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「ミルナミア!お前は何故いつもそうなんだ!!!」
「ち、ちがうんですの!お兄様!誤解、誤解なんですわ!!!」
「何が誤解だ!こっちへこい!!」
「アキさん!アキさん!助けてくださいませ!!!」
何が起こっているか説明する必要があるだろうか。多分ない。
まあ一応言っておくと、アキ達は出立の挨拶をする為、領主館へ行き、ミルナの両親へ挨拶を済ませた。そして無事ミルナの兄とも会う事が出来た。ミルナの兄はとても温和で、人当たりの良い人物だった。そしてミルナにアキという婚約者が出来た事が嬉しかったようで、滅茶苦茶喜んでくれた。アキの事を大歓迎してくれ、「仲良くしてくれ、弟よ!」とまで言ってくれたのだ。
その後は当然ミルナが家出していた話になり、「うちの妹が迷惑かけてないか?」と聞かれたので、正直に答えた。「とてもいい妹さんで、いつも俺を助けてくれています。」と。そこまではよかったのだ。ミルナも安心した表情でアキと兄の会話を見守っていた。ただ「うちの妹はぐーたらしてないないか?」と聞かれたあたりでミルナの表情が曇ったのは言うまでもないだろう。ミルナが目線で「アキさん!わかっていますわよね!」と必死に訴えてかけてきたので、彼女の日常生活をありのまま伝えてやった。
そして現在に至るというわけだ。
「アキさーん!」
「怒られてこい。」
「そ、そんな!アキさん!酷いですわ!私はあなたの大好きな婚約者ですのよ!ですので私を助けるできだと思いますわ!!!」
まあ確かにミルナの事は好きだけど、その言い方はなんか気に食わない。
「いってこい。」
「そんな!?」
「ミルナミア!さっさと来なさい!」
「いーやーですわー!」
そして兄に引き摺られてどこかへ連れてかれるミルナ。
しかし数日前にも見たな、この光景。
そして前回同様、数十分後に憔悴しきったミルナが戻ってきた。
「おかえりミルナ。」
「うー・・・酷い目に遭いましたわ・・・だから来たくなかったのに・・・全部アキさんのせいですわ・・・」
「完全に自業自得だろ。これを機に生活を改善・・・」
「それは無理ですわ!」
ミルナが誇らしげに言うが、それは胸を張って言う事じゃない。まあ今更期待はしてないからいいんだが。
「アキ君。うちの妹がすまないね・・・」
ミルナの兄が申し訳なさそうだ。
「いえ、アレク兄さん、大丈夫です。」
ちなみにミルナの兄の名はアレクシス。ミルナとは違い、亜麻色の髪をしている。多分ミルナが母親、アレクシスが父親譲りなのだろう。あと付け加えるならアレクシスは滅茶苦茶イケメンだ。ミルナが美少女ならこっちは美男子。これも血なのだろうか?
「そうかそうか。」
アレクシスが満足気に頷く。多分アキが「兄さん」と呼んだのが嬉しかったのだろう。勿論この呼び方はアレクシスにそう呼べと言われたのでそうしているだけだ。先程自己紹介した際、「弟になるのだから是非アレク兄さんと呼んでほしい」とお願いされた。
「それでアキ君。」
「はい?」
「本当にこの妹でいいのかい?うちの妹は顔はいいけど性格がね・・・」
このやり取りも数日前にしたな。というかレインバース家にはミルナを紹介する時の定型文でもあるのか?父親も母親も兄も「顔はいいけど、性格が・・・」と言うんだが。
「お兄様!アキさんは私が大好きなんです!今のままがいいと言ってくださっているんですのよ!!変な事言わないでくださいませ!」
だからアキがミルナを大好きで仕方ないみたいな言い方はやめろ。
「そうなのかい?」
「ええ・・・まあそうですね。俺はぐーたらしているミルナが好きですよ。」
「アキさん!ぐーたらは余計ですわ!!!事実無根!事実無根ですわ!」
ミルナがぎゃーぎゃーうるさい。
「むしろ事実しか言ってないんだが?」
「ち、違いますわ!私は真っ当に生活していますわ!」
「じゃあ次にごろごろしているのを見かけたら婚約破棄でいいな?」
「まってくださいませ!?」
「じゃあ正直に言え。」
「わ、わかりましたわよ!私は!ミルナミアは!ごろごろするのが生き甲斐ですの!一生アキさんに養われながらごろごろしていたいのですわ!!!これでいいですわね!!!」
完全に開き直りやがった。
まあミルナはこれでいいんだけどな。
「はぁ・・・そうだよね・・・うちの妹がすまないね・・・」
「いえ、ミルナは確かにごろごろして自堕落な生活をしていますが・・・やる事はちゃんとやってくれますよ。冒険者としても優秀ですし、とても素晴らしい女性だと思います。ミルナが婚約者で俺は幸せ者です。」
「アキさん!!信じていましたわ!!」
さっきまで「アキさんの馬鹿!」とか睨んでいたくせに、満面の笑みで抱き着いてくるミルナ。平然と手のひらをくるりするこの速度だけは尊敬する。
「うん・・・まあ2人が仲良くしているならそれでいいかな。とりあえずうちの妹をよろしく頼むよ。でもあまり甘やかさない方がいいよ?ミルナミアはすぐ調子にのるからね。」
「はい、それは身に染みてわかっています。」
「お兄様!アキさん!!!」
ミルナがキッと睨みつけてくる。
「ははは、我が妹ながら怖い怖い。さてミルナミアを苛めるのはこれくらいにして・・・アキ君、相談があるんだが、いいかな?」
アレクシスが肩を竦めながら言う。