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とりあえずミルナ達を追い出すのはもう諦めた。飽きたらそのうち帰るだろう。というよりしばらくしたら夕食の時間だ。どうせまた全員で出掛ける事になるし、呼びに行く手間も省ける。ちなみに夕食だが、ミスティアで唯一の食事処へ行く予定。そこではこの土地の郷土料理が食べられるらしいので、ちょっと楽しみだ。
「さて・・・ミスティアついて少し話そうか。」
夕食まではまだ少し時間がある。それまでミスティアでの1日を少し振り返るとしよう。街についてからはバタバタでゆっくり考える暇もなかったからな。きっとミルナ達も同じことを考えていると思い、アキはそう提案する。
「え・・・今ですの?」
だがアキの想像とは裏腹に、ミルナは呆れ顔だ。
「夕飯までまだ少しあるし、丁度いいだろ?」
「それはそうかもしれませんが・・・アキさんはもう少し空気を読んでくださいませんこと?」
酷い言われようだ。というかミルナだけには言われたくない。それにここで「じゃあ何をすればいいんだよ」と聞いても、どうせ「甘やかしてくださいませ!」としか言わないだろう。そのくらいはわかっている。
「却下。」
「何故ですの・・・!」
「別の事をしてもいいけど・・・甘やかせとか言わないよな?」
「も、もちろんですわ!」
ミルナの目が泳いでいる。やはりか。
「というわけでミスティアの事でも話すか。」
「むー・・・」
頬を膨らませて拗ねるミルナだが、もう面倒なので無視する。ちなみに他の子達は「そうしましょう」と賛成してくれているので問題はない。
「それでアキさん、ミスティアはどうでしたか?」
ベルが尋ねてくる。
「そうだな・・・ちなみにベルはどう思う?」
アキとしては、ミスティアは森の奥深くにある秘境。のどかな田舎町。そういった感想を持ったが、王女であるベルの目からはどう見えたのか気になる。
「私ですか?そうですね・・・我が国、エスぺラルドにも似たような場所はあるとは聞きます。行った事はないですが・・・」
「そうなのか?」
「ええ。大都市には視察に行く事はありますが、田舎の方はまだいけていませんね。さすがにお父様は行った事はあると思いますが。」
よく考えればベルはまだ17歳だ。公務を始めてまだ数年だろう。そんなベルがエスぺラルドの隅々まで知っているはずもない。
「ですので正直なところ・・・このミスティアはとても興味深いです。ここはサルマリアであって私の国ではありませんが、自国の田舎町はこんな感じなのかと色々勉強になります。」
「どういうところが勉強になったんだ?」
「はい。王女である事は隠してお忍びで行くべきだなと・・・」
「ああ、それはそうだな・・・」
ミスティアに到着した時、あれだけ大騒ぎになったのだから、エスぺラルドの田舎町にベルが行ったら間違いなく同じことが起こる。もしかしたらミスティアの時以上の騒ぎになるかもしれない。ミスティアはあくまでサルマリア王国にあるので、エスぺラルドの王女であるベルが訪問しても、村民達は「なんだ他国の王女か。とりあえず失礼のないようにしないとな」くらいの感想しか抱かないだろう。これでサルマリアの王女であるステラを連れて来ていたら、村民全員がひれ伏すくらいの騒ぎになっていた可能性が高い。
「サルマリアだからあの程度の騒ぎで済んだのかな?」
「ええ。ステラさんがついてこなかった理由はそれでしょう。」
「なるほどな。」
ステラは口に出してはっきりとはそうは言わなかったが、わかっていたのだろう。さすがは王女だ。
「まあソフィーさんが言いふらさなければ、騒ぎにすらなってなかったと思いますが・・・」
「そうだな。でもそれは許してやれ。」
アキが侯爵だと報告するのはしょうがないが、ベルが王女だと言う必要は確かになかった。だがソフィーもソフィーで久しぶりに会う両親の前で色々といっぱいいっぱいだったのだろう。それにユフィにたっぷりいじめられた事で十分罰は受けている。
「それよりベル、ミスティアの感想はそれだけか?」
「あ、いえ、他にも色々あります。例えば・・・」