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暫くしてエリスが戻ってきた。メイドが用意した服は白と赤のノースリーブのトップスに短めのタイトスカート。それに合わせるように白のオーバーニーソックス。今までの服と比べてずいぶんと女の子らしい服装だ。
「こ、こんな格好……くっ、殺せ。」
「エリス、可愛いね。やっぱり女の子らしい服装のほうが絶対良いって。」
リアルで「くっ、殺せ」って聞くとは思わなかったなとアキは苦笑しつつも、エリスの服装を褒める。実際、本当に可愛らしい。
「そ、そうか?」
「凄くいいよ。爺ちゃんもそう思うだろ?」
「おお、素晴らしいと思うぞ!」
エスタートも本当にそう思っているようで、孫を見るような優しい目になっている。アキはソファーから立ち上がりエリスの元へと近づく。
「ま、待つのだ!」
エリスは再度アキを制止しようとするが、アキは気にせずエリスの側へ行き彼女を撫でてやる。そのまま髪を少し手に取って彼女の香りを嗅ぐ。
「エリスいい匂いするよ。女の子の匂いだね。」
地球でやったらセクハラで事案になりそうな事だが、コンプレックスの塊だったエリスにはこれくらい言わないと治ったと自覚しないだろう。
「ほんとうに?いい匂い?」
「うん、もう大丈夫だから。」
そう言うとエリスは目に涙を浮かべて嬉しそうに喜ぶ。エスタートも少し泣きそうになっている。相変わらずの好々爺だ。
一応エスタートにもエリスの側まで来てもらい確認してもらう。
「ほんとに臭くないぞ!アキ!」
「ジジイ、女の子にむかって臭いとかいうな。殺すぞ。」
「す、すまん。今のはさすがに失言じゃわい。」
アキが威圧すると自分の言葉の選択ミスに気付いたのか、瞬時に撤回する。
「アキ、大丈夫だ。ありがとう。」
だがエリスは気にしていないようで、嬉しそうにしている。
「エリスがそういうならいいけどね。とりあえず座って話そうか。」
「ああ!もちろんだ!」
アキがソファーに座るとエリスも隣に座ってくる。正面じゃないのか。まあ、エリスはこの体質のせいで座って話すとかなかなか無かっただろうし、エリスの好きにさせよう。爺さんもそう思ったのか、苦笑しつつもアキ達の正面に座る。
「少しエリスの病気について説明するね。」
アキはわかりやすいように説明する。エリスの匂いの原因は汗ということ。生れつきのものでどうしようもない事。食生活などで改善は可能だが、完璧に治すのは難しい。だがアキが使った魔法であればほぼ治る。原因の元を破壊したのだから。
「遺伝かもしれない。両親のどちらか同じような病気じゃなかった?」
「ああ、アキの言う通りだ。」
「なら尚更エリスのせいじゃないから気にしないことだね。両親のせいでもないけどね。ただ匂いは100%消えたわけじゃない、かなり少なくなっただけ。エリスはそう言う体質だから一応気を付けておいた方がいい。」
「そ、そうなのか……ではまた?」
エリスが絶望した表情になる。
「いや、治療したから前のようにはならない、それは大丈夫だ。ただ食生活や私生活を少し気を付けよう。そうすればさらにいい香りになるからね。」
あと服装についても注意しておく。匂いを閉じ込めようとしての長袖だったのだろうが、あれだと余計汗をかくので逆効果だ。今みたいな風通しの良い服装の方がいいので、これからは女の子らしくするように伝える。
「わ、わかった。慣れない服だが頑張る。」
「可愛いんだし絶対そっちのがいい。」
今度は絶望から一転して嬉しそうな表情を浮かべるエリス。喜怒哀楽がはっきりしている子だなとアキは思う。
「そしてさらに悪臭の原因。根本的な原因は汗だ。でも匂いを促進させてしまう理由がいくつかある。冒険者で日常的に体を動かしているエリスの場合、考えられるのは2つ。食生活とストレス。」
ストレスについてはおそらく匂う、悲しい、匂う、悲しいの悪循環だったので今回ので取り除かれると考えられる。食生活は少し改善すればいいだけなので簡単な事だとアキは説明する。
「エリスは肉が大好き?別に食べなくても平気?」
「うむ、嫌いではないが特段好きってわけでもない。」
「なるほど。爺ちゃん、紙かして。」
アキは紙に緑黄色野菜や豆系の食材を使ったメニューをタブレットからいくつか書き写す。興味深そうにタブレットを見つめるエリスだが特に口は挟んでこない。
「いくつか料理のレシピ書いたから、一週間これで生活してみて。エリスは料理できる?」
「あ……少しくらいなら……。」
恥ずかしそうにするエリス。時折年相応の女の子になるのが可愛らしい。
「しばらくこの街にいるなら料理教えるし、爺ちゃんとこのメイドに作ってもらってもいいと思う。これでほとんど匂いはなくなると思うよ?」
「おお!ほんとか!」
「うん、それに今もいい香りだしね。エリスの匂い俺は好きだな。」
隣に座っているからか、さっきからエリスの髪からフローラルな香りがして鼻をくすぐってくる。
「そ、そうか……ありがとう。」
「じゃあこれで悩みは解決ってことでいい?俺の頼みの番でいい?」
「ああ!約束だからな!私に出来る事ならなんでもやるぞ!」
エリスが何でも来いと胸を張る。
「エリスにお願いしたことは3つある。」
「3つか!いいだろう。では1つ目は?」
「まず1つ目は俺と手合わせして欲しい。」
「こういっちゃ悪いが……アキじゃ相手にならないと思うぞ。」
「確かに実力はDくらいだと思うしね。まあ、目的と理由を聞いてよ。」
アキはミルナ達の目的、そしてその手伝いをしていることを話す。だからSランクの実力を知っておきたいので手合わせをお願いした。それに自分もSランクになる予定なので、Sランクのレベルを身をもって知っておきたいのだ。それに加えて闘技大会の情報などを持っていたら教えられる範囲で教えて欲しいということを伝える。
「ふむ、なるほど。とりあえずわかった。手合わせはこの後しよう、だが厳しくいくぞ。恩人だからこそ、アキにSランクになる資格があるかはっきり言わせてもらう。」
「それのほうが助かる。少し条件はあるけどそれで問題ない。」
「了解した。では2つ目はなんなのだ?」
「俺と友達になって?」
「そ、そんなんでいいのか?」
エリスは肩透かしを食らったようにアキに聞きなおす。
「それがいいんだ。」
「もちろん、喜んでなのだ。」
「ありがとう、で3つ目。」
「よし、こい!」
「友達になった事だし、今度街にケーキでも食べに行こう。」
そう言われてエリスは驚いている。でもアキが優しく微笑むと、全てを理解したようだ。
「ああ、もちろん!」
エリスは満開の花の様な最高の笑顔で微笑む。




