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「わーい!海ですー!!!」
ソフィーが叫びながら海へと突撃する。
しかしテンション高い・・・わけではないな。あれはいつも通りだ。
「アキ!早くしなさいよ!」
「そうだよ!遊ぼう!」
だがソフィーだけでなく、エレンやリオナまではしゃいでいる。正直こっちは珍しい。この2人がここまで楽しそうにはしゃぐのは滅多に見られない。
「元気だなー・・・」
アキは浜辺に置いてある椅子に腰かけ、ボソッと呟く。
勿論アキも遊ぶつもりではいるが、初っ端から飛ばしていたら体がもたない。というかあの子達の全力の遊びに付き合ったりなんかしたらすぐにばてる。冒険者組は体力が無尽蔵だからな。
「私達はのんびりいきましょう。」
そう言うのはアキの隣に座っているベル。
「です。のんびりしましょう。」
そしてセシル。
「そうだな、俺達は気が向いたら海に入るか。」
海での遊び方なんて自由だ。泳ぐもよし、浜辺で寝そべるもよし。それぞれが思い思いの遊び方をすればいい。
「エリザとルティアもこっちか?」
「ええ、さすがに若い子達の体力にはついていけないわよ。」
最年長のエリザは苦笑いを浮かべている。
「ん、アキといる。」
そしていつものようにくっついてくる小動物のようなルティア。
どうやらベル、セシル、エリザ、ルティアはアキの近くでのんびり過ごすと決めていたようだ。ソフィー、エレン、リオナは見ての通り・・・既に海に入ってはしゃいでいる。
そしてミルナとイリアは、ソフィー達に混ざろうか、アキの方に混ざろうか、決めかねているらしい。「うーん」と唸りながら砂浜をうろうろしている姿がちょっと面白い。まあ気持ち的にはソフィー達のようにはしゃぎたいけど、「馬鹿騒ぎするのは子供っぽいのでは・・・?」と躊躇しているのだろう。
最後にエリス。彼女は何故か砂浜で筋トレをしている。まあ彼女の行動については・・・今更説明するまでもないだろう。
「エリスは相変わらずだな。」
「そうですね。アキさん、冷たいお飲み物をご用意しました。」
そう言いながらアリアはジュースを渡してくれる。みんなが思い思いに遊んでいる中、アリアだけは仕事モードだ。
「アリアも適当に仕事は切り上げて遊べよ?」
こう言っておかないといつまでもアリアは仕事してそうだ。せっかく水着を着ているのだからアリアにも海を満喫して欲しい。
そう言えばミルナ達とアリアの水着が違う事について、アリアは「すぐに分かります」と言った。そして確かにすぐにわかった。
イリアへの説教を終えた後、ミルナやソフィーはすぐアリアの水着がお洒落で可愛い仕上がりになっている事に気付き、文句を言い始めたのだ。色々とあーだこーだ言っていたが、要約すると「ずるいですわ!私達のを作り直してくださいませ!」だ。それに対してアリアは「文句があるなら自分で作ってください」と当たり前の事を言い返していた。そしてミルナ達は当然のように「出来ませんわ!でもその水着がいいのですわ!ですので作り直しを要求しますわ!」と滅茶苦茶な理論を展開し、アリアに詰め寄っていた。
この場合、どう考えても正論なのはアリアなのだが、ミルナやソフィーがあまりに堂々と言い切るので、「ミルナ達の方が正しいのでは?」と錯覚してしまう。ちなみにエレンやベル達もどこか不満そうにしていたが、さすがにミルナとソフィーのように文句を言う事はなく、「作ってもらったんだし、仕方ない」と諦めていた。というか厚顔無恥な要求を平気で出来るあの2人が凄すぎる。
アリアはこうなると予想して、ミルナ達から逃げて時間を稼いでいた。ただ遅かれ早かれこうなるのだから、何故アリアは時間を稼いだのか。その理由は単純だった。
アキが合流するまで、気づかれたくなかったのだ。
アリア曰く、アキがいないところでミルナ達に文句を言われるのと、アキがいるところで言われるのとでは雲泥の差らしい。前者は相当ねちねち言われて面倒なんだとか。アキがいると、ミルナ達の文句もほどほどで済むらしい。
うん、なんというか・・・凄く納得した。
「しかしアリアもアリアだぞ?そうなるってわかっているなら自分の水着だけ可愛くするとかしなければいいのに。」
そもそもそんな嫌がらせをしなければよかったのに。全員の水着を可愛く仕上げてやれば済んだ話だ。きっとアリアにしてみれば大した手間でもないだろう。
「アキさん、私はアキさんだけのメイドです。それ以外の方へのご奉仕は当然代償がつきます。」
アリアが真顔でそう言う。
どうやらミルナ達の世話をさせると漏れなく嫌がらせがついて来るらしい。そしてその尻拭いさせられるのはアキというわけだ。まあ今回も最終的にはアキが「みんなの水着も可愛い。それよりも海で遊ぼう」と場を諫める羽目になったわけだしな。
「もの凄く嫌なシステムだな・・・まあいいけどさ。今更だし。」
「恐縮です。」
アリアがご迷惑をおかけしますと頭を下げる。
悪いと思っているならやらないで欲しいものだ。
「それよりアリア、さっきも言ったけど、適当に仕事を切り上げて遊べよ?」
「え、あ、はい・・・ではアキさんが遊ぶときにご一緒します。」
「わかった。じゃあ後で一緒に泳ごうか。」
「はい。ただ泳いだことないので教えて頂けると・・・」
遠慮がちにアリアがそう呟く。
さっきからアリアがずっとメイドをしていたのはそういう理由もあったらしい。泳げないから、海で何して遊べばいいのかわからなかった・・・と言う訳だ。
「いいよ。」
もちろん泳ぎを教えるくらいは問題ない。まあアキとて別段上手いわけではないが、普通に泳ぐことくらいは出来る。