1
「ケーキ美味しかったな!アキありがとう!」
エリスは上機嫌だ。
今はケーキを食べ終わってアキの屋敷に戦闘訓練をする為にエリスを連れて帰るところだ。彼女は店で食事することが今までほとんどなかったと言っていた。今日は普通に店に入り、普通に食べて出てきただけだが、それがエリスにとっては何より嬉しい事だったらしい。
「これからは普通の女の子の格好をしてお店にいけるね。」
「ああ!こんなに嬉しい事はないのだ!」
エリスはエスタートのメイドが選んだ服をそのまま着ている。
「しかしチラチラと視線を感じるのは何故だ?いや、視線を感じるのはいつものことなのだが……なんかいつもと違うというか。」
「それはエリスが美人だからだね。美人がいたら見るって事だよ。」
以前感じていた視線は匂いに対する視線なので当然種類が違う。エリスは誰もが振り返ってしまうような美人なのだから、女の子らしい服で街を歩いていれば当然目立つ。
「そ、そうなのか……?」
顔を赤くしてアキの後ろに隠れるエリス。改めて言われると恥ずかしいのだろう。Sランクの実力者で戦闘中は凛々しいエリス。そして重度の戦闘狂だ。でも戦闘から離れると急に年相応の女の子らしくなる。
「これからは戦闘だけじゃなく、女の子も楽しむといいさ。」
「そ、そうだな。」
適当な雑談をしていたらいつの間にか屋敷についていた。ミルナ達はもう帰っているのだろうか。とりあえず玄関を抜けてリビングへと向かう。
「エリス、ちょっと待ってね。」
アキはリビングの扉を少しあけて中を覗く。
「アキさん、おかえりですー!」
ソフィーが声をかけてくれる。他の子達も全員帰っており、アキを出迎えてくれる。ただみんなの様子が少しおかしい。気合をいれて買い物に行ったのに、まったく買った物が見当たらない。結局なにも買わなかったのだろうか。とりあえずエリスを待たせているのでその件は後回しだ。まずは彼女を紹介しよう。
「ただいま。お土産もってきたんだけど?」
「やった!お土産!なになに?」
レオが嬉しそうに早く早くと催促する。
「えっと……おいで。」
エリスに声をかけ、彼女をリビングに入るよう促す。皆の視線は当然エリスに集まる。誰かが何か言おうとしたが、その前にアキが紹介を続ける。
「彼女はエリス、17歳。Sランク冒険者。爺ちゃんに紹介してもらった。皆の手合わせ相手になってもらおうと思って。ミルナ達の目的もちゃんと話してある。」
「S……!ほんとなの……!」
エレンが目を見開いている。当然他のみんなも同じ表情だ。
「それは確かに私達にとっては素敵なお土産ですわね。」
ミルナがいつもの微笑みを浮かべる。
アキがエリスを連れてきた意図をちゃんと理解してくれたようでほっとする。とりあえずエリスに座るようにと勧め、アキもその隣に腰を下ろす。話がややこしくならなくてよかったと一安心だ。
その後ミルナ達にも自己紹介させた。アキはその間に一息入れる。
「アキさんー。えへへ、ちょっといいですかー?」
一通り自己紹介が終わったのか、ソフィーが可愛い笑顔で声をかけてくる。
「ん?なに?」
「お話です。お話しましょうね?」
可愛い微笑みがいつの間にかソフィーらしからぬ迫力のある笑顔に変わっている。
「え、なんで?」
なんとなくわかるけど、念の為に聞く。
「あれ、言わないとだめですかー?」
「うふふ、アキさん、わかっているでしょう?Sランクのエリスさんを私達の為に連れて来て頂いた。その気持ちはとても嬉しいですわ。」
ミルナがソフィーに続く。
「でも、アキ?『2人きり』でケーキ食べて、街をくっついて歩く意味ないよね?」
「アキ、覚悟しなさい!」
レオとエレンも話に加わってくる。部屋を覗いた時からこうなる予感はしていた。エリスは街中でやたら目立っていたからな。それに彼女達には買い物に行けと言っていた訳だから見られていたとしてもおかしくはない。きっとエリスとアキを見かけたから買い物もせずに帰って来て、リビングで待ち構えていたということなのだろう。
「アキさん、折檻してもよろしいでしょうか。」
アリアも不機嫌らしく仏頂面が崩れている。怖い方に。
「普通にケーキ食べただけだよ?」
無駄とはわかりつつも、適当に誤魔化してみる。
「アキさん、しばらく耳禁止です。」
「そんな!それは俺が死ぬ!」
「え……だめ!じゃあ禁止やめます……。」
セシルはいつも通りで安心した。
「私達が威圧するよりセシルの耳に反応するところがもの凄く納得いきませんわ。」
ミルナがアキとセシルのやり取りを見て呆れた表情をする。
「まったく……威圧するなよ。ソフィー、怒るよ。」
アキが真剣な表情でソフィーに視線を送る。
「だ、だってー!」
「ソフィーさん、騙されては駄目です。アキさんの手に乗せられています。」
余計な事をアリアが言う。うまく誤魔化せる方向に向かっていたのに、敵に回ったアリアは厄介だ。
「エリス……さんでしたか?あなたはアキさんとどういったご関係で。」
アリアがアキから情報を得るのは難しいと判断したのか、エリスに話を振る。エリスは終始アキの隣で楽しそうにアキの顔を見ていた事にアリアが気付かないわけがない。声を掛けられたのに気づいたエリスが皆の方を向く。
「私はアキの物なのだ!さきほど無理やりされてしまった!」
「む、無理やりですって!」
エレンがアキを睨む。
「ああ、激しくした後に無理やりアキの物にさせられたのだ!」
エリスのやつ、色々端折りやがって。むしろわざとやっているのではないかと思うぐらい誤解しか招かない表現で説明しやがった。これはもう何を言ってもダメだなと諦めてセシルの耳を愛でる。
「ひゃ……だからなんで……いま触るの……!」
「セシル、俺はこれから大変な時間が待っている。少しだけ現実逃避させてくれ。」
アキは「長いお話になるな」とセシルで今のうちに癒しを補充する。
「よくお分かりですわね、アキさん?」
「アキさん、ゆっくりじっくりお話しましょうねー。」
「さすがの僕も今日は徹底的にお話するからね?」
「アキ、覚悟しなさい!」
ミルナ、ソフィー、レオ、エレンが逃げ道を塞ぐようにアキを取り囲む。アリアは何も言わない。黙ったままだ。だがアキの肩を押さえつけてソファーから動けない様にしてくる。彼女を見ると「皆が終わったら次は私の番ですから」と嬉しくない微笑みを向けてくれた。




