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結局その後リスルドに到着するまで、拗ねたソフィーを慰め続ける羽目になってしまった。しかしまさかあれから2日間、ずっと拗ねたままだとは思わなかった。まあそれもソフィーの計画な気がしなくもないが・・・
とにかくアキ達は無事サルマリアの王都、リスルドに到着した。
ちなみにサルマリアへの道中は、魔獣に襲われた事以外、特に問題はなかった。つまりはいつも通りと言う事だ。この魔獣に襲われるのも今しか味わえないと思えば少し名残惜しくもある。ただいくら魔獣の召喚を止め、魔獣政策を廃止したと言っても、魔獣がいなくなるには数十年はかかるだろう。数百年、ユーフレインから魔獣を召喚してきたのだから魔獣も相当数いる。各国は魔獣の数をある程度把握しているらしいが、魔獣とて生物だ。ベルフィオーレで繁殖して数を増やしていてもおかしくはない。そうなると総数なんてもうわからないし、魔獣を絶滅させるには相当かかる。いずれは冒険者が依頼で魔獣を駆逐する事はなくなるだろうが・・・それは当分先の話だ。
とりあえずその辺の魔獣政策の話は今するべきではないのでおいておこう。ユーフレインの事が落ち着いたら考えればいい。それまでは各国がそれぞれ対応するだろうし、アキの出番は今のところないはず。
それよりサルマリアに到着したと言う事は・・・
「ステラに会いにいくか。」
「そうですねー・・・」
ベルが死んだ魚のような目で呟く。
そう、この国の第一王女、ステラに会わなければならない。まあアキからしてみればちょっと面倒な王女くらいにしか思わないが、ベルからしてみれば相当鬱陶しいに違いない。会う度に「ベルさん!ベルさん!」と抱きついて来るからな。それにステラは単純にベルを慕っているだけ。そんなステラを邪見にするわけにもいかず、ベルとしては対応に困っているのだ。
「・・・ベルだけで行ってくる?」
ステラの目当てはベルだ。正直アキがいてもいなくても問題ない。
「なんでですか!そんな残酷な提案よく出来ますね!絶対嫌です!ちゃんとアキさんも一緒にきてください!!!」
「えー」
「『えー』ってなんですか!私が帰って来られなくなってもいいんですか!ステラさんに拉致監禁されてしまうかもしれませんよ!」
ベルが必死に来るようにと説得してくる。そんな大袈裟な・・・と言いたいところではあるが、全て否定しきれないのがステラの怖いところだ。ベルの事が大好きなステラならやりかねない。まあさすがに拉致監禁はないだろうが、ベルを1人で行かせたら、帰りがいつになるかわからないのは事実。ベルが遅くなれば今日中にソフィーの故郷へ出発できないだろうし、下手したらリスルドで一泊する事になってしまう。そして明日もステラに邪魔され・・・と永久機関のような足止めを食らいそうなので、やはりアキも行った方がいいだろう。
「そうだな、さっさとステラに会ってさっさとリスルドを出発しようか。」
「ええ、そうです。そうしましょう。挨拶だけして一瞬で帰りましょう。」
まあミスティアの場所を聞かなければいけないので顔を出すだけと言う訳にはいかないが、ベルの希望通りなるべく早く帰れるようにはしたい。正直できればソフィーの案内を信じてこのままリスルドは素通りしたいところではある。だがそれをすると間違いなくステラに文句を言われる。それにエスぺラルドの王女であるベルが他国へ訪問しているのに、国王に挨拶しないのはさすがに外交的に不味いだろう。
「ミルナ達は留守番してる?一緒にくる?」
正直ミルナ達についてはどちらでも構わない。サルマリアの国王であるイルや王妃のミリアもミルナ達の事は知っているし、全員で押しかけても問題ないだろう。むしろステラの友人が来たと大歓迎してくれそうだ。
「留守番していますわ。アキさんとベル王女様で行ってきてくださいませ。」
だがミルナはいきませんと即答してきた。そしてミルナの言葉にソフィーやエレン達も同意する。いつもなら「一緒にいきますわ!」と全力でついて来ようとするくせに、面倒な相手だと分かっている時は絶対に来ないミルナ達。要領がいい。
「ず、ずるいですよ!アキさん!私も留守番で!」
ベルが私もと主張してくるが、それはない。
「ベルが行かなくてどうすんだよ。むしろベルが主役だろうが。」
「そんな主役はいらないです!!」
「はいはい、ベル、行くぞ。」
これ以上うだうだ雑談していてもしかたない。さっさと王城へ向かうとしよう。
「ミルナ達は適当に・・・」
「はい、この辺でお買い物していますのでアキさん達でいってきてくださいませ。」
そう言い残し、ミルナ達は馬車を止めて降りていった。丁度リスルドの大通りを走っていたようだ。確かにここならいくらでも時間を潰せるだろう。目立って面倒事に巻き込まれないちょっと心配だが・・・まあSランク冒険者だし、大丈夫のはず。
それに・・・
「ルティア、頼む。」
「ん。」
ルティアにお願いしておけば問題ない。上手く面倒事を処理してくれるはずだ。
「アキさん、私はお供します。」
「私もです。」
アリアとセシルはアキと来てくれるようだ。
「助かる。」
側仕えを連れて行く必要は特にないとは思うが、一応アキもエスぺラルドの貴族。体面上、アリア達は連れて行くべきだろう。
「アキさん!私も降ります!!」
「ベルはダメ。」
本当に降りてしまいそうなので御者に早く馬車を出発させるよう指示する。
「いーやーですー!おーろーしーてー!」
「デートだぞ?」
「ステラさんがいるデートなんていやー!」
そんな子供のように駄々をこねるベルを引き連れ、アキはリスルド王城へと向かった。