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「まったくアキさんは口を開けばすぐ『もふもふしたい、させろ』なんですから・・・はぁ・・・」
ミルナが溜息交じりに呟く。
どうやら説教は終わりらしい。今日は案外短かった。
「それよりミルナ、両親への挨拶は済んだか?」
「あ、はい・・・大丈夫ですわ。」
スッとアキから目を逸らすミルナ。
この反応を見るに、大丈夫ではなさそうだ。
「ミルナ・・・初日に領主館に行って以来、両親に会いにいってないな?」
「それは仕方ないですわ!だってアキさんの案内があったんですもの!!!」
「確かにそうかもしれないが・・・暇な時間は結構あっただろうが。」
アキ達がレインバース領に滞在していた間、大半はこの海辺のプライベートコテージで過ごした。だからアキの案内があったというのは言い訳にはならない。
ちなみにほとんどの時間をこの屋敷で過ごしたのには理由がある。
それは街へ行くと大勢の人に囲まれてしまうからだ。勿論アキやベルが目当てではない。まあうちの子達は美少女だからそれもあったのかもしれないが、大半はミルナ目当て。領主の娘で、美人で、人当たりがよく、民衆に愛されているミルナ。そんな彼女が久々にレインバースへ帰って来たのだ。誰もが一目見ようと押しかけてくるのは当然の事だろう。
そんなミルナは嫌な顔一つする事なく、1人1人に笑顔を振りまいていた。ベルも王女として凄いと思ったが、ミルナもさすが領主の娘として育っただけはある。いつもはぐーたらしているだけのミルナを初めて凄いと思った。まあ素直にそれを本人に伝えたら「初めてってなんですの!私はいつも凄いですわ!」と文句を言われたが。
「ひ、暇ではないですわ!アキさんが色々と観光したいとおっしゃるので、手配とか根回しとか・・・色々忙しかったんですのよ!」
「まあそれは感謝してるけど・・・」
そんな人の目を集めてしまう状況の中、アキ達はレインバース観光を強行した。正直ここまで大騒ぎになるなら、しない方がよかったのかもしれない。ただせっかくミルナの故郷に来ているので、色々見ておきたかったのだ。それに自分の領地の事もあるし、見られるものは見ておきたいという思いがあった。
そしてそのレインバースだが、資料館や海以外にも色々と面白いものがあった。漁業、海産物の加工所、塩の生産工場など、他の街では見られないような場所が数多く存在した。そしてアキ達はその全てに足を運んだ。まさに気分は修学旅行の社会見学。しかもミルナのおかげで、どこもVIP待遇だ。普通だったら見られないところまで見学させてもらえた。
「そうでしょう!色々見られたのは私のおかげなんですわよ!」
「あと爺さんな。」
レインバースまでストーキングしてきたあの爺さんだが、当然アキが海辺のコテージでのんびりしている事は突き止められ、毎日一緒に行動する事になったのは言うまでもないだろう。そしてミレンド商会の会頭であるその爺さんがいたのも、色々とレインバース観光で便図を図ってもらえた要因の1つだ。
「わ、私も!私の方が頑張りましたわ!!!」
ミルナが目をカッと見開き、詰め寄ってくる。
必死すぎてちょっと怖い。
「いや、ミルナも頑張ったのはわかってるから・・・張り合わなくてもいいだろ。」
爺さんの力もあったんだという事実を言っただけで、そこまで怒るとは思わなかった。女心は難しい。
「ではちゃんと褒めてくださいませ!!!」
「わかったよ・・・ミルナのおかげで有意義な数日間だったよ。」
「そうですわよね!やっぱりそうですわよね!私のおかげですわ!」
確かにミルナのおかげで色々勉強になったのは事実だ。この世界の一般市民の生活水準や労働環境など色々と理解出来た。詳しく話すと長くなるので割愛するが、領地内政をするにあたり、参考に出来る部分は多かったと言えるだろう。
ただいちいち勝ち誇った顔をするはやめろ。あと今の話の論点はそこではない。
「話を逸らすな。なんで両親のところへいかなかったんだ?顔を出す時間くらいはあっただろ?」
観光と称してレインバース領を色々と巡ったが、夕方には切り上げたし、海辺のコテージでのんびりしている時間も多かった。そしてミルナがその間何をしていたのかというと・・・当然いつものように食べて寝てを繰り返していた。
「そ、それはあれですわ!アキさんを案内して疲れていたので披露回復に努めていたのですわ!」
もの言いようだな。だがそれを言われたら、あまりきつくは言えない。ミルナの案内が助かったのは事実だし、疲れたと言われればそれまでだ。
「わかったわかった。」
「ふふ、理解していただけたのならよかったですわ!」
また勝ち誇った顔をするミルナ。
だからその顔をするのをやめろ。鬱陶しい。
「じゃあ今から挨拶に行こう。」
「ま、まってくださいませ!?それはちょっと違うと思いますわ!!!」