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「この事は父さんも重々承知さ。ね、父さん。」
「ああ、アレクシスに経験を積まさなければいけないのはわかってはいるんだがな・・・」
なんでもセラストリアは性格上、自分が領主である限りは全て自分でやらないと気が済まないらしい。頭ではわかっていても、アレクシスに任せる事が出来ないのだとか。
「なるほど・・・」
「あともう1つ。どちらかというとこっちの理由のが大きいんだけど・・・レインバースは問題が少ないんだ。色々完成されていると言えばいいのかな。もちろん至らないところは多々あるけど、領地としてある程度完成されているから出来る事が少ないんだよね。」
確かにそれはあるかもしれない。レインバースがセラストリアの代でかなり発展したのは資料館で知った。もちろんまだまだ改善点はいくらでもあるだろうが、街の方向性としては既に固まってしまっている。
「つまり未知への挑戦と言う意味では・・・レインバースで僕が出来る事は少ないんだ。」
「それで俺の領地で色々してみたいと言う事ですか?」
「そう言う事だね。」
納得のいく理由だ。アキもアレクシスの立場なら同じ頼みをしていたかもしれない。だがさすがにこの提案に「はい、わかりました」と即答する事は出来ない。何故ならあの領地はベル、もといエルミラから下賜されたものだ。おいそれと他人に任せるわけ行かない。
それにまだ何もしてないとはいえ、アキも今はもう領主という立場だ。自分の領地をどうしようか色々と勉強しているのに、それをアレクシスに丸投げはしたくない。自分の領地は自分で。そう思うのは当然だろう。
「是非・・・と言いたいところですが、ベルの許可なしでは返事できません。」
「うん、それは当然だね。ところで王女殿下はどこに・・・?」
「馬車で待たせてますよ。今日は挨拶だけのつもりでしたので。」
「そ、そうなのかい?」
アレクシスの顔が引き攣る。
どうやらアキの言った事が衝撃的だったらしい。まあよくよく考えれば当然の事だ。アキはいつもの調子でベルに「待ってろ」と言い、ベルは素直に「はい」と頷いてくれた。だがこれは普通の事ではない。王女に命令出来る人間なんて国王か王妃くらいだろうからな。
「ベルを呼んできましょうか?」
アレクシスの提案を断るにせよ、受けるにせよ、どのみちアキが1人で決められる事ではない。まあベルなら「アキさんが決めればいいんです」と言いそうだが、一応ベルの判断を仰ぐべきだろう。
「その必要はないですよ。アキさん、私はここにいます。」
声がする方に顔を向けると、そこにはベルとアリアの姿があった。
「あれ、ベル?」
「私が必要なお話になりそうだからとアリアさんがおっしゃったので・・・来ちゃいました。」
そう言って可愛らしくペロっと舌を出すベル。
しかしさすがアリアだ。というか何故そこまで先読みできるのかわからない。アキも読みに関しては得意だし、アリアに負けずとも劣らないと思っていたが、最近は全く勝てる気がしない。
「これがメイドの嗜みです。」
ふふんと得意気に鼻を鳴らすアリア。
最近このメイド、調子に乗ってる気がする。いつか痛い目に遭わないか心配だ。というかいつか遭わせてやる。
「とりあえず・・・ベル、話しは聞いてた?」
「はい。」
アリアの事はさておき、まずはアレクシスの件が先だ。
正直ベルが「領地?任せちゃいましょう!」と言ってくれるなら全てが解決する。アキ自身、絶対に自分で領地をなんとかしたいわけではないのだ。ただベルがくれたものだから、責任を持って管理して行こうと思っていただけ。そのベルが任せていいというなら、領地を管理しなければという重圧もなくなり、アキとしても肩の荷が下りる。
「それで・・・どうする?」
「んーそうですねー・・・」
ベルが首を傾げながら呟く。