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「まあ一言で言うなら・・・母親の勘です。」
なるほど。それは納得のいく理由だ。それを言われたら正直言い返す言葉がない。
「それだけですか・・・?」
一応ちゃんとした理由がないのか聞いてみる。アキは別に第一印象が良いタイプの人間ではない。お人好しな人相はしていないし、どちらかといえば無愛想な方だ。それなのにソフィーの両親に気に入られた理由はなんなのだろう。
「そうですね・・・あえて説明するなら、うちのソフィアルナが懐いているからですね。娘の事くらい見ればわかります。うちの子がどれだけシノミヤ侯爵を好きかは一目瞭然です。」
「なるほど。」
それは納得だ。ソフィーはアキに対する好意を一切隠そうとしない。そしてそんなソフィーが信頼をおいている相手と言う事で、ソングもアキの事を信用してくれたのかもしれない。娘の事は母親のソングが誰よりもよくわかっているだろうからな。
「はい。そしてシノミヤ侯爵は貴族様ですが、平民である私達に対してとても丁寧で、威圧的な態度は取られませんでした。そして娘を婚約者にとおっしゃった時も、シノミヤ侯爵は頭を下げるつもりで言っておられました。」
どうやら貴族らしく振る舞わなかった事も好印象だったらしい。ただアキとしては貴族の振る舞いとやらがよくわかっていないだけ。それに娘さんを下さいと言いに来たのに、高圧的な態度なんてとてもではないがとれない。貴族としては「娘をもらうぞ」くらいに言うのが正しい在り方なのかもしれないが、それはアキには無理だ。
「大事な娘さんをくださいとお願いする立場なのですから当然かと・・・」
「そう言えるからこそ娘をお任せ出来ると思ったのです。こんな娘でよければ5人でも10人でも是非貰ってください。」
「・・・さすがに1人でいいです。」
そんなにソフィーはいらない。1人で手一杯だ。
「アキさん!1人でいいってどういうことですー!!」
ソフィーが軽く睨んでくるので適当に誤魔化す。
「ソフィーは唯一ってことだ。オンリーワンだ。」
「うんうん!なるほどー!それは当然ですねー!」
満足気に頷くソフィー。相変わらず単純で助かった。
「はぁ・・・こんなアホな娘ですがよろしくお願いします。」
溜息を吐き、アキに改めて頭を下げる母親のソング。
「いえ、お許しを頂けてよかったです。」
とりあえずあっさり一番重要な話が終わってよかった。これで安心してミスティアで過ごせる。というよりミスティアに到着してから大騒ぎで、観光もなにも出来ていない。いきなり村長の家に連れてこられたのだ。
「ソングさん、私達は観光も兼ねて数日ミスティアに滞在しようと思っています。この町に宿はありますか?」
「あ、はい。一応ありますが・・・王女殿下がお泊りになるような宿では・・・」
そう言ってソングはチラッとベルの方を見る。
「かまいません。ベルもいいだろ?」
「はい、もちろんです。」
ベルはあまり豪華な部屋とかに興味がない。どんなに狭い部屋でもいいからアキと一緒に居られる方が良いと言ってくれるのだ。
「それなら後ほどご案内しますが・・・期待はしないでください。」
「構いません。屋根がついていればそれで大丈夫です。」
それに何も豪華な宿に泊まるだけが旅の醍醐味ではない。行き当たりばったりの旅と言うのも乙なものだ。
「シノミヤ侯爵、よろしければうちにお泊りになりますか?」
ソングが提案してくる。
「それも確かに魅力的な提案ですが・・・」
ソフィーの実家に泊めてもらうのも悪くはない。だがアキ達は大所帯だ。ここにいるベルやソフィーだけでなく、馬車にミルナ達もいる。そんな人数でお邪魔するのは流石に迷惑になるだろう。
「いえ、実は馬車に他の子達を待たせておりまして・・・」
「あ、使用人の方々でしょうか?」
王女であるベルを連れているのだから、使用人も当然同行させていると思ったのだろう。まあアリアとセシルに関しては使用人と言えなくもない。そう言う意味では「そうです」と誤魔化せるが、ここで変に隠す意味もない。
「いえ、他にも婚約者がおりまして・・・」
「そうなんですね。」
特に驚いた様子もないソング。やはり貴族は一夫多妻が普通の世界だから驚く事もないのだろう。
「ああ、ソフィーの友人もいますよ。」
「あら、それはご挨拶しないとですね。」
ミルナ、エレン、リオナはソフィーとの付き合いが一番長い。ソフィーも両親には紹介したいはず。
「はい、呼んできますよ。ただその間に・・・」
ソフィーはもう忘れているみたいだが、1つ大事な事がまだだ。
「ソフィーさんを叱るなら叱っておいてくださいね。」
そう、勝手に家を飛び出して両親に心配をかけたのだから、ミルナ同様しっかり怒られるべきだろう。ソングやアルもソフィーに言いたい事は色々とあるはず。
「ちょっとアキさん!?何言ってくれてるんですー!!!」
ソフィーが慌てて叫ぶがもう遅い。
「ええ、それはもうしっかりお説教するつもりでした。」
ソングが不敵な笑みを浮かべながらソフィーを見る。
「ま、まってください、かーさま!」
母親から威圧感を感じたのか、ソフィーが冷や汗をかきながら後退る。
「では他の子達を連れてきますので・・・ごゆっくり。」
アキはベルを連れて足早に村長宅を出る。
『ちょ・・・!ア、アキさーん!まってくださいですー!!!』
なんかソフィーの断末魔が聞こえた気がするが・・・まあ気のせいだろう。