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「相談ですか?」
予想外の展開だ。まさかアレクシスから相談事を持ちかけられるとは思わなかった。それにアキとしては軽く挨拶してレインバースを出立するつもりだったので、ソフィー達の事を馬車で待たせている。あまり長居はしたくない。
「うん、ダメかな?すぐ終わるからさ。」
アキの考えを見透かしたようにアレクシスが付け加える。
「わかりました。」
そう言われると断る理由がない。
「アリア、頼むね。」
だが一応ソフィー達には断りをいれておくべきだろう。
「はい。」
アリアは静かに頷くと、部屋から出て行った。
これで大丈夫だ。
「ではアレク兄さん、相談事とはなんでしょう。」
「うん、先日アキ君は父さんに色々と助言をしてくれただろう?」
確かに数日前、アキはセラストリアとレインバース領の経済状況について話をした。だがあれを助言というのは少し大げさな気がする。爺さんを含め3人で少し意見交換をしただけだ。しかもアキは爺さんに言われてアイデアをいくつか出しただけで、話しの中心は爺さんとセラストリアだった。あまり役に立てたとは思えない。
「そうですね、俺は少し意見しただけですが・・・」
「そんなことはないよ?父さんはアキ君の事をとても褒めていたしね。」
「そうなんですか?」
「うん、アキ君はレインバースの内政に対して意見を出しただけだ。父さんに何かを強制したりはしてないよね?父さんは領主だから全ての決定権は父さんにある。だからアキ君のように一歩引いて意見を言うだけが正しんだ。過度に干渉し過ぎるのは嫌がられるものなのさ。」
どうやらアキは無意識にセラストリアの好感度を稼いでいたらしい。もちろんそこまで計算していたわけではない。他人の領地に干渉するのはあまりよろしくないのではという意識はあったが、それよりも領地内政初心者の自分に碌な意見が言えるわけがないという気持ちの方が強かったからだ。というか爺さんとセラストリアが決めるだろうと傍観者を決め込んでいただけなのに・・・なんかそれが逆によかったらしい。
「そうなんですか。」
「うんうん、そんな優秀なアキ君にお願いがあるんだよね。」
そんなヨイショをされても困る。大体アレクシスとアキは出会ったばかりだ。お互いの事なんてほとんど何も知らない。そんなアキに一体何が出来るのだろうか。
「なんでしょうか。」
「アキ君は王女殿下とも婚約してるんだよね?」
「はい、ベルの事ですね?」
「うんうん、そして最近侯爵になり、とある領地を下賜された。」
その通りだ。何も間違っていない。
多分この辺の事はセラストリアから聞いたのだろう。
「はい。」
「そこで相談なんだけどね・・・その領地、僕に任せてみない?」
「・・・え?」
さすがに唖然とした。まさかそんな相談というか提案をされるとは思っても見なかった。
「お兄様!?」
さすがのミルナもアレクシスの言葉に驚きを隠せないようだ。
しかし何故アレクシスはアキの領地に興味があるのだろうか。もしかしてアキの領地を乗っ取ろうとしている・・・とも一瞬考えたが、それはないだろう。アレクシスはミルナの兄だ。ミルナの婚約者であるアキを騙す事はないはずだし、そもそもあの領地はベルの計らいでアキに下賜されたものだ。それを奪い取ろうとしたらベルやエルミラの不興を買うのは間違いない。下手したらベルが怒り狂ってレインバース領ごと消滅させるかもしれない。そんなリスクを追ってまでアキの領地を奪い取るメリットなどないだろう。
「どういうことです?」
「うん、僕はミルナの兄・・・つまりこの領地の跡継ぎだ。いずれは父さんから領主の座を受け継ぐ。その為に社会勉強をしたいんだ。」
アレクシスが言いたい事はなんとなくわかった。だがそれをわざわざアキの領地でする意味がわからない。
「レインバースですればいいのでは?」
「まあそうなんだけど・・・それには色々と問題があってね。」
アレクシスが苦虫を噛み潰したような顔で語り始める。
「父さんの横で領主としての勉強をするのは難しいんだ。父さんはなんでもかんでも1人でやっちゃう人だからね・・・」
どうやらセラストリアは息子の意見を聞いたり、仕事を任せたりする事はほとんどないらしい。大事な決定や判断はすべてセラストリアがしてしまうので、アレクシスがする仕事と言えば伝令や雑用係くらいらしい。アレクシスは小さい頃からセラストリアの横で領主の仕事を見てきている。そして見るだけなのはもう十分なんだとか。
「僕がこのまま領主になってしまうと何もできない気がしてね・・・だからアキ君に相談したというわけさ。」
「なるほど・・・でもセラストリア辺境伯にそれを直接伝えてはどうなんです?」
丁度セラストリアもここにいる事だ。 というか領主である父親の前でする話ではない気がするんだが・・・