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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十二章 故郷巡り②
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32

「えーっと・・・1つでいいんですよね?」


 ソフィーがおずおずと確認してくる。


「とりあえずな。」


 一気に話されても処理出来なさそうだし、とりあえず1つだ。しかしそんなに色々とやらかしているのか、うちの駄エルフは。


「でも本当に悪さはしてませんです!」


 まあそれは事実だろう。ソフィーがそんな事をするとは思えない。ただ良かれと思ってやった事が裏目に出る事はよくある。


「それで、何をやったんだ?」

「アキさん、ミスティアは農業が盛んなのはしってますー?」

「ああ、そうだな。」


 ミスティアは基本的に自給自足なのだから農業は盛んというより必然だ。あとは狩猟。この2つでミスティアの生活は成り立っている。それ以外のものは外部との交易で調達しているらしい。多分サルマリアの国王であるイルが色々と手を回しているのだろう。


 さてソフィーの言う農業だが、今日ミスティアを見回った際、あらゆるところに畑が作られているのを見かけた。ミスティアは森の奥地の切り開かれている村。土地に余裕があるわけではない。木を切り倒して土地を広げればいいのかもしれないが、労働力もかかるし、おいそれと出来ることではない。だからこそ土地を遊ばせておく余裕などなく、ミスティアは基本的に村民が住む家以外の場所はほとんどが畑なのだとユフィが説明してくれた。


 だからアキ達が泊まっている宿屋施設などは例外中の例外の場所だと言える。本当なら商店や宿屋などは潰して畑にしてしまいのかもしれない。とはいえそこまでミスティアが生活に困っているわけではなさそうだ。本当に生活が苦しいならとっくに潰して畑にするなりしているだろう。こういう秘境にある村は生活が苦しいイメージがあったが、ミスティアにそんな雰囲気はまったくない。むしろある程度豊かな暮らしをしているようにも思える。田舎だからこその不便は色々とあるが、食べるのに困ってはいなさそうだし、村民達に悲壮感は全くない。


 まあその辺りも含めて、この地の領主、そしてイルが上手く管理していると言う事だ。アキの領内にもこういう村があるかもしれないし、色々と勉強しておかなければならないだろう。


「畑仕事は大変なんですよ。この辺りは雨があまり降らないので、村の真ん中にある井戸から水を運ばないとなのですー」

「それは大変だな・・・水路とかひかないのか?」

「はい、近くに川がないんです。」

「そうなのか。」


 村に井戸があるのだから、水源が全くないわけではないが、多分水脈が全部地下に集まってしまっているのだろう。それを上手くくみ上げて循環させれば水路も作れるのではと思ったが・・・ベルフィオーレの技術では井戸を掘るのも一苦労だ。地球のように掘削機があるわけでもないし、電動で水が汲み上げられるわけでもない。


「いちいち井戸から汲み上げなければならないのか?」

「はい。水を用意するのは重労働なんです。水が不足してないのは幸いですけど。」

「なるほどな。それで?」

「ふふふ、ソフィーさんはそれをお手伝いしていたのです!」


 ソフィーがえっへんと胸を張る。


 どうやらソフィーは井戸から水を汲み上げ、畑へ運ぶのを手伝っていたらしい。


 それなら迷惑をかけるどころか普通に良い話だ。どうしてそれでユフィが怒られるような状況になったのか・・・


 まあそれはちょっと考えればすぐにわかった。この暴走エルフは加減と言うものを知らない。やるとなったら徹底的にやる子だ。つまり・・・


「どのくらい運んだんだ?」

「うーん、そうですねー・・・10往復でいいと言われたので・・・ソフィーさんは頑張って100往復しました!」


 凄いでしょうと得意気な顔のソフィーだが、やはりか。農業には水が必要だが、当然やりすぎはよくない。そんなのは地球なら子供でも分かる事だ。


「なあベル、水をやり過ぎたらどうなるか知ってる?」


 一応ベルフィオーレだと常識ではない可能性があるので、ソフィーに突っ込む前に聞いてみる。王女であるベルが知っているなら常識と言えるだろうしな。


「アキさん・・・それは常識かと・・・」


 気まずそうに小さな声で呟くベル。


「ベルフィオーレでも?」

「はい・・・」


 それなら怒られて当然だ。ただ一応ソフィーの善意からやっている事なので、ちゃんとソフィーに指示を出さなかった方も悪いと言えるが。


「ソフィー、ちなみにその時なんか怒られた?」

「いえ、別になにも言われませんでしたよ?あ、でも『ありがとう、次からはもう手伝わなくてもいいよ』とあのお爺ちゃんは言ってた気がしなくもないです。」


 つまりその人は遠回しにソフィーに「もう手を出すな」と言いたかったのだろう。


「それでソフィーはどうしたんだ?」

「ふふ、聞いてください!そこが私の偉いところです!お爺ちゃんは遠慮してると思ったので毎日こっそり手伝っておいたのですー!」


 最悪だな。それをどのくらい続けたのかはしらないが、そんな事をしたら農作物は間違いなく枯れる。ソフィーはやると決めたらとことんやる。それはもう草木が生えないレベルまでやりつくしてしまう。


「・・・それでどうなったんだ?」

「うーん、どうでしたかね・・・あ、1ヶ月くらいしたらユフィがお爺ちゃんに説教されていました。『余計な事をするなと言っただろう!』『ソフィーちゃんのように何もしない方がまだましだ!!』とか言われていたみたいです。多分ユフィはユフィで何かお手伝いをして失敗したんじゃないんですかね?農作物が全部ダメになってたみたいですし。」

「それはソフィーのせいだろ・・・」

「え、何故です?私は水をあげていただけですよ?それにこっそりバレないように手伝っていたのでお爺ちゃんは何もしてないと思ってます。大体水をあげただけで農作物がダメになるわけないじゃないですか。ぷぷ、アキさんは何もしらないんですねー!」


 この駄エルフ、段々と鬱陶しくなってきた。


 これはユフィの気持ちもわかる。間違いなくこの件もソフィーと間違われてユフィは怒られたはずだ。それにもしそこで「あれは姉のソフィーです!」と言い訳しても間違いなく逆効果。


「ユフィ・・・可哀そうだな・・・」


 大人しいソフィーが暴走エルフに急に変わるなんて誰も想像しないだろうし、それならもともと行動力があって社交的なユフィがやったと思われても当然だ。ユフィがどんどん可哀そうになってくる。


「どうですアキさん!私えらいでしょう!褒めてくださいですー!」


 もうこの時点で色々アウトだが、一応他にも何をやったのか聞いておこう。ソフィーを引っ叩くのはそれからでもいいだろう。


「ソフィーあとでまとめて褒めてやるから他に何を手伝ったのか言ってみろ。」

「えへへ、はいですー!いっぱい褒めてくださいですー!」


 これ以上聞くのは怖いが、ちゃんと聞いてやるのがアキの仕事だ。

 挿絵(By みてみん)

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