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異世界の観察者  作者: 天霧 翔
第五章 王都ミスミルド
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8

 その後の3日間は冒険者協会で依頼を受け、魔獣討伐をこなした。討伐依頼は問題なく完了し、アキは無事Bランクまで昇格。情報収集については特に有用な物はなく、闘技大会に出るようなAランク冒険者の情報も集まらなかった。闘技大会の申し込みが締め切られてからでないと効率が悪そうだ。明日からは対人訓練と本格的な情報収集の予定だが、先に言ったように何か別の案を考えなければ情報は集まらないだろうとアキは考えているので、今夜にでもセシルと相談する予定だ。


 とりあえず4日目の今日は、エスタートとの約束があるのでアキは爺さんの屋敷へと向かう。他の皆にはまた買い物でもして来いと伝えておいた。先日の件があったので今日こそは色々買ってきますと皆張り切って出かけて行った。


 屋敷に到着し、メイドに案内されて爺さんの書斎へと向かう。


「爺ちゃんきたよ。」

「おお、待っておったぞ。会わせたい人物も既にきておる。アキ、頼んだぞ。」


 雑談することもなく爺さんは待ち人の部屋へとアキを案内する。そんなハードル上げられても困るが、とりあえず会ってみてから考えようと、特に爺さんに意見することもなく彼の後に続く。


「ここじゃ。覚悟しておくのじゃ。」

「そういう割には事前説明一切なし?」

「自分から話すから一切言わないで欲しいと言われての。アキは会話から情報を勝手にもっていきよるからの……それなら何も言わない方がいいと思ったのじゃよ。」


 なるほど、ある意味自業自得な部分ではある。とりあえず爺さんに続いて扉の中に入る。入った瞬間少し違和感がしたが、特に気にせず部屋を見渡して紹介したいという人物を探す。


「ん……あれは。」


 アキが呟く。視線の先に居たのは、窓を開け、長い金髪を靡かせながら外の景色を眺めている金髪碧眼の美少女。先日、街中で言い争いをしていた子だ。入室したアキ達に気付いたのか彼女はこちらを振り向く。


「エスタートの爺さん、そちらが私に紹介したいという人か?」

「そうじゃ。約束通り何の説明もしておらん、むしろ何も言わんかったわい。」

「そうなのだな。ではまず自己紹介しようではないか。」


 彼女はそう言うとアキの方を向き一礼して名前を述べる。


「私の名はエリスアレイ・フレイル。歳は17。エスタート爺さんの遠い親戚だ。冒険者をやっている。ランクはS。」


 彼女の言葉を聞き、アキも自己紹介をする。


「アキです、18歳。冒険者Bランク。よろしくお願いします。」


 あまり堅苦しい挨拶は好まなさそうだったので砕けた感じにしておいた。Sランクときいて少し驚いたが、顔には一切出していない。いつも通りのポーカーフェイスだ。しかし爺さんの言っていた意味がわかった。仲良くできれば確かにアキに対するメリットは大きい。


 アキはとりあえず部屋の中央にあるソファーに座る。テーブルの上にはレモンティーがおいてある。少し酸っぱい匂いが鼻をくすぐる。エスタートは扉の隣で待機して2人の話を聞くつもりらしい。会話に入ってくる気はないようだ。


「ではエリスアレイさん、早速ですが……。」

「エリスでいい。あといつもの口調で構わない。」


 エリスがアキの言葉を遮る。


「それでいいなら。じゃあエリスで。」

「ああ。しかし君は驚かないんだな?」


 エリスはちょっと意外だという顔をする。


「俺の事はアキでいいよ、で、何に?」

「わかったアキ、いや私の事に。」

「いや、綺麗な人だなとは思ったよ?」

「あ……いやそうではなくて。そのSランクで女という事に。」


 照れているのか少し戸惑ったように返事をするエリス。


「Sランクなのは凄いと思うけど、別にSに男とか女とか関係なくないか?」

「そ、そうだな!変な事を聞いたのだ!」


 アキは適当に頷いておく。彼女が何を思ったかなんてアキは既に見抜いているが、指摘するほど野暮ではない。


「爺ちゃん。」


 ただこれ以上話を進める前に念の為に1つ確認しておく必要がある。


「なんじゃ。」

「エリスは信用できるんだよね?」

「ああ、わしの商会を賭けてもいい。」

「それだけ聞けば十分。」


 爺さんが信用しているなら問題ない。


「じゃあ本題。悩みがあるからなんとかして欲しいってことでいい?」

「ああ、合っている。」

「解決できたら俺の頼み聞いてくれる?」

「もし本当に出来たらな。私に出来る事なら何でも協力するぞ。」


 エリスがどうせ無理だろうけど、と小さく呟いたのをアキは聞き逃さなかった。無理と言われると逆に燃えるのは元研究者としての性なのかもしれない。


「そ、それでは早速私の悩みなのだが……。」


 エリスが言い終わる前にアキはソファーから立ち上がりエリスの方へと近づく。


「く、くるな!そこで聞いていてくれ!」


 エリスが焦ったようにアキを止めようとする。だがアキは止まらない。


「待つのだ!」

「エリス、大丈夫。わかってるから。」


 アキは静かにそう言って、表情を一切変えないでエリスの隣に移動して窓の外を眺める。


「いい風、今日は気持ちいいね。」


 アキは目を閉じ、深呼吸して風を体で感じる。


「アキ……?大丈夫なの……か?」

「だから大丈夫だって。外套もとりなよ。」

「ま、待て!」


 アキは戸惑ったエリスの外套を奪い取る。アキが隙を見てSランク相手にそんなことが出来るなんてどれだけ焦っているんだか。外套の下は長袖に長ズボンをはいており、色気も何もないただただ暑そうな格好をしている。


「アキ!なにをする!」

「なにって、暑いでしょ。」

「そ、そうだが……大丈夫なのか?」

「だから何が?大丈夫だって。」

「え……でも……そんな……。」


 エリスの悩みはもうわかっている。部屋に入った時点で全て察した。爺ちゃんが自分に話をした際「香水を提案したアキなら」と前置きした。つまり匂いに関する可能性が高い事は何となく想像がついていた。そして部屋に入った時の違和感、それはちょっと酸っぱい匂い。エリスはいわゆる腋臭なのだろう。それもかなり重度の。若くて可愛い女の子なのに可哀そうにとアキは思い、一切顔には出さない様にしていた。


「何も言わなくていい、大丈夫。なんとかできると思う。今まで辛かったでしょ?エリスは頑張ったんだね。」

「あ……うん。」


 エリスは気丈だった口調を崩し、少しだけ少女らしい一面を見せる。


「エリス。君のそれは病気なんだ。君のせいじゃない。」

「そ、そうなのか?」

「ああ、魔法使うが、俺を信じてくれるか?」


 アキがそう聞くと、エリスはコクンと頷く。


「この部屋に入ってから嫌な顔一つしなかったアキなら信じられる。」


 アキはエリスの頭に優しく手を置いて撫でつつ魔法を行使する準備をする。実際地球でもこれに悩んでいた人が沢山いたし、治療方法も確立されている。そもそもの腋臭の原因はアポクリン腺という汗腺から出る汗にある。アポクリン線の数は生まれつきで決まるので、おそらくエリスはその数が多いのだろう。地球では手術などでアポクリン線を破壊したりして腋臭を抑える方法がある。魔素を使えば同じことができるかもしれない。


「特殊な魔素の使い方をする。爺ちゃんが信じられるといったエリスになら見せても問題はない。じゃあ行くよ。」


 アキは手に集中する。アポクリン線の位置は大体決まっていて、体の一部にしか存在しないと言われている。腋や外陰部などだ。アキは表皮、真皮、皮下脂肪を想像し、そこにあるアポクリン線を破壊するよう魔素にイメージを伝達。実際は皮弁法手術で切開して取り除くのが一般的だが、魔素を使えば細胞破壊なども容易に出来るはずだ。治癒魔法は細胞の再生を活性化させるだけで魔素の消費はそれほど多くない。これは再生の逆の破壊なので同量で済むはず。アポクリン線の破壊をイメージし魔法をエリスに対して行使する。


「多分これで大丈夫。」

「え……?もう?」


 エリスが戸惑う。こんなに簡単に終わると思ってなかったのだろう。


「うん、とりあえず確認したいし風呂に入って汗を流してきて。」


 アキはエリスにそう伝えると、爺さんの方を向いてお願いする。


「爺ちゃん、エリスに風呂を貸してやって。あともっと女の子らしい、可愛くて涼しい服の用意を。」

「う、うむ。メイドに伝えよう。」

「アキ!そ、それは!」

「大丈夫、大丈夫。ま、騙されたと思って。」


 エリスがメイドに連れられて出て行ったのでアキはソファーに腰を下ろし、帰りを待つ。


「末恐ろしい孫よの。」

「そう?」

「何が凄いって部屋にはいって表情一つ変えなかったことじゃ。このわしでも無理な事を。」


 だから爺ちゃんはずっと扉の近くにいたんだな。確かに慣れてない人にはきついだろう。でも地球じゃそんな珍しい病気でもなかった。むしろ周りが反応しないから気付かない人も多かったんじゃないだろうか。それに比べてこの世界は恐ろしい。多分はっきりと「臭い、消えろ」とか言われるんだろう。


「これ以上あの子を悲しませたくないもの。」

「ふはは、やはりアキを商会あげて支援することに決めたのは正解じゃったわい。」

「乗っ取るぞクソジジイ。」

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