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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第三十一章 故郷巡り
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 なんとかして両親のところへ向かおうとするアキを必死に止めようとしてくるミルナ。というか何故そこまで嫌がるのだろう。もう家出の件については十分説教されたから怒られる事もないはずだ。


「何も言わずに出発するのは不味いだろ。」


 そもそもこのレインバースへ来た一番の目的はミルナの両親に挨拶する事だ。いくらその挨拶が済んだとはいえ、さすがに一言も言わずに出発するのはよくないだろう。それにせっかくミルナとの婚約を認めてもらえたんだし、今後ともミルナの両親とは良好な関係を築きたい。そう言う意味でもちゃんと挨拶くらいはするべきだ。


「だ、大丈夫ですわ!お父様もお母様も気にしませんわ!」

「そう言う問題じゃないだろ・・・」


 アキがセラストリアの立場だったらちゃんと挨拶して欲しいと思うしな。


「あれ・・・?」


 そう言えばミルナには兄がいたはず。だがレインバースに滞在中している間、結局1回も会っていない。もしかしてミルナ同様レインバースから離れているのだろうか?


「そういやミルナ・・・兄妹は?兄がいるって言ってなかったか?」


 レインバース領へ着いた日にミルナの両親へ挨拶しに行ったが、ミルナの兄はいなかった。エスタート爺さんの乱入もあり、聞きそびれてしまっていたが、ずっと気になっていたのだ。


「え、ええ・・・お兄様がおりますわよ。」


 ミルナがそう言いながらもの凄い速度で顔を背ける。


 ああ、なるほど。そう言う事か。


「おい、ミルナ、あれから実家に一切行かなかったのは兄に会いたくなかったからか。」

「ち、ちがいますわ!!!」


 てんで的外れな意見ですわとミルナが言うが、いつもの勢いがない。


「で、ほんとは?」


 アキが軽く睨むと、ミルナは観念したらしく、ぽつぽつと話始める。


「・・・まあ・・・そ、そうかもしれません・・・」


 ミルナ曰く、どうやら兄はあの日、仕事で外出していたらしい。やはり領主の息子、つまりセラストリアの跡継ぎともなれば、色々忙しいのだろう。そしてアキ達は偶然にもそのタイミングで領主館へ行ったと言う訳だ。


「じゃあ尚更領主館へ行くべきじゃないか?出発の報告とお兄さんへの挨拶をするべきだと思うけど?」


 次にレインバースへ来られるのはいつになるかわからない。もしかしたらミルナの家族と次に会うのは結婚式の時になってしまう可能性だって十分にある。


「必要ないですわ!さあアキさん!早く!早くソフィーの故郷へいきましょう!ソフィーのご両親が首を長くして待っていますわ!ですので今すぐ出発しましょう!」

「別に急がなくても大丈夫ですよー?」


 ミルナの意見をソフィーがばっさりと切り捨てる。


「ちょっとソフィー!あなたは誰の味方なんですの!!!」

「アキさんですー!」

「ソフィーのばかっ!」


 ミルナ、往生際が悪いにもほどがあるぞ。


「アキさん!早く出発しませんこと!?」

「うん、しないけど。」

「何故ですの!?」


 ミルナが悲痛な叫び声をあげる。


「なんで会いたくないのか教えてくれたら考えてあげる。」

「ほんとですわね!?」

「ああ。」


 考えるだけだが。


「ええ、それはもう私のお兄様は酷いんですわ!すぐ私の事を怒るんですの!『ごろごろしてないでちゃんとした生活を~』とか『食べてばかりいないで少しは体を~』とか口煩く言うんですわ!」

「・・・至極真っ当な意見だろ。」


 話を聞く限り、ミルナの生活態度を改善させようとしているだけの良い兄だ。アキとしてはもの凄くいい友達になれそうな気がするので是非会いたい。


「ち、違いますわ!何回説明すればいいですの!濡れ衣!濡れ衣なんですの!私は疲れを癒す為にのんびりしているだけですわ!」


 ミルナが力説するが、説得力が皆無だ。ミルナは大事な婚約者だから味方してやりたいところではあるが、生活態度に関してだけはさすがにフォローできない。


「わかったわかった。」

「そ、それならよかったですわ・・・」

「話は終わりだな?じゃあみんな、ミルナの実家に寄ってから出発するぞー!」

「「「おー!」」」


 アキがそう宣言すると、ソフィー達が元気よく返事をしてくれる。


「ちょっと!?何故ですの!!!今行かないって言いましたわ!!!」

「行かないとは言ってない。考えると言っただけだ。」

「それは詐欺!詐欺ですわ!!」


 子供のように駄々をこねるミルナ。


「諦めろ。」


 もう行くと決めたのだから絶対に行く。まあ兄との間にもの凄い確執があり、ミルナと会わせると不味いとかであればこのまま立ち去るが、そんな事もなさそうだ。きっとミルナの兄も妹に色々と言いたい事もあるだろうし、顔くらいは見せるべきだろう。それにアキとしても将来の義兄になる人には是非挨拶しておきたい。


「安心しろミルナ。ちゃんと俺がミルナを守ってやる。」


 出来る限りミルナの事は擁護してやるつもりではいる。


 まああくまで出来る限りだが・・・。


「ほ、ほんとですわね・・・?」

「まかせろ。ミルナが普段うちでどんな生活をしているか報告するくらいだ。」

「それだけは絶対!絶対にやめてくださいませ!!!」


 やはりぐーたらしている自覚はあるらしい。なら改善しろと思わなくもないが、言ったところで無駄だろう。もうミルナは無視でいいか。


「よし、出発するぞー!忘れ物はないな?」

「「「はーい!」」」

「まってくださいませ!!ほんとにほんとにお兄様には言わないでくださいね!アキさん!信じてますわよ!!!」


 信じられても困る。アキはありのままを報告するだけだ。


 まあ聞かれたらだが。

 挿絵(By みてみん)

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