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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十二章 故郷巡り②
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「お兄様、あちらがミスティアの町の中心にある・・・井戸です。」

「お、おう・・・」


 ユフィにミスティアの町を案内してもらう事約30分。紹介してくれる場所があまりにもコメントしづらい場所ばかりで正直戸惑っている。井戸や畑に始まり、町唯一の食事処や商店・・・と生活にかかわるような場所ばかりで、ミスティアを観光しているとはとても言い難い。もっとミスティアだからこそみたいなところはないのだろうか。


「お兄様?そんな微妙な表情しないでください。」

「だって井戸を紹介されても反応に困るだろ。」

「ええ、そうかもしれません。ですが私は言いましたよね?ミスティアには何もないと。」


 確かにユフィは何もないと言った。だがさすがに観光名所くらいはあるだろうと思っていたのだ。本当に何もないとはさすがに思わなかったし、まさか井戸を紹介されるのは完全に予想外だ。


「もう少し何かあるだろ?」

「ないです。」


 はっきりと言い切るユフィ。


「えー・・・」


 アキだけでなく、ミルナ達も井戸を紹介されてどうしようと困惑している。このままユフィに案内を続けてもらっても、正直碌なところを紹介されない気がする。


「といいますか・・・案内はほぼ終わりました。」


 続けるどころかもう終わりだったらしい。


「まだ数か所しかまわってないと思うが?」

「ええ、それくらい何もないところなんです。これからどうしますか?」


 ユフィの目がどこか挑戦的だ。


 これはもしかしてアキを試しているのだろうか。先程からやけにアキに対して好意的に接してくれているが・・・ユフィが計算高い子なのであればこれは逆に怪しい。彼女とはまだ出会ったばかりだ。いくらアキがソフィーの婚約者とはいえ、そう簡単に心を開いたりはしないだろう。


 つまりミスティアの微妙なところをアキに紹介して、どういう反応するのか見ているのかもしれない。もしかしたらアキが姉の婚約者として相応しいのかどうか見定めているのだろうか。


「そうだな・・・」

「はい、お兄様は何か見たいところありますか?」

「ソフィーが小さい頃遊んだ場所とか、思い出の場所とか・・・ソフィーが生まれ育ったミスティアを紹介してくれたら嬉しい。」

「なるほど・・・ふふ、わかりました。」


 何かに納得したように頷くユフィ。どうやらアキの答えは正解だったらしい。


「試すのも程々にしてくれよ。」


 試されてるのはあまりいい気分はしないが、ユフィの気持ちもわからなくもない。大事な姉の事だから、アキがちゃんとソフィーの事を考えているのか心配なのだろう。まあそこまで予想してこの答えを出したわけではないが。ユフィが案内してくれなければもともとソフィーにお願いするつもりだったしな。


「あら、わかります?」

「同類だからな。ソフィーの婚約者として相応しいか見極めたかったんだろ?」

「あ、いえ、それは別にどうでもいいです。」


 ソフィーの事はどうでもいいらしい。


「姉が懐いている時点でお兄様は婚約者として相応しいと思います。あの姉を上手くコントロール出来ているというだけで十分ですし、どうでもいいです。」

「・・・じゃあ何で試したんだよ。」

「私の『お兄様』になる方として相応しいかは見極めないといけませんから。」


 理由がソフィーの為ではなく、完全に私利私欲だった。まあそこまではっきり言い切られると逆に清々しいが。


「ちなみにどんな人間が相応しいんだ?」


 ちょっと聞くのが怖いが、一応聞いてみる。


「はい。まず私の性格をちゃんと理解してくれる方です。何を考え、何を望んでいるか、言わなくてもわからる人です。そしてそれを理解した上で、私を可愛がって甘やかしてくれる人ですね。」


 末恐ろしい子だ。というかソフィーの双子の妹という事を考えれば、ある意味納得だ。考え方は正反対だし、性格も全然違うが、どこか似ている。全力で甘やかして可愛がって欲しいとかソフィーそのものだしな。


「それで・・・俺は合格なのか?」

「はい、おめでとうございます。今のところ合格ですよ。」


 ユフィがぱちぱちと手を叩く。


「まったく嬉しくない。」

「あら、お兄様は酷いです。そいう言う事を言うと減点しちゃいますよ?」

「むしろ大幅減点してくれ。」


 ある意味ユフィはソフィー以上に面倒な子だ。まだ猪突猛進なソフィーの方が素直で可愛いし、扱いやすい。


「むー・・・こんなに可愛い妹が出来て嬉しくないんですか。」


 頬を膨らませ、あざと可愛く拗ねるユフィ。


「俺にとってはソフィーの方が100倍可愛い。」

「ええ・・・ほ、ほんきですか・・・」


 信じられないとアキの言葉に頬を引き攣らせるユフィ。


「よくわかってます!さすがアキさんですー!」


 そんなユフィとは対照的に大喜びしているソフィー。


「あざとくて計算高いのはあまり好きじゃないからな。」


 まあベルを始め、うちの子達も計算高くて腹黒い部分はあるが、ユフィ程ではない。それにミルナ達はアキに対しては腹黒くない。アキの為に腹黒くなる事はあっても、アキに対しては素直だからユフィとは全然違う。


「なるほど・・・勉強になります。お兄様、よろしければ私の事も貰って頂けませんか?姉と抱き合わせでいかがです?今ならお買い得ですよ?」


 何故かさらっと自分を売り込んでくるユフィ。


「断る。」


 そもそもお買い得とか意味が分からない。というか先程ソフィーは1人で十分だと言ったばかりだ。これで双子のユフィも婚約者にしたらソフィーが2人になるようなものだ。絶対に勘弁してもらいたい。それに万が一ユフィの誘いに頷こうものなら、アキに明日はこない。間違いなくミルナ達に殺されるだろうからな。

挿絵(By みてみん)

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