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「それでお兄様、馬鹿姉の事はさておき・・・そちらにいらっしゃる方々なのですが・・・」
ユフィがミルナ達の方を見ながら尋ねてくる。
しかしユフィのソフィーに対する扱いが滅茶苦茶雑だ。アキには滅茶苦茶丁寧で、大和撫子のような可愛い女の子なのに、ソフィーに対する態度が全然違う。
「アキさん!妹が酷いです!」
「姉さん、今は私がアキさんと話しているので邪魔です。」
涙目で訴えるソフィーをユフィが容赦なくぶった切る。
「うぅ・・・酷いですー・・・」
「あー、はいはい、よしよし。」
さすがにソフィーが少し可哀そうになってきたので、頭をそっと撫でてやる。
「お兄様、あまり姉を甘やかさないでください。コレはすぐ調子に乗ります。」
本当にソフィーに対しては辛辣だ。
「まあ・・・それよりユフィ、さっきの質問の答えだが、こっちにいるのは俺の他の婚約者だ。」
「なるほど皆様がお噂の・・・では私にとってはお姉様ですね。」
ユフィがそう言った瞬間、ミルナ達がパァっと目を輝かせる。
きっと「お姉様」と呼ばれたのが嬉しかったのだろう。まあミルナやエリザはしょっちゅう姉扱いされたがっているし、これは当然の反応だ。意外だったのは、エレンやリオナ達も喜んでいる事だ。もしかしたらリオナ達も年上扱いに憧れていたのかもしれない。
「お姉様方、私はソフィアルナの妹、ユフィルナと申します。妹としてこれから可愛がっていただけると嬉しいです。」
アキにしたのと同じように、ユフィは丁寧な挨拶とカーテシーをする。
「も、もちろんですわ!!!ユフィルナさん!!!」
そんなユフィが可愛かったのか、ミルナはユフィの手をギュッと握り、嬉しそうにしている。
相変らずうちの子達は単純だ。
まあ今回はユフィの方が一枚上手だから仕方ないと言えば仕方ない。ミルナ達に好印象を植え付ける事に完璧に成功している。ただこれが天然なら末恐ろしいが、ユフィの場合、全部計算だろう。まあそれはそれで恐ろしいが。ソフィーが猪突猛進で真っ直ぐな性格なら、ユフィは計算高く、腹黒と言ったところだ。
「おい、ユフィ。うちの子達は単純なんだから程々にしてやってくれ。」
「あら、何の事でしょう、お兄様?」
ユフィがとぼけた顔で言うが、この子は絶対にわかっている。
「ユフィのような子にお兄様と言われるのは嬉しいが、俺はミルナ達ほど単純じゃないぞ。どちらかというと俺はユフィと同類だからな。」
これだけ言えば何のことか伝わるだろう。
「あら、それは残念です・・・でもお兄様とは色々と有意義なお話が出来そうでよかったです。是非可愛がってくださいね?」
「それは同意だ。あとユフィはソフィーの妹だ。俺としても仲良くして欲しい。」
「はい。」
ユフィがすっと左手を出してきたので、アキも右手を出して握手をする。
「ちょっとアキさん!何良い感じに2人で同盟を結んでるんですの!それにさっきから聞いてれば・・・だいたい誰が単純なんですの!!!」
アキとユフィのやり取りを見ていたミルナが叫ぶ。
「鏡みてこい。」
お姉様と言われて舞い上がっていたのだから説明するまでもないだろう。
「酷いですわ!!!」
「ユフィの『お姉様』に喜んでいたのは誰だっけ?なあ、リオナ?」
「こ、こっちに話し振らないで!し、しらないもん!」
リオナが私は関係ないしとそっぽを向く。だがもふもふの尻尾をわっさわっさ揺らしていて動揺しているのが丸分かりだ。やはり「お姉様」と呼ばれて嬉しかったのだろう。ユフィはソフィと双子だから年齢は17歳で、リオナより年上ではあるが、立場としては義妹のようなものだからな。
「ふふ、みなさん本当に仲良しですね。」
くすくすと笑うユフィ。
「まあな。」
「お母様が言っていた通りです。それよりお兄様、そろそろミスティアの町をご案内したいのですがよろしいでしょうか?」
どうやらソングが言っていた通り、やはりユフィが案内してくれるらしい。もう少しここでゆっくりしたい気持ちはあるが、そろそろ村長宅からはお暇すべきだろう。ちょっと長居しすぎた。
「ああ、頼む。」
「ただ田舎なので何もありませんが・・・大丈夫ですか?」
「全然いいよ。それよりユフィこそいいのか?用事とかあるなら無理しなくてもいいぞ?」
快く引き受けてくれたのはいいが、何か用事があったのなら申し訳ない。
「ふふ、大丈夫です。ミスティアは田舎ですし、やる事がなくて毎日暇しているんです。姉が町を出て行った理由もそれですしね。」
そういえばそうだった。ソフィーがミスティアを飛び出した理由は外の世界が見たいからだ。ミスティアにいるのが暇で暇でしょうがないから、ミスティアを出て冒険者になったんだった。
「それならいいけど。あ、ユフィはちなみに・・・」
もうすこしユフィの事を知りたいと思い、アキが尋ねようとするが、待ってくださいとユフィに遮られる。
「お兄様、そのお話は町を案内しながらにしませんか?」
「それもそうだな。」
確かにユフィの言う通り、その話を始めたらまた時間が掛かる。村長宅からさっさとお暇しようと言ったばかりなのに、本末転倒だ。
「はい、それでは出発しましょう。」