、そのうち王都へ来ると思いますよ?」
「それはよかった。じゃあこれで全員だな。まあアリアの親にも個人的には会っておきたいけど・・・」
そう言いながらアリアの方をチラっと見る。
「それは不要です。アキさん、お願いですので・・・」
いつもの仏頂面で淡々と言うのではなく、必死に懇願してくるアリア。やはり両親には二度と会いたくないらしい。まあアリアやシャルが親にされた仕打ちを考えれば当然だが。
「わかってる。」
「ありがとうございます。私の家族はシャルとアキさんだけです。」
そう言って幸せそうに微笑むアリア。
「ああ、よろしくな。」
「ふふ、はい。」
「ちょっとアキさん!今は私のお願いの話ですー!」
アリアといい雰囲気を出していたのが気に入らなかったようで、ソフィーがぶーぶーと文句を言ってきた。
面倒な駄エルフめ。まあ話が脱線したのは事実だから許してやろう。そしてとりあえずソフィーの「お願い」だが、ちゃんと彼女が納得する代替案は考えてある。
「ソフィー。」
「・・・なんですー?」
一応聞いてやると言わんばかりに踏ん反り返るソフィー。
「今すぐ既成事実を作るのは無理だが、挨拶巡りが終わったら一番にソフィーとそういうことをするってのでどうだ?」
「わ、私が一番ですー!?」
「ダメか?」
「おっけーですー!それならおっけーですー!」
ソフィーが叫びながら万歳している。
これでソフィーの願いも聞いてあげたし、一件落着・・・といくわけがない。勝手に順番を決めた事にミルナ達が納得するわけがない。特にミルナとベル。
「何故ですの!アキさん!ずるいですわ!!」
「そうです!ここは王女である私が一番だと思います!」
必死にアピールしてくる2人。面倒だな。誰を1番目にしても、誰かが文句を言うだろう。
となると取れる手段は1つ。
「ミルナ達で話し合って決めろ。俺はそれに従う。」
ミルナ達に丸投げした。
「ソフィー!1番はだめですわよ!」
「いやですー!1番は私で決定なのですー!」
「ダメです!王女権限でその権利を剥奪します!」
「そんな権限無効ですー!」
丸投げした途端、ギャーギャーと言い合いを始めるミルナ達。うるさい。だがこれでこの子達が勝手に決めるだろう。アキはおとなしくミルナ達の決定に従うだけでいい。こういうのは女性陣に決めてもらうのが一番後腐れがないはずだしな。
しかし一夫多妻というのは本当に気苦労が多い。周りから見れば「美女に囲まれて何の文句があるんだ!」とか思われるのだろうが、実際経験してみると一夫多妻がどれだけ合理的な制度だったか身に染みてわかる。まあ幸せなのは事実なので文句は言わないが。