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「あの・・・コレで本当にいいのですか・・・?」
「・・・はい?」
予想外の言葉が飛んできた。「コレ」でいいのかとはどういう意味だろう。
「えっと・・・つまりソフィーさんとの婚約を認めて頂けると言う事ですか?」
まあアルが何を言いたいのかは何となく予想はつくが、一応聞いてみる。
「むしろうちの娘を本当に貰って頂けるのですか・・・!!!」
アルがぐいっと体を乗り出して叫ぶ。
「え、ええ・・・出来ればそうしたいのですが・・・」
「それならば是非!むしろこちらから頭を下げさせてください!うちの娘、顔はいいのですが性格がアレでして!こんな娘を貰ってくれる人がいるのか心配で心配で夜も寝られませんでした!これで私も安心できます!」
アルがもの凄い勢いで頭を下げてくる。そして隣にいる母親のソングも感極まって涙目になっている。
うーん、なんだろう。このやり取り、少し前にもした気がする。というか先日ミルナの父親であるセレストリアにも同じことを言われた。もしかしてこの世界では「顔は良いけど性格が・・・」と娘を差し出すのが一般的なのだろうか・・・まさかな。
「アレってなんですかー!私は性格も顔も最高のエルフですー!」
そういう事を自分で言うから駄目なんだぞ、ソフィー。
「「はぁ・・・」」
そしてそんなソフィーを見て深い溜息を吐くアルとソング。
「お二人は苦労されていたんですか?」
ソフィーの昔話は本人からしか聞いた事がないのでちょっと気になる。親の目から見てソフィーは一体どんな娘だったのだろうか。
「ええ・・・昔はお淑やかで静かな子だったんですが・・・ある時から急に手が負えない天真爛漫な娘になってしまいまして・・・」
アルが遠い目をしながら語る。
「そんな娘をなんとかしようと、夫になってくれそうな人を探したんですが・・・・片っ端からお断りされまして・・・」
天真爛漫なソフィーになった経緯は本人から聞いたのと一緒だが、結婚については初耳だ。まあアルやソングは結婚させればソフィーが落ち着くと思ったのだろう。確かミルナの両親も同じことを言っていたしな。どこの親も考える事は一緒なのかもしれない。
「そうなんですー!?」
ソフィーも目を丸くして驚いている。どうやら結婚相手探しされていた事はソフィー本人も知らなかったらしい。
「『顔はいいけどあの性格は手に負えない』と口を揃えて言われました・・・」
「酷いですー!誰ですか!そんな事言う人はー!」
ぷりぷりと怒るソフィーがちょっと可愛い。
「そんな性格だからだ!ソフィアルナはもう少し女性らしくしなさい!」
「うるさいです!私はお淑やかですー!」
アルとソフィーが睨み合う。
「どこがお淑やかだ!妹のユフィルナを見習え!」
ソフィーの双子の妹はユフィルナと言うらしい。きっと愛称はユフィだろう。そんな事を考えながら親子喧嘩を見守る。
「私のほうがお淑やかですー!だからアキさんも私を好きになったんです!」
なんかソフィーが叫んでいるが、それは断じて違うと言いたい。まあ出会った頃は猫を被っていたからお淑やかと言えなくもなかったが・・・化けの皮が剥がれてからはただの暴走駄エルフ。それにソフィーのどこが好きになったかと言われれば、そういう猪突猛進なところであって、猫を被っていたソフィーではない。鬱陶しくもあるが、そこがソフィーの可愛さだと思う。
「そうですよね!アキさん!」
「そーだねー」
ただ否定するのは面倒なので適当に肯定しておく。
「何で棒読みですー!?」
納得いきませんと地団駄を踏むソフィー。
そんな彼女の様子を見て、母親のソングはどこか穏やかな表情を浮かべている。
「ふふ、仲良くして頂いているようで安心しました。ソフィアルナの事は色々と心配していたんです。外の世界が見たいとかいって急に町を飛び出していって音沙汰も無かったので・・・」
ソフィーは実家を飛び出してから、両親へ何の連絡もしていなかったようだ。それは心配されて当然だろう。ミルナの時のように後でしっかり叱ってもらおう。
「そうなんですね。」
「はい、お転婆な娘でお恥ずかしい限りです。そして急に帰って来たかと思えば婚約者を連れて帰ってきて・・・正直驚きました。ですがシノミヤ侯爵であればうちの娘をお任せできそうです。どうかうちのソフィアルナをよろしくお願いしますね。」
そう言ってソングが嬉しそうに笑う。
とりあえずソフィーとの仲は認めてもらえたようだ。ただ・・・
「ありがとうございます、そう言って貰えるのは光栄ですがそんな簡単に婚約を許して頂いていいんでしょうか。私が言うのもなんですが・・・」
ミルナの時よりスムーズに事が進み過ぎていて逆にちょっと不安だ。少しくらいは文句を言って貰った方がまだ安心出来る。
「そうですね・・・先程も言いましたが最初は驚きました。ですがこうしてお話させて頂き、シノミヤ侯爵であればソフィアルナを幸せにして頂けると思ったのです。」
ソングはそう言うが、話しと言えるほどの話をした覚えはない。自己紹介をして、少し雑談したくらいだ。それなのに何故アキを認めてくれたのだろうか。
「シノミヤ侯爵からしてみれば不思議に思うかもしれません。まだお会いしたばかりなのにどうしてそんな事が言えるのかと。」
その通りだ。
「まあ一言で言うなら・・・母親の勘です。」
なるほど。それは納得のいく理由だ。それを言われたら正直言い返す言葉がない。