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ソングがソフィーの妹のユフィルナを連れてきてくれるというので、アキ達は村長宅でしばらく待機する事にした。ヤック村長には申し訳ないと思ったが、「好きなだけいてください」と言われたのでお言葉に甘える事にした。
そして15分くらいミルナ達と他愛もない話をしていたら、ソングが1人のエルフの少女を連れて戻ってきた。
「おー・・・ソフィーだ・・・」
それが妹のユフィルナを見た感想。本当に瓜二つだ。さすが双子。
「アキさん!ソフィーはここですよー!アレは違いますよー!」
ソフィーが必死にアピールしてくる。勿論あれがソフィー本人でない事なんてわかっている。だが本当にそっくりなのだ。ユフィルナとソフィーが入れ替わっても、きっと気付かないだろう。そんなレベルでそっくりだ。
「いや、わかってるよ。」
「ほんとですかー!」
「ほんとほんと。」
「えへへ、ならいいですー!」
何時ものようにソフィーと適当にじゃれ合っていたら、ユフィルナがいつの間にかアキの前に立っていた。
「シノミヤ侯爵、はじめまして。ソフィアルナの妹のユフィルナと申します。いつも姉がお世話になっております。」
アキが何かを言う前に、ユフィルナが丁寧な挨拶とカーテシーをしてくれた。
「・・・あ、これはご丁寧にどうも、私はアキ・シノミヤと申します。」
「ふふ、聞いております。どうぞよろしくお願いします。」
ユフィルナが静かに微笑む。
「・・・」
ユフィルナのあまりに優美な立ち振る舞いに感心して言葉が出ない。というか驚いた。うちのソフィーと違い過ぎる。言葉遣いや動作、どれをとってもソフィーとは正反対。本当に2人は双子なのかと疑ってしまう程だ。
「シノミヤ侯爵?どうかなされました?」
ユフィルナが首を傾げながら聞いてくる。
なんというか・・・可愛い。
まあ外見はソフィーと瓜二つなのだから美少女なのは当然か。微笑む姿もそっくりだ。それでいてソフィーとは違い、言葉遣いが綺麗で、性格は物静か。いわゆる完璧な大和撫子タイプの女の子。これは見惚れてしまうのも仕方ないと思う。
「あ、いえ・・・あまりにユフィルナさんがお美しいので見惚れていました・・・」
「あらあら・・・ふふ、ありがとうございます。」
アキの言葉にユフィルナは動揺する事なく、くすくすと笑うだけだった。やはり可愛いや美しいなんて言われ慣れているのかもしれない。
「ちょっとアキさん!私!私の方が美しいですー!こっち!こっちですー!」
そしてユフィルナとは対照的にドタバタとアピールが騒がしいソフィー。というかうるさい。そもそも同じ顔なのだからソフィーが美少女ならユフィルナも美少女に決まっている。大体何故この駄エルフは妹と張り合おうとしているのか。
「姉が騒がしくてすいません。」
「いえ、これがソフィーの可愛いところだと思いますので。」
「あら、そう言って頂けるなら幸いです。」
「ちょっと!?2人して馬鹿にしてませんかー!!!」
うちの駄エルフがなんか五月蠅いが、とりあえず無視して話を進める。
「それで・・・ユフィルナさん、わざわざご足労頂きすいません。ソフィーの妹である貴女にご挨拶をさせて頂きたかったのでお義母さんに呼んできてもらったのです。申し訳ない。」
「いえ、姉の婚約者と聞いて私も是非お会いしたかったので大丈夫です。あと私の事はユフィで大丈夫ですよ。あと言葉遣いもいつも通りでお願いします。シノミヤ侯爵は貴族様なのですから私にそんな丁寧にしないでください。」
「そう?じゃあユフィさん。」
「はい。」
「俺も『シノミヤ侯爵』呼びはちょっと遠慮したいから名前でお願い。」
「わかりました。ではアキさん・・・」
ユフィがアキの名を口にした瞬間、ソフィーからもの凄い威圧感を感じた。ユフィもそれを感じ取ったのか、やれやれと肩を竦めて言い直す。
「・・・と呼ぶと姉に何をされるかわからないのでやめておきます。それではお兄様でいかがでしょう。姉の旦那様になられるのなら私にとってはお義兄様ですので。」
「うん、いいね。俺も可愛い妹が出来たみたいで嬉しいよ。よろしく頼む。」
「ええ、お兄様、よろしくお願いしますね。」
そう言って上品に微笑むユフィ。
本当に可愛いな、この子。以前ソフィーは魔性の女かもしれないと言ったが、ユフィの方が絶対魔性の女だ。この笑顔を向けられたら大抵の男はコロッといってしまう気がする。まあソフィーと同じ顔だが・・・あっちは性格が暴走エルフだからな。ユフィの方が間違いなく男受けするだろう。
「あーきーさーん!ソフィーを構ってくださいですー!ユフィはシッシッです!」
そして暴走エルフが五月蠅い。
「アキさんってばー!」
無視するが、ソフィーが「無視しないでください」と身体をぐわんぐわんと揺すってくる。
――パシーン!!!
「うるさいぞ、この駄エルフが。」
あまりに鬱陶しかったのでついソフィーを引っ叩いてしまう。
「あらあら・・・」
その様子をみていたユフィ―が口に手を当てて驚いている。
「あ、ごめん・・・お姉さんに酷い事を・・・」
ユフィの前だと言う事を一瞬忘れてしまった。いつもの癖でソフィーをおもいっきり引っ叩いてしまった。完全に流れ作業というかこれが習慣になってしまっている。
「いえ、全然大丈夫です。もっとやってください。」
「・・・え?」
「お兄様があまりに的確に姉の扱いを心得ていたので吃驚しただけです。姉のような駄目エルフは引っ叩かれて当然ですので。もっと遠慮なくしばきまわしてくださっていいんですよ?ふふふ・・・」
そう言いながらユフィが不敵な笑みを浮かべる。
「そ、そう?」
怖い。ユフィの笑顔があまりに黒くて怖い。ソフィーの笑顔が満開の花なら、ユフィの笑顔はどろどろのコールタールのような真っ黒な笑顔。
ユフィは大和撫子タイプだと思っていたが・・・これはかなりの腹黒美少女エルフなのかもしれない。