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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十二章 故郷巡り②
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8

 最後はエリスとエリザだ。


「エリスは・・・何を買ったんだ?」


 まずはエリスの方が気になったので聞いてみた。まあエリスはでかい鉄の塊のような物を持っており、正直「何を買った」のかは一目瞭然だ。ただその鉄の塊が一体何なのか逆に気になった。というよりなんでそんなものを買って来たんだろうか。


「私か!私はこれなのだ!見て欲しいのだ!」


 そういってエリスは嬉しそうに鉄の塊のようなものを見せつけてくる。


「・・・なにそれ?」


 嫌な予感しかしない。


「これか!これは筋力を鍛える為に最適な素材で作られたものらしいのだ!これを使って訓練すれば効果は3倍!いや5倍になるらしいのだ!」

「・・・どこに売ってたんだ?」

「路地裏の露天商?のようなところだったぞ!」

「そうか。ちなみにいくらだったんだ?」

「これか?大特価で1金だったのだ!お買い得らしいのだ!」


 うん、どうやらエリスに単独行動させたのは不味かったようだ。以前騙されて全財産を失っていたし、いつかまた騙されそうな気はしていた。だがまさか本当に騙されるとは思わなかった。一応エリスの動向には注意していたつもりだったのだが・・・甘かったようだ。


「エリス・・・それ騙されてるぞ。」

「・・・え?」

「いや、それただの鉄の塊だろ。訓練するだけで効果が何倍にもなるわけない。」


 まあ鉄の中に未知の技術が詰ってるとかであれば話は別だが、そんな事はいだろう。見たところ、完全にただの鉄の塊。そして鉄なんて100銀程度でいくらでも調達できる。つまりエリスは10倍の値段で鉄くずを買ってきたと言う事になる。


「なん・・・だと!私は・・・騙されたのか・・・!」


 信じられないと言った表情を浮かべるエリス。


「エリス、今後は1人で買い物禁止。」


 次からエリスが買い物へ行く時は誰かを付き添いをつけるようにしよう。1人で行動させたらまた全財産だまし取られそうだ。まあエリスのお小遣いが減るだけだから別に問題はないのだが・・・そう言う無駄遣いは頂けない。


「うぅ・・・わかったのだ・・・」

「エリス、阿保の子。反省しろ。」


 さすがに一応きつめの注意はしておく。


「うわああああん!ごめんなさいなのだああああ!」


 エリスが本気で泣き始めた。


「まあ・・・1金程度で済んだからよかったと思おう。もう気にするな。ほら、泣くなって。」


 さすがに泣くとは思わなかったので、慌てて慰める。


「うぅ・・・アキからもらったお金なのに・・・ごめんなのだ・・・」


 どうやら自分で稼いだ金ではなく、アキが結納金代わりに渡したお金を無駄にしたから落ち込んでいるらしい。まあ反省しているのであればそれでいい。


「うんうん、次から気を付ければいいから。」

「わかった。次買い物する時はアキに確認するのだ。」


 これだけ反省しているならもう怒る必要もないだろう。


「じゃあ最後に・・・エリザ。」


 ちょっと湿っぽくなった空気を変えてくれるのを期待してエリザを呼ぶ。


「ええ、いよいよ私の出番ね!」


 エリザを呼ぶと、何故か誇らしげな表情のエリザ。


 湿っぽい空気は一気に亡くなったが、エリザのテンションが高すぎて逆に聞きたくなくなってきた。


「やっぱいいや・・・」

「なんでよ!聞きなさいよ!おねーさんが買った物を!!」

「はいはい・・・ちなみにエリザは単独行動していたのか?」


 ミルナとソフィー、エレンとリオナとそれぞれペア行動したからてっきりエリスとエリザも一緒だと思っていたのだが、違うらしい。まあエリザとエリスが一緒にいたら、エリスはあんな鉄の塊は買って来なかっただろうが。


「ええ、最初はエリスちゃんと一緒にいたんだけどね、気付いたらバラバラになっていたのよ。」

「なるほど。」


 エリスとエリザは趣味も趣向も違う。それぞれが自分の興味あるものを見ていたらバラバラになるのも当か。


「・・・」

「・・・」


 アキとエリザの間にしばしの沈黙が流れる。


「ち、ちょっとアキ君!早く私に何を買ったのか聞きなさい!」


 その無言の空間が耐えられなかったのか、エリザが催促してくる。


「えー?」


 ミスティアまでの馬車旅は2日かかるし、暇つぶしにもう少しこの猫を苛めたいとところだ。ちなみにエリザやミルナ達が馬車に戻った時点で、アキ達は既にミスティアへ向けて馬車を進めている。御者にはミスティアへ向かうようセシルが指示してくれたので、あとは到着まで2日間、ミルナ達と馬車に揺られて旅を楽しむだけだ。


「『えー』ってなによ!!!聞いてよ!何で聞いてくれないよ!」


 エリザが尻尾を逆立てながら叫ぶ。もうすこし焦らしたいところだが、これ以上やると本気で引っ掻かれそうだし止めておこう。


「じゃあエリザは何を買ったんだ?」


 しかしそこまで聞け聞け言うのだからさぞかし凄い物を買ったのだろう。


「ふふ、これよ!刮目しなさい!」


 そう言ってエリザはポケットから光り輝く何かを取り出す。


「なんだそれ。」

「光輝く玉よ!」

「・・・」


 うん、どういう感想を言えばいいのかわからない。アクセサリーでも出てくるのかと思えば、ただの光り輝く水晶玉。猫は光り輝くものが好きだと言うが、やはりそう言う事なのだろうか。


「どうかしら!アキ君!」

「・・・やはり猫か。」

「にゃ!?にゃんでよ!にゃんでそんな感想なのよ!!!」


 むしろそれ以外の感想が出てこないのだからしょうがない。というか光り輝く水晶玉を大事そうに抱えるうちの猫を見て「やっぱり猫だな」と思うのは当然だろう。


「他に何かないのかしら!!アキ君!!」

「えーっと・・・光ってて綺麗だな?」


 何か言わないと納得してくれなさそうなので、適当な感想を絞り出す。


「でしょう!アキ君にもこの素晴らしさがわかったようでよかったわ!」


 嬉しそうに尻尾をゆらゆら揺らすエリザ。


 今のでいいらしい。


「エリザ、次は一緒に買い物いこうな・・・?」

「え、ええ?別にいいわよ?」


 不思議そうに首を傾げるエリザ。


 正直アキからしてみれば、エリザの水晶玉はエリスが騙されて買った鉄の塊と大差ない。この猫、野放しにすると光物を永遠と集めてきそうだし、ちゃんと引率をつけた方がよさそうだ。というかエレンとリオナ以外まともな物を買ってきていない。もう次からはエレンとリオナに監視させようかな。

挿絵(By みてみん)

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